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告白

「……最近、よく気絶するわね」


夜のとばりが降りるころ、エリナは目を覚ました。

おなかがぐうと鳴って、苦笑する。あんなことがあったのに、エリナの体は普通に空腹を訴える。生きているのだ。

ふと、エリナは自分のベッドの横で、ベッドに顔を伏して眠っているはちみつ色の髪をした青年に気づいた。


「クリス……」


クリスの寝息が聞こえる。安らかなそれは、かつてエリスティナが育てたクリスのものと同じだった。当たり前だ。同じひとなんだから。


「本当に、クリスなのね……」


たとえようもない思いで、エリナはクリスのはちみつ色の髪をかきあげた。

あの日喪ったと思っていた。あの時に、エリスティナの愛はすべて消え去ってしまったのだと……。


それが、きっかけがあるとはいえ、突然クリスとクーが同じだと理解したのだ。

戸惑いはある。けれど、それ以上に嬉しくて、クリスが生きていたことがただ嬉しくて、エリナは今、様々な想いを一瞬に押し込めて、微笑んだ。


かきあげた髪からクリスの瞼が見える。長いまつ毛がふるふると震え、やがてその中から緑色の目が姿を現した。


「……エリー?」

「おはよう、クリス」


こんな風に、ただ挨拶できることが幸せでたまらない。

エリナは穏やかな笑顔のまま、クリスの頭をくるむように抱きしめた。


「エリー、起きたんですね」

「うん、起きるのが遅くなってごめんなさい」

「いいえ、あんなことがあったんですから、疲れて当然です」


クリスは、エリナに抱かれていることに気づいたのか、少し顔を赤くして、エリナの腰に手を回した。


「あたたかい……」

「そりゃあそうよ、生きてるんですもの」

「そう、そうですね。エリーは、生きてる……」


どこかぼんやりしたように、クリスはつぶやいた。

エリナがここにいることが、奇跡みたいだ、そう思っていることが、手に取るようにわかった。


「ずっと、会いたかったの。クリス。あなたに」

「はい」

「でも、喪ったと思って、クリスは死んでしまったと、そう思って。ずっとあきらめていて……」


それ以上は言葉が詰まって言えなかった。

エリナはクリスの頭を解放し、代わりにその頬を両の手で包んだ。

クリスがここにいることを、確かめるみたいに。



「私が、クリスをクリスだとわからなかったのには、理由があるの?」


エリナは何気なく尋ねた。クリスははっと目を見開いて、守れなかったことを後悔するように顔をゆがめた。

大丈夫よ、とエリナが撫でると、ひとつ息をついて話し始める。


「カヤの呪いです。本来、人間種は魔法を使うことができないので、あれはリーハの鱗を……逆鱗を取り込んだことによる作用なのでしょう。カヤは、エリーに暗示をかけていました。鐘の音を媒介にして、長い間、ずっと……」


一度、クリスはそこで言葉を噤んだ。エリナはただ、黙って続きを待った。

クリスが続きを話し出す。


「僕の逆鱗と……先だってカヤを探したときに放った僕の攻撃でカヤが弱ったことと……複数の要因が重なって、カヤの呪いが弱まって、エリーの認識阻害が溶けたのでしょう。けれど、僕はエリーを二度も危険な目に遭わせました。守ると言って……」

「守ってくれたわ」


エリナは微笑んだ。

そう、クリスはずっと、エリナを守ってくれた。

かつてエリナがそうしたように、彼の全身全霊をかけて。それがわからないなんて、そんなはずはなかった。


「私は傷ついていないでしょう?どこも損なったりしてない。元気いっぱいで、今ここにいるもの」

「でも……!」

「それ以上言ったら怒るわよ?私の大事なクリスを責めないでって」


エリナは頬を膨らませて、エリスティナらしく言った。

クリスはぱちぱちと目を瞬いて、やがて笑って。


「かなわないなあ……エリーには」


と言った。エリナは満足して笑み返す。


「それにしても、あんなに小さかったクリスが、こんなに立派になっちゃって」

「小さかったは余計です!」

「あはは」


焦るクリスがかわいくて、エリナは声をたてて笑った。

本当に、幸せだ。こんな風な日々が来るなんて、前世では思ってもみなかった。


「敬語」

「え?」

「敬語。どうして私に敬語を使うのよ。昔はもっとこう、かわいかったじゃない?」


クリスは目をそらした。

なおもエリナが見つめると、恥ずかしそうに耳までを赤くして、ぼそぼそとつぶやく。


「エリーに、ふさわしい男になりたかったんです。そう言う本を読んで……もう癖になってしまいました。こんな風にしゃべるのはエリーにだけです」

「ええ、敬語を外してよ。距離が遠いみたいだわ」

「無理です。もう僕にとってエリーは女神で大事な番で好きな人でっ。そんなエリーにあんな粗暴な口調を使うなんて考えられません!」

「ええー……?」


クリスが無理だ無理だと言って手を顔の前で振るから、エリナはそれが面白くなってしまった。かっこいいと思っていたけれど、こういうところはやっぱりかわいい。

ふうー……、と息を吐いて、エリナはクリスに向き直った。

そう言えば、エリナから言っていないことがあるんだった。と思って。


「ねえ、クリス」

「……はい、エリー」


エリナを恐る恐る見上げるクリスは、やっぱりかわいい。

エリナはクリスの手をぎゅっと握って、もう一度笑った。


「私、あなたが好きよ」

「――……!」


クリスが目を見開く。そして口を押えて、なにごとかもごもごつぶやいたあと、そっぽを向いた。


「反則だ……こんなにかわいいなんて」

「私からみたらあなたのほうがかわいいわ」

「聞かないでください!」

「大きな独り言ねぇ」


ふふ、と笑うエリナと頭を抱えるクリス。

ふたりの視線がかみ合う。やがて、見つめあって、クリスはゆっくりと状態を起こした。

不意打ちのように、クリスの唇が、エリナのそれに重ねられる。

驚いて目を瞬くエリナに、クリスが真剣な顔で言った。


「僕も、あなたが好きです」


――好きばかりがあふれて、どうしようもない。

エリナは、頬を伝う濡れたものの存在に気付いていながら、止めることはできなかった。

クリスの両腕が広げられる。想いのままに、その腕の中におさまって、二人はもう一度キスをした。


星空が、結ばれた二人を祝福するように、輝いていた。



■■■







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