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俺はお嬢様が恋をしたことに気付いていない  作者: 海原羅絃
第4章 クリスマスとお嬢様
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第三話 アルバイト開始

 放課後。俺は求人募集の広告を片手に街を歩いていた。

 今日は『青春乙』の部活がないためちょうど都合がいい。俺はバイト先を決定し、今から面接しに行くところだ。

 ちなみに学校に提出するバイト了解用紙と言われるものはとっくに提出済み。担当の先生も難なく俺の動機に理解してくれた。

 あとはそのバイト先で面接が受かればいいだけだ。

 俺はあれからコンビニバイトにしようと決めた。

 レストランのバイトもいいと思ったけれどここからじゃ家から反対方向だし鈴川の家からも近いと理由でパスさせてもらった。

 ホントは調理の方を担当したかったんだけれど、生憎調理をするのにあたって調理師免許を決められた度合いで持っていなきゃいけないらしい。

 そいうわけで俺んちから徒歩十分で着くそのコンビニは、店長の気前が良く、それに合わせてバイトの人たちもいい人ばかりらしいとどちらも俊哉からもらった情報だ。

 普通ならばそこから家が近い俺の方が知っているのだけれど、あまりコンビニに行ったことのない俺にとっては必要以下にその情報網が不足している。

 いつもはコンビニではなく普通にスーパーで買ったものを家で調理するという、要は内食というものを俺はとり行っている。

 それでもあまりコンビニを利用したことのない俺にとって店員の人もいい人たちばかりというのならばそれはそれでいいだろう。

 あまり利用回数は関係ないと思うけれど。

 そんなことを思いながら俺はコンビニまでの道のりを歩いている。

 これで面接が通れば早速今日から仕事となる。確か初回待遇で一時間930円とかここに書いてあったよな。

 それなら多少の稼ぎにはなる。

 今からクリスマスのぎりぎりまで、今日を入れてまだ二週間の猶予はある。その間に生活費を含めたプレゼント代を確保しなければならない。

 単純計算すれば、今日午後五時から夜の八時までバイトをしたとすれば、時給930×3で2790円の稼ぎとなる。

 それを合わせてこれから二週間のバイト代を入れる。

 土日は基本一日中できるかもしれないからこれは結構いい稼ぎになるかもしれないな。

 となると、平日は午後四時からいけるし870×4で3480円の稼ぎ。更にそれを二週間だ。そうなれば余裕で生活費とプレゼント代を確保できる。

 となるとあとはクビにならないように頑張って働くするしかない。

 そんな未来のことを考えながら俺はいつもの帰り道をずっと歩いていき、帰り道とは違う道を通り、コンビニへと行く。

 路地裏。というほどでもないけれど、駅通りから少し向こう側へ行ったところに俺が求めていたバイト先のコンビニがあった。

 コンビニの前だというのになぜか緊張する。

 「よし、第一印象からが大事だ」

 気合を入れるため頬を自分の手ではたく。

 うん、これなら大丈夫だ。

 俺は悠々とした姿勢でコンビニの中へと入っていく。

 「いらっしゃいませー」

 気前のいい声が店内に響く。

 店内には四人の店員がいる。

 一人はメガネをかけて髪の毛を茶髪に染めた女性がレジに。

 もう一人もレジにいて学生らしき人がレジにたたずんでいた。

 もう二人は品物が陳列されているところで商品の補充をしていた。

 うう、なんか個性的な人たちがいそうな場だな。

 けれどここで引き下がるわけにはいかない。俺はここでバイトすると決めたんだ!!

 という訳で俺はレジにいるお姉さんに声をかけた。

 「あの、バイトの面接をしたいのですけれど」

 「ん?面接か。ちょいまち、店長呼んでくるから」

 不思議そうな顔をして女の人は事務場へと行ってしまった。

 大丈夫なのか。レジをあけてしまっても。

 しかし俺が心配するほどの時間を待つわけでもなかった。店長と呼ばれる人は事務場からひょっこりと顔を出していた。

 しかしなぜこんな冬場にグラサンなんてかけているんですか?

 思いっ切り突っ込みたいところだったけれど敢えてしなかった。だって初対面な人に失礼なことを言っちゃいけないのは当たり前のことでしょ?

 「おお、君がバイトの面接をしに来た子?ほれほれ、こっちに入って」

 俺は手招きされるけれどどこから入れっていうんだよ。

 「あのう、裏側から回ればいいんでしょうか?」

 「いやいや、こっから入ってきていいよ。うん。何の何の気にしないで」

 なんか日本語がちょっくら可笑しい気がするんだけれどそれは俺の国語能力がないせいだと心の中でそっと語っておこう。

 俺は手招きされた通り、レジ横の小さな扉を潜り抜け、事務場へと入る。

 事務場はいくつもの長机が並べられていて、そこにはざっと数えて10個ほどのパイプ椅子が並べられていた。

 「それじゃあ、ここに座って」

 促された通り、俺は座る。

 神妙な空気だな。前期選抜の面接みたいだぞ。

 「さて、始めようか。履歴書とか持ってる?ないなら学生証ならいいんだけれど」

 「どちらも持っています」

 「じゃあ、学生証でいいかな?履歴書なんてめんどくさい見るの。もし書いてきてしまったのなら店もらってもいいんだけれどね」

 「あ、今日履歴書は持ってきていないです」

 「そう、なら学生証で十分だ」

 ホントにいいんだろうか。コンビニでもきちんと履歴書は取り扱うものかと思ってた。

 でも学生証でいいんならこっちも好都合だ。相手の方も楽だと思うし。

 言われるがままに俺は学生証を取出し渡す。

 「へえ、笹野川の生徒なんだ。こっから近いしいいね。じゃあ、始めようか。このコンビニ以外で働いたことはある?」

 「いいえ、ここが初めてです」

 働くと言っても業務的な意味ではないが家庭的での働きは毎日している。

 なんて言っても意味ないだろうけれど。

 「じゃあ、接客・・・と言ってもここが初めてなら、人見知りとか激しい方?」

 「いや、そんなに激しい方ではないですし、初対面の人たちなら話そうと思えば話せます」

 「なら安心だな。じゃあ、最後。

 バイトを始めようと思った理由は?」

 最後の最後でやっぱりこの質問。けれど嘘をつくのもあれだけれどホントのことも言うのも何かと抵抗を感じられる気がする。

 「自分、家庭的な事情で現在一人暮らしなんです。唯一の肉親である兄からの支給にいつまでも頼って居られるわけにはいかないからです。それに・・・・・・あと」

 「何かね?」

 「大切な人に届けたいものがあるのです」

 それは、あいつへの日頃の感謝を込めた贈り物をするため。

 いつもマイペースで人を簡単にはめて面白がったり訳も分からない部活を作るはと考える子おtが何かと把握できないあいつだけれど何かとあいつには感謝している。

 だって前よりも学校生活が楽しくなった思えてきているから。

 「君の働きたいという熱意がよく伝わってきたよ。よし、今からこのコンビニでは君を採用することに決定した」

 「ホントですか!?」

 「ホントも何も、ここで嘘をついてどうするというんかな?」

 そうだよな。店長がそんなところで嘘ついてどうするっていうんだよな。

 ひとまず受かったんだ。安心できる。

 「という訳でこれが制服ね」

 渡されたのはこのコンビニの制服。赤っぽい色を強調としたその制服はどことなく彩が綺麗と感じた。

 「で、これがネームバッジね。他の店員さんからは僕の方から伝えておくから気軽に仕事してくれよ。まずが商品棚の整理から行こうか。あそこは現在大学を二浪中の矢幡君に教えてもらいたまえ」

 店長。一部要らない情報混じってますよ。

 おそらく今度俺の後輩にあたる人が着たらおそらく『~の瀬原君』をか二つ名まで添え合わせてもらって紹介されそうで怖い。

 若干の冷や汗をかきながらも俺は例の商品棚へと行く。

 「あのう・・・・・・」

 俺は恐る恐る矢幡さんらしき人物に声をかける。

 ぼさぼさの髪にクセっ毛が一本ぴょいと立っているのが印象的なのかもしれない。

 「ああ、店長から聞いているよ。新入りさんじゃん?すこし説明が雑でしょうがないけれどこれを賞味期限や消費期限が新しい順に奥へどんどん詰めてくれないかな?

 それとパン類とかは別にいいからお弁当系とかそうしてくれない?じゃあ、終わったら声かけてね」

 「あ、はい」

 雑な説明どころか、めっちゃわかりやすくて理解するのにいつもの半分しかかからなかったことが自分でも驚きであるんだけれど。

 やっぱりこういうの仕事なれというのだろうか。うーん、ベテランに見えるんだけれど大学生っぽいように見えるしなあ。

 俺は何段にも重ねられたケースの二つを取り、お弁当コーナーへと行く。

 賞味期限をすぐ確認し、判断したところで俺は陳列棚へとどんどんおいていく。

 これぐらいは毎日、肉や魚を買うときに即座に見極められるようになったのが便利になった。

 数十分たってから箱は空になり、次のトレイを持っていく。

 パンコーナーであったけれど適当に並べては意味がない。しっかりと賞味期限を確認してから俺は順序良くパンを置いていく。

 これも数十分とかからず終わってしまった。

 「あれ、早いね。新人君」

 「あ、はい。これくらいなら自分もよくスーパーでやっているので」

 「へえ、前はスーパーで働いていたの?」

 「いいえ、よく買い物するときに賞味期限の差とか気にしているのでそれの影響なのかもしれないですね」

 「こりゃあ俺も助かるよ。これからもよろしくな。俺は、矢幡幸平だ。よろしく」

 「よろしくお願いします。矢幡さん」

 俺は差し出された手をがっちりと握手した。











 午後八時十分。俺は暗く冷え込んだ帰り道、きれいな封筒を大事そうにポケットに入れて家路をたどっていた。

 初回待遇で時給930円の仕事を三時間こなしたので、バイト代は930円の三時間分の計算となる。

 あれからレジを担当したりと成しもしないと思っていたことをやる事になり、戸惑ったが、これがやってみると案外楽しい。いや、レジはホント楽しいと俺は改めて思った。 

 確かにお金を間違えるというそれなりの恐怖感はあるのだけれど、それだからこそお客様のいい顔を見られるとなれば働き甲斐があると思われる。

 これで夕飯は朝作っておいたものをレンジでチンすればいいものだから、手軽だ。

 夕飯の事を考えながら携帯をいじっていると、バイブレーションが俺の掌の上で震えた。

 この振動からして電話であり、この時間帯だと、その電話の相手はまずあいつしかいない。

 「やっぱりか」

 そのやっぱりと俺がつぶやいた人物は鈴川。

 どうせろくでもない事だろうけれどもしこいつにバイトの事がばれたらと思うけれどそうでもないんだけれどな。

 出るか出ないか。

 けれど出なければ後のことが・・・・・・前もなんかあったな。出なかったらどうかと。

 でも鈴川の事だ。前よりも・・・・

 と考えているうちに着信は途切れ今度はメールの方の着信が響いた。

 送信者は鈴川。

 なんだよ。電話は止めてメールでもしようってか

 【件名 にょほ】

 【きれば私があなたに対する憎しみが大きくなるわ】

 なんと不気味なことを。

 ってかどこから見てんだよ。

 たかが電話に出ないだけでんなこと言うなよ。

 するとまた着信音が響いた。

 今度は電話。

 「しょうがねえな」

 俺は仕方なく電話に出る。しかし第一声からひどいものだ。

 『今日はそこで寝なさい』

 「いきなりそれ!?ってか俺今日からホームレスかよ!!」

 『大丈夫よ。拾ってくださいってわら半紙にちゃんと楷書で書いてあげるから』

 「達筆でなんてそりゃあ有難いな」

 『感謝しなさい。ボールペンだから』

 何の意味があるんだよ!?

 大声で叫びたいのだけれどここは住宅街だ。叫んだら周りから何を言われるか分からない。

 にしてもこいつは何の用があって電話してきたんだよ。

 「何の用で電話してきたんだよ」

 『そりゃあもちろん瀬原君が今どこで何をしているのか、はたまたどんな女と遊んでいるのかちょっと近況を教えてもらおうかと思って』

 「お前途中から変なこと言っているよな?途中から人を変なやつだとみていねえか?」

 『あら、私の目が節穴だというの?」

 「当たり前だ!?」

 『いやらしい!!』

 「どこがだよ?」

 『こめかみのあたり?』

 「何が?しかも疑問形で来た!!」

 ああ、これじゃあ埒があかない。いつになったら家につくんだろう。

 徒歩十分のはずなのに家までの距離が遠い。

 アメリカの路頭に迷った人みたいだな俺。

 『それじゃあ、本題ね。明日部活でクリスマス会についてみんなで話し合うわ。時間があるのなら来てほしいんだけれど』

 クリスマス会ね。なんかクラスで盛大にやろうっていう話にもなっているらしいしいろいろと大変だな。

 「悪いけれど俺今週から急な用事が出来て部活出れねえんだ。休日ならいいんだけれど」

 『あら、そうなの。じゃあ、また話がまとまったら休日にやるからその時は時間を空けておくようにしてね』

 「わかった」

 はぁ、とため息を吐いて俺は通話を切った。

 鈴川は知っているのだろうか。俺がバイトをしていることを。

 けれど知っていようが知っていなかろうがどの道俺の最終目標はあのネックレスを買う事だ。

 今はそれを達成するために一生懸命にバイトをするまでだ。

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