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「“誰かのせい”にしないって、簡単じゃない」

第二十六話

 四月下旬。

 大型連休を前に、工場内も少しずつざわつき始めていた。


 管理課も例外ではない。備品の在庫、発注納期、各部門からの「今のうちにこれお願い」メール。

 小さな依頼が、気づけば山のように積もっている。


 そんな中、事件は起きた。


⸻


◆ 午前10時15分/ミス発覚


「すみません! 手袋のサイズ、全部LじゃなくてMが届いてます!」


 製造部の女性スタッフが、慌てた様子で事務所に駆け込んできた。


「現場、ほとんど男の人だから、Mじゃ入らないってクレームきてます……」


 八木原は即座に棚を確認し、出荷伝票と照合する。


「……確かに、発注伝票はLになってます。でも納品された箱はM。業者の誤配送かな」


 そう呟いた瞬間、久保が静かに顔を伏せた。


「……たぶん、私がWeb注文の時にサイズを間違えて入力してます」


⸻


◆ 午前10時30分/沈黙のあと


 管理課に少しだけ重たい沈黙が流れる。

 佐伯さんもちらりと久保を見るが、責めるような目ではない。


 久保は唇をぎゅっと結び、小さく頭を下げた。


「確認不足でした。すみません……」


 それに対し、八木原は静かに息を吸ってから言った。


「とりあえず、今日の午後には代品が届くよう手配します。久保さん、伝票の控えと電話、お願いできる?」


「……はい!」


 その声は、震えていたが、確かにまっすぐだった。


⸻


◆ 午後/業者との連絡と対応


 納品ミスではなかった。完全にこちらの発注ミス。


 でも、久保は事情を説明し、担当者と丁寧に調整を進めた。


 午後3時過ぎ。無事に正しいサイズの手袋が届き、製造部に配られた。


 その報告を聞いた久保は、ほっと息をついた後、ぽつりと言った。


「……やっぱり、自分のミスって、めっちゃ怖いですね」


「うん。でも、“誰かのせい”にせず動いたのは、偉いと思うよ」


⸻


◆ 夕方/窓辺の会話


 陽が傾く頃、管理課の窓辺で八木原と久保は向かい合っていた。


「新人の頃の俺だったら、たぶん“業者のせいかも”って言ってた気がするな」


「私も一瞬、そう言いそうになったんです。でも……それ、ちょっと逃げだなって」


「ミスって、怒られるより、向き合うほうがしんどいんだよね」


 窓の外では、ツバメが電線の上で鳴いていた。

 季節は少しずつ、でも確かに進んでいる。


⸻


◆ 夜/寮でのひとこと日記


・失敗は、誰かのせいにした方が楽。でも、そうしないことで、少し強くなれる

・ミスに気づいた瞬間からが“勝負”

・対応の仕方が、信頼になる


 久保あかりは、今日も悩んで、失敗して、でも動いた。

 そのすべてが、“働くこと”を深くしていく。


⸻


◆ 翌朝/報告メールの末尾に


 久保が送った、ミス対応報告メールの最後には、こう書かれていた。


「今後は、ダブルチェック体制を自分から提案したいと思います」


 佐伯さんは、それを見てにっこり笑いながら、八木原に言った。


「この子、きっと強くなりますよ」


「うん。俺より、ずっと早く、ね」


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