「管理課の新人、まさかの配属!?」
第二十四話
三月。
まだ空気には冷たさが残るものの、日差しはすこしずつ春の気配を帯びていた。
丸亀工場の構内にも、制服の上からコートを羽織る人が減り、時間の流れを感じさせていた。
そんなある朝、管理課の藤巻課長が、いつになく軽やかな足取りで入ってきた。
「来年度から、管理課に新しい子が来るから。新人。いわゆる“新卒”。」
「……えっ、新人ですか?」
八木原は、思わず手に持っていたホチキスを落としそうになった。
「しかも、うちに配属されるのは一人だけ。君が教育係、よろしく頼むな」
「……マジですか」
マジだった。
⸻
◆ 一週間後/辞令と出会い
四月一日。入社式の日。
スーツ姿の若者たちが構内を歩く姿が、いつになく眩しく見える。
そして、八木原の目の前に配属されたのは――
「今日からお世話になります、久保あかりと申します!」
明るい声、短く切りそろえられた前髪、緊張の混じった笑顔。
久保は地元・香川出身で、大学を卒業してすぐこの工場へ来たという。
「えーと、じゃあ今日はまず、構内の案内から……」
「はいっ!」
元気な返事に、思わず八木原は「……まぶしい」と小声でつぶやいた。
⸻
◆ 午後/引き継ぎと説明
「これが物品管理の台帳で、あっちは備品棚です。ラベルとか、ちょっと改良したんですけど……」
「うわっ、めっちゃ見やすいですね……!」
「そう? ありがとう」
八木原は、かつて自分が“訳も分からず見ていたファイル”を、今は誰かに説明している。
この一年で得た知識や実感が、少しずつ“言葉”として形になるのが、自分でも不思議だった。
ふと、久保がぽつりとつぶやいた。
「社会人って、何が正解なのか全然わからなくて……不安だらけです」
その言葉に、八木原は一年前の自分を重ねた。
「……最初から正解なんて、誰もわからないよ。
でも、“自分がやった”って言えるものが、一つでもできたら、それがちゃんと残るから」
久保は目を丸くして、それから少しだけ、うれしそうに笑った。
⸻
◆ 夜/寮の自室で
仕事帰り、久しぶりにコンビニで「桜あんまん」を買った。
手に取った理由は特にない。なんとなく、春の味が恋しくなっただけだった。
部屋で食べながら、八木原はふとスマホのカレンダーを見た。
「丸亀配属」からちょうど一年。
あの時の自分は、電車の乗り継ぎさえ間違えそうになっていた。
・“迎える側”になったとき、人は自分の成長に気づく
・一年前の自分が、今の自分の支えになっている
・誰かを支えることで、今度は自分の立ち位置が見えてくる
少し冷めたあんまんをひとくち。
甘いけれど、なんだか沁みる味がした。
⸻
◆ 翌朝/いつもより早く出社
「おはようございます!」
出社一日目の久保が、ぴしっと挨拶してくる。
八木原は、ほんの少し照れくさそうに言った。
「おはよう。……今日もよろしくね、“先輩”より」




