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俺はお嬢様が恋をしたことに気付いていない  作者: 海原羅絃
第5章 バレンタインと元彼とお嬢様
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第六話 依頼

 バイトを終えて帰宅すると八時過ぎだった。

 クリスマスの時みたいにドッとしたような疲労感はなく、気分的には部活帰りの高校生だ。

 飯もあらかじめ用意しておいたものを電子レンジで温めるだけだったからわざわざ作るなどの手間は省けた。

 シフトは今週あと三日あるからそのシフトの時間帯を考慮して夕飯を作らなければならない。

 最近、貧相なものしか口にしていない分何かと油ものが食いたい今日この頃だ。

 たとえば唐揚げ。

 スーパーに撃っているものを食べればいいと思うけれどそこはやっぱり誰かに作ってもらったものがいい。

 とは言っても誰も作ってくれる人はいないんだけれど。

 理想は彼女なんだけれど生憎俺にはそのような人物がいまだ存在しないのである。

 不覚にも林俊哉に裏切られ、おそらくこの先のイベントはどうせ俺は一人ぼっちなのであろう。

 そう考えているとふいに鈴川の顔が思い浮かんだ。

 でもあいつの料理じゃ料理と呼べねえからな。元が元ともいうし。

 そういや夏休みに俺ん家に来て冷やし中華食ったんだっけな。

 今日みたいな日が一体幾日あったのだろうか。

 しみじみ思い出深く感じてしまう。

 いつもはボケ突っ込みの会話と鈴川の悪性な言葉を聞くなり俺は言葉を入れるっていうのが大抵の会話だった。

 一日二日こうなるとこうも寂しくもなるものなんかな?

 「まぁ、自然と戻るだろ」

 そんな風に思ってもよかったのかその時はそう思わなかった。

 自覚はしてはいないが、こうして釈然としていればいるほど、俺は後々後悔した時に悔むのであった。








 鈴川蘭は自室の窓辺で星空を眺めていた。

 予報では夜は晴れると言っていたものの空には所々雲がかかっていてあまり星が見える状況ではなかった。

 空にはオリオン座にカシオペア座などの星座が所々だが見える。

 夜風が吹き付けているけれど冷たく感じはしない。

 今日も彼とは話さなかった。

 話したくても話せるような雰囲気ではない事くらい彼女は分かっていた。

 玲音レオ君に何を言われたのだろうか。

 利華と何があったのだろうか。

 知りたくても彼女に知る由はない。

 知ったところでどうしようもない事くらいは分かっている。

 利華と瑠奈とはバレンタインの相談をしなければいけないのに今はそんな状況じゃない。

 視線を机に立てかけられている写真立てに移す。

 小学生くらいの男女数人が三列で並んでいる。

 全員道着を着ていて左右には当時の師範代でもあった剣道の先生たちがいた。

 見るからにどこかの剣道チームの集合写真だろう。

 その中で、二人。

 竹刀を杖のようにして当時師範代だった先生に頭に手をポンと置かれた少年にその横で笑顔でいる少女が目に入った。

 女の子と同じで無邪気な笑顔。誇らしげな顔をしているその少年は彼女にとって助けられた人物でもあり、助けた人物もである。

 あれからどれぐらいの月日がたったのだろうか。

 あの出来事以降、彼とは一度もあっていない。

 そしてあくる日、私は高校の入学式で彼を見つけた。

 彼を見つけ、理事長である祖父に確認を取ってもらった。

 渡された書類に目を通すと一目瞭然。

 証明写真で笑っているその笑顔は昔とは変わらなかった。

 幸い、同じクラスになれたものの、彼と接触できる機会なんてありはしなかった。

 わざとらしく集会のとき彼の隣に座ったり、お昼も彼の傍で食べたり、その事情を知っていた利華とは昔の話をしたりと手の施しはしたが全然気づいてくれなかった。

 しかし、そんな非合理的なものではな彼には気づいてもらえないと分かったのは入学して六月の事。

 そして私は考えた。

 偶然の出会いをすればいいのだと。

 いきなり話しかけられても学校では注目の的であった私が話しかければ女の子に興味なさそうな彼は逃げてしまいそうだと考えていた。

 だから、偶然、偶々、必然ではない、単なる偶然の産物をして彼と接触したかった。

 そして、事は成功した。

 屋上から飛び降りるなどの大胆な作戦は一歩間違えれば死に至るところを彼は素早く反応して私を受け止めてくれた。

 ついでに私の事もすばやく気付いてほしかったと思っていたけれどやはり朴念仁は朴念仁だと思った。

 彼はまだ私のところを覚えていないかもしれない。

 だから決めたのだ。

 彼がしっかりと私のことを思い出したときがその日だと。

 だからもうすこしこの気持ちは抑えておこうと心に打ちとめておくのだった。

 









 三日後、とうとう二月に入った。

 二週間後には女子たちにはお待ちかねのバレンタイン。

 しかし、モテない男子たちにとっては悪魔の十四日が待っているのである。

 ちなみに俺はチョコを貰いたくても貰えないと既に悟り開いているのでそこまで妬ましく十四日は待たない。 

 問題は獅子堂の言っていた勝負。

 あれからだいぶ日が経っているけれど何にも云われないからもう放棄してもいいか迷ってしまいそうだった。

 でも鈴川や賀川とも何とかしなければいけない。

 俊哉は大丈夫だって言ってくれているけれど俺にはそうも見えない。

 あいつもあいつなりで説得しているに違いない。

 俺も俺なりに・・・・・・

 


 という事できてしまったわが『青春乙』の部室前。 

 ここに来たのは先週だろうか。

 あんなことあってから言ってないのもあれだけれど今の今までサボっていた俺がいきなり顔を出したら変な目で見られそうで正直怖い。

 とりあえず入ってみるか。

 俺は恐る恐る引き戸に手を当てて戸を引いた。

 目を瞑っていたから明けた瞬間の反応なんて知らなかった。

 けれど目を開けるとそこにはテーブルを囲んでなんやら談笑をしている人たちが。

 しかも中央には一枚の紙切れ。

 それに見慣れない人もいる。

 えっと・・・・・・・これは何でしょうか?

 なんて聞いても答えられる人はいるのか。

 いや、それ以前に俺の質問を聞いてくれる人はいるのだろうか。

 ああ、なんか怖くなってきた。

 「あれ、蓮司じゃん」

 田中が第一に声をかけた。

 「久しぶり」

 「早く座れ、話が進まねえ」

 大野、佐藤の順。

 「ちょうどよかった。お前も協力してくれ」

 そして俊哉が俺に声をかけてきた。

 ちなみに女性陣は俺を見るなりぷいっとそっぽを向いた。

 あれ、今日は鈴川居ないんだ。

 「蘭なら元彼さんとどっか行ったわよ」

 やけに元彼の部分を強調する賀川さん。

 しかも怖い顔をしてるけれど・・・・・・

 やっぱり俺のせいですね。

 思わず土下座しようと思ったけれど返って逆効果な気がしたからやめておくことにした。

 「で、話ってなんだよ。なんか見慣れない人もいるみたいだし」

 「それだよ」

 それってなんだよ。

 「これ見てみ」

 と言われ渡された紙を見てみるとどうやらご意見箱のなかに入っていたものらしい。

 文面は以下の通り。

 【バレンタインで告白したい男子がいます。『青春乙』のみなさんにご相談があるので今度そちらへお伺いします】

 という訳だ。

 うーん、バレンタインに告白したい男子がいるなんて偉いロマンチックなやつだな。

 思えば非公開だったこの『青春乙』も確か文化祭での一件で何とかなったんだっけな。

 まさかこのタイミングで来るもんなのかな。

 「で、確か古川実幸さんだっけ?」

 「はい」

 「単刀直入に言うけれど告白したい相手って?」

 単刀直入すぎるだろ。

 「加賀架・・・・・君です」

 加賀架って、確か俊哉の情報でランクインしていた男子じゃ・・・・・・

 確か一組だった記憶がある。

 「んー、さすがの架君でも難しいな。ちょっと情報収集なりやってみるから古川さんは何か接点があることがある?」

 「同じ中学で・・・・」

 尚更じゃねえかよ。普通に話せよ。

 「そんなことは個人でやってくれる?」

 この声は俺の声じゃない。賀川のだ。

 頬杖をついて古川さんをにらみつけている。

 「こっちもこっちで誰かさんが意地っ張りのせいで取り込まなければいけない事だってあるのよ。同じ中学なら同じ中学同士話せるでしょ?わざわざうちらに頼むことなの?」

 おい、待て。聞き捨てならねえこと言ってんじゃねえよ。

 完全に俺の事じゃねえかよ。

 ピリピリする賀川の気持ちは分かるけれどさすがにそこまでいう事はないだろ。

 「おい利華、何もそこまで言わなくてもいいだろ」

 「そこまでも何も、自分の恋路を他人に協力してもらうなんて虫が良すぎるんじゃないの?」

 カチン。

 これには正直黙ってはいられない状況なのかもしれない。

 でもここで俺が口をはさむと余計に事態が悪化する。

 ここは俊哉がなんとかするはずだ。

 「でも・・・・・」

 古川さんは完全に戸惑っている。

 「分かったのなら出ていってちょうだい」 

 ガタン。

 俺は立ち上がり、中央に置かれている依頼用紙を手に取る。

 ペンを塵取出し、そこに『青春乙』のサインを入れた。

 その光景に一同は驚愕の表情。

 「俺が引き受ける」

 「おい、蓮司。いいのかよ」

 「これは青春乙に与えられた依頼じゃなくて俺への依頼だ。文句は一切受け付けねえぞ」

 俺は賀川の顔を見る。

 「かってにしなさい」まるでそういうかのようにそっぽを向く。

 「あの・・・・・」

 「?」

 「ありがとうございます!!」

 「ああ、いいんだよ。別に」

 俺は謝礼の意を受け止めるも恭しい仕草をする。

 そんな光景を見て、賀川に、無口だった春富が気持ちがよくなるはずがない。

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