それぞれの旅路へと 1/21
俺は優勝後初めてチームルームに集まってもらった。氷牙以外、この真相を知らない。俺は口が固く開かないのがわかる。この最高の仲間達とのチームを……嫌なんだ。だが、男に二言はない。氷牙と交わした約束だ。
「……皆、突然集まってもらって申し訳ない。今日集まってもらったのは、俺から皆に言うべきことがあるんだ。このチームのキャプテンとして、最後の言葉だ」
ニコニコしていた爽乃の顔は不安そうな顔になり、朗らかな顔をしていた椿の顔は淀む。そして、涼しげな顔をしていた恭介の表情は真剣な表情に変わった。
「……実は俺が倒れた時、俺が心の底で思っていたことを氷牙にだけ打ち明けたんだ。皆に話しても勿論良かった。でも、このチームの前のリーダーは氷牙だった。話が混雑するより、俺は氷牙にだけ打ち明けることを選択した。このことも本当に申し訳ないと思っている。氷牙は今のリーダーは俺だから、俺の好きにしろと言った。だから、今俺の決意を告げる。
……今日、この場をもって、『ブレイヴ・ハーツ』を解散する」
「……なんで、なんで早く言ってくれないんだよ。もっと、皆で一緒にもっと上を目指していけると思っていたのに」
恭介が動転する。このチームを一番愛していたと言っても過言ではない恭介。表立ったことはしていないが、このチームの大黒柱。彼なくして、このチームは絶対に成り立たなかった。
「……恭介、正義を責めるな。恭介もわかっているだろ。俺も恭介を責めるつもりで言うんじゃないが、正義に闘うなと言ったのはお前だろ。それを踏まえて、この馬鹿キャプテンが無い頭で考えたんだ。許してやれよ」
「馬鹿は余計だろ。恭介、これは俺なりのケジメなんだ。チームメイト全員を巻き込むのは本当に申し訳ないと思う。でも、これ以外考えられなかったんだ」
俺の考えを聞いた皆は黙り込む。次に口を開いたのは椿だった。
「私は、正義さんだけチームを抜けるなんて言うのは嫌です。なんていうか、私達が追い出したみたいな感じで。正義さんだけが抜けるなら、私も抜けたいです」
「椿ちゃんの意見に賛成」
「椿の意見を聞くと、確かにそうだな。正義だけの責任じゃなく、チーム全体の責任だ。だが、チームの皆に相談した上で決めてほしいよな。ちゃんと俺達はお前の意見は流したりしないし」
椿の言葉によって、全員の意見が一致する。
「ごめん。過程を飛ばして結果だけを話されても困るよな。でも、これだけは言える。俺はこのチームで、『ブレイヴ・ハーツ』で良かった」
俺はそう言った途端、脳裏に焼き付いた歴戦の記憶が走馬灯の如く目前を駆け巡った。
完全敗北を喫した真霧との最初の闘い。これが運命の始まりだった。そして、初めての決闘。それは今でも親密な関係にある斎藤との出会いの場だった。それから、椿という新メンバーが加入した。紆余曲折の果てに得たのは、仲間との絶対に切れることのない絆だった。
そして、チームの話し合いが完全に終わり、チームルームを出る。
「もう、この部屋ともお別れなんだな……」
毎日笑いが絶えなかった部屋。一所懸命に作戦会議をした部屋。部屋に入ると、何かしらわいわいと盛り上がり賑やかだった。しかし今となっては空虚な空間と化している。何もない。
氷牙は壁にもたれながら部屋を見ずにそっぽを向いている。恭介はなんとか泣くまいとしているが、ポロポロと涙が溢れ落ちている。爽乃と椿に至っては泣き崩れている。
俺は、後悔していない。
……後悔は、していない。……してないはずなんだ……。
「……皆、ごめん。俺は、強がっていた。でも……実は、俺、ずっとこのチームでいたかった。俺はこの学園で最弱だった。でも、このチームだったからこそ強くなれた。本当に、本当に……最高のチームだった。だからこの部屋で色んな事をしてワイワイ盛り上がって、来年2連覇を目指したかった。なのに、なのに……本当に……ごめん」
溢れ出す感情を制御できなかった。涙がボロボロと流れ落ちて止まらない。止められない。止まれよ。止まれって……。
「……はぁ。お前が、謝ることじゃねえだろ。お前は最後の最後までチームを導いてきたんだ。優勝に導いたんだ。俺達はお前を恨むことはできない。むしろ感謝しかできない。お前がいなけりゃ、いやこのチーム全員がいなけりゃ勝ち取れなかった栄誉なんだ。お前は本当に凄い奴だよ。胸を張れ」
氷牙が俺を褒めるなんて夢にも思ってもいなかった。
「そうだよ……正義君がいなかったら、ここまで来れなかった。だから、謝らないでよ……」
爽乃までそんなこと思っていたのか。
「俺達のことなら、心配するな。俺達だって思い残したことはない。これからは一人一人、自分の道を進んでいこう」
「勇敢な心、ブレイヴ・ハーツを胸に……ですよね」
いつもの掛け声、『ブレイヴ・ハーツを胸に』。今となっては懐かしく感じる。
「今思えば、俺達はいつだってこのチーム名に支えられてきたな」
「あれ……?チーム名付けたの誰だったっけ」
「恭介じゃなかったか?」
「え、あれ?俺だっけ?」
「ったく、最後までグダグダだなぁ……」
「ホントですね」
目から零れ落ちる涙。しかし、顔はいつしか晴れやかとなっていた。
「……これが俺達の勇気だよ」
俺達は、光が、希望が満ちた未来への階段を、それぞれの旅路へと進んでいくのだ。
もうすぐ、新たな仲間がこの学園に入ってくる。新たな時代が芽生え始めるんだ。




