プロローグ
[アスペクト・デザイン部/午後]
「これもまた坂辻さんのデザインだってよ」
「すごいですね〜。さすがエース。社内コンペ、外しませんよね」
「ほんとだよ。次から次へと、よくアイデアが浮かぶよな」
掲示板の前に集まった社員たちの声が、ざわざわと耳に届く。
中央に貼られているのは、次回プレゼン用のデザイン案。
八木尾航は、少し離れた場所からそのデザインを見つめていた。
(……まただ)
胸の奥が、静かに冷えていく。
(僕のデザインと、酷似している)
線の取り方。色の配置。余白の使い方。
偶然にしては、あまりにも重なりすぎている。
――これで何度目だ?
――1度や2度じゃない。
今まで、何も言わなかった。
言えなかった、と言った方が正しいのかもしれない。
だが今回は、違った。
八木尾は深く息を吸い、坂辻陸斗のもとへ歩み寄った。
「……坂辻さん。少し、お時間いいですか」
坂辻は一瞬だけ視線を逸らし、舌打ちをするように息を吐いた。
「何だよ。今忙しいんだけど」
「今回のコンペのデザインについて、聞きたいことがあります」
「……は?」
「そのデザインは、どこから浮かんだアイデアなんですか」
「なんでそんなこと、おまえに言わなきゃいけないんだ」
空気が、ぴたりと止まる。
「……あれは、僕が提出したデザインと酷似しています。
今回だけじゃない。その前も、その前もです」
八木尾の声は、震えていなかった。
だが、抑え込んできた感情が、言葉となって溢れ出る。
「何度も、偶然が重なるとは思えない。
あれは、僕のデザインを使った結果ですよね?」
「……」
「答えてください」
沈黙。
やがて坂辻は、苛立ったように頭をかいた。
「……そうだよ」
八木尾は息を呑む。
「おまえのデザインを、少し直して出した。
そしたら、簡単に通っちまったんだよ」
「……なぜ、そんなことを」
「俺だって必死なんだよ!」
坂辻は吐き捨てるように言った。
「だからさ……報酬、分けるから黙っててくれないか。
俺の報酬の……3分の1……いや、半分やる」
「……報酬?」
八木尾の視線が、鋭くなる。
「今まで、いくらもらっていたんですか」
「だいたい……1本、10万くらいかな」
(……少ない)
八木尾は、心の中でそう思った。
「……いえ。報酬はいりません」
「は?」
「お金が欲しいわけじゃないので。いりません」
坂辻は、戸惑ったような顔をした。
「その代わり」
八木尾は、まっすぐに坂辻を見つめる。
「今回のプレゼン、必ず勝ち取ってください」
「……は?」
「そのあとで、全部ちゃんと確かめますから」
何を、どこまで、どうやって。
それは、まだ言葉にしなかった。
だが八木尾の中で、“確かめなければならない違和感”が、はっきりと形を持ち始めていた。




