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結婚式

 ■■■


「本当に、お似合いです。いよいよこの日が来たのですね……」


 白く、向こうが透けて見える長いヴェールを着せつけてくれたダーナがそう言って涙ぐむ。

 エリナはにっこりとほほ笑んで、ダーナを振り返った。

 今日は、竜王クリスと、その番、エリナの結婚式だ。


 白いドレスには同じ白の絹糸でたくさんの花々が刺繍されており、裾には小さな真珠が無数に縫い付けられていた。エリナが歩くたびにしゃらりと鳴り、きらきらと輝くドレスはそれそのものが国宝級の品物だろう。


 こういう時は、前世が貴族の生まれでよかったと思う。

 長いドレスを着ることに、ヒールの高い靴を履くことになれているから。


 首に巻いた大ぶりのダイヤのネックレス、耳に飾った真珠のイヤリング。


 そんな、白いばかりのドレスの中で、ひときわ目立って輝く、緑がかかった虹色に輝くペンダント。

 竜王の鱗を身に着けたエリナを、召使たちやダーナは賞賛した。


 かわいらしい、美しい花嫁だと。

 花嫁なんてみんな綺麗なものだわ、と思っていたエリナだったけれど、今日だけは自信をもっていいかもしれない。そう思うほど、今日のエリナは自分で言うのもなんだが鏡で見ても綺麗に見えた。


 エリナは胸に手を当てる。

 どきどきして、胸がはじけてしまいそうだ。

 今日、エリナとクリスは結婚する。番としてだけでなく、夫婦として、この先を歩いていくことを誓うのだ。


 前世の、エリスティナだったころには体験したことがなかった「結婚」。それを、こんな美しい初夏の日に、大好きなひとと迎えられる。

 そのことが、エリナにはなにより嬉しかった。


 ふと、エリナは近づいてくる物音に気付いた。

 それはひとの話し声で、どうやらこの部屋に用事があるらしかった。

 竜王の花嫁の控室、そんなところに来られるものはそういない。


 エリナは耳を澄ませた。そうして、安堵と、やっぱり、という思いで微笑んだ。

 クリスの声がしたからだ。それにしては、少しどたばたとしているような気もするが……。


 そう思っていると、近づく声が大きくなってきた。

 扉の前で話しているらしい。


 ――心臓が破れそうだ……。エリーの花嫁姿なんか見たら死んでしまう。

 ――馬鹿だねえ。結婚式なんてあげようと思えば何度だってあげられるじゃないか。花嫁姿もまたしかり。何回だって頼めば見せてくれるよ。

 ――知らないかもしれないから言うが、基本的に結婚式は一回なんだ!

 ――ははは!知ってるけれども!そうだねえ、何回やったって番との結婚はいいものだ、うん。わかるよ、若人。

 ――わかるならどうして僕をここに連れて来たんだ!死ぬ!死ぬって言ってるだろうが!

 ――どうせ式で見ることになるんだからさ、今見て耐性をつけておくほうがいいって。

 ――知ったようなことを!

 ――そら、あけるよ、さん、に、いち。


 バァン!という音とともに、花嫁の控室につけられた扉が開いた。

 そこに見えたのは想像通り、クリスとエルフリートで。

 にやにやと嬉しそうに笑うエルフリートに、半ば羽交い絞めにされながら引きずられてきたらしいクリス。


 礼服を着たエルフリートはさっさと己の番であるダーナに抱き着きに行ったから、エリナにはクリスの姿がよく見えた。

 白いフロックコートに身を包んだはちみつ色の髪をした美青年、緑色の、形よいアーモンド形の目はエリナを見て見開かれている。


 そんなさまでもかっこいいからずるいわ、と思いながら、エリナはクリスに控えめに笑いかけた。

 途端、クリスが勢いよく顔をそらす。


「どうしたの?クリス」

「い、いえ」


 そう言って、相変わらずエリナを見ようとしないクリスに少しだけ不安になる。

 このドレスは、そんなにもクリスの目から見て似合っていないだろうか。

 さきほどまで自分は綺麗かも、なんて思っていたことも忘れてしまいそうになりながら、エリナはしゅん、と自分の、ドレスの裾に隠れてしまったつま先を見つめた。


「そんなに似合っていない?」

「ち、違うんです!エリー!」

「はは、番様。陛下は番様があんまりきれいすぎて、言葉も出なくなっちゃったんだってさ。わっかいよねえー!」

「こら、エル!からかうんじゃないの!」


 クリスの言葉を代弁してか、エルフリートが面白そうに言う。

 それをダーナにたしなめられているが、エリナはエルフリートの言葉に驚いて目を瞬いた。









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