快刀乱麻と完全無欠 10/24
コンコンと部屋をノックする音が聞こえる。誰だ?夜7時なんかにこのチームルームに来るなんて。
「どうぞー」
俺はパソコンの電源を落としながら、部屋の外の人物に話しかける。
「おっ邪魔しまーす。悪いね、こんな時間に準備してたんだろ」
邪魔するなら帰っ……て、あれ、この声、聞いたことがある。テレビか何かで聞いたことがある。
俺は、急いで振り返り、部屋の入口を見る。
「聖先輩……?何故、こんなところに?」
がっしりしたたくましい体の三年生。ただただオーラが違う。見ただけでわかる常軌を逸するほどのオーラ。威圧でも、奇怪でもない。こういう人が、人々を魅了するカリスマなのだと咄嗟に悟る。少なくとも、常人ではない。駿河先輩は、真面目な話を切り出した途端に威圧を感じるが、彼は常時感じる。
俺は、恐る恐る声を出すことしかできなかった。
「ある人からの頼みでな。君が、大空正義君だね?」
「はい、そうですけど……」
「君やチームの活躍はいつも耳に入っているよ。ひとまず『エルドラード』出場おめでとう」
「あ、ありがとうございます。お茶出しましょうか」
「あぁ、すまない。ありがとう」
『寛容なる青龍』。それが彼に付けられた異名。全てを受け入れる寛大な性格で、チームをまとめ上げる強者。彼が指揮を執った試合の勝率は、八割を超える。今まで主席の座を奪い取ったことがない永遠の2番手、と思われがちだが、彼が指揮を投げ出して敵を倒しに行けば、圧倒的な差を見せつけて主席を勝ち取るだろうとも言われている。その理由には、この学園の成績にはリーダーとしての資質を問われることはなく、チームの成績や自身が倒した敵の数のみしか反映されないためだ。つまり、聖には敵を倒す機会が必然的に少なくなる職に就いているデメリットを背負っている。城ヶ峰と聖のどちらが強いかなど全くわからない。
「君の試合は大体見せてもらったよ。しっかり相手を分析してから、決闘に挑んでいるのはわかったよ。
だが、君は本当にそのままで良いのか?」
「……え?それはどういうことですか?」
「仲間達はそれで満足しているのか?満足しているなら、これ以上言うことはないけどねー」
皆が満足する闘い方……?そんなこと微塵たりとも考えたことがなかった。ただチームが勝利することを念頭に置いて作戦を立てていた。
「どうやら、そんなこと考えてすらなかったみたいだな。これからは皆の意見もちゃんと聞いてから、決闘に挑んでみたらどうだ?
ま、俺から言えるのはこれだけだ」
一瞬だったが、聖先輩は少し失望したような顔付きを浮かべた。
「……それは前に屈辱の敗戦を喫した『フォーチュン』に同じメンバーに挑むとか、ですか?」
俺はすぐさま、鋭い質問を入れてみる。すると、聖先輩は口角を上げた。
「わかってんじゃないか。要領が良いね。やっぱりうちの駿河が認めるだけあるよ、素質はあるようだ」
まさかこれだけで褒められると思っていなかった。
「でも、本当にこれだけで?」
「大空君が考えているより、気持ちというパワーは戦略とは比べもんにならないぞ?あとはチームを信じることだな。
君はどことなく、冷姫先輩に似ているな。きっと駿河もそこに惹かれたんだろうな」
冷姫先輩……?冷姫といえば、氷牙じゃないのか?
「現在1年生なのにですか?」
「それは弟だよ。彼には姉がいたという話は聞いてないのか?」
そう言えば、暗号の話を聞く時に姉がいるって言ってたな。あれ?『冷酷姫暗殺鎌』を使用してた人物ってまさか。
「冷姫霙。俺の1つ上だ。駿河はあんまり関わりがないが、俺達があの人の素晴らしさを保証するよ。彼女が亡くなってから、1年から2年か。惜しい人を亡くした」
俺の中で全てが繋がった。氷牙が夏休みに墓参りに行ったのは、霙さんのため。何が起こったかは知らないが、氷牙にとっての恩人でもある。
「何故、俺がその人と似てるんですか?」
聖先輩が俺の顔をジロジロと見る。俺も先輩から目を離さない。数秒後、先輩は姿勢を崩す。
「なんだかなぁ。雰囲気が一番近いかな。それと諦めない時の眼差しが特に似てるかな」
「……ありがとうございます」
「瞳の色が変わったね。俺が力になれたようで光栄だよ」
俺は微笑む。
俺が一番話さなければならなかった相手。俺は正直なところ、氷牙が俺達のことを本当に信じていると思っていなかった。心のどこかで猜疑心を抱いていることに気付いていた。
俺はとうとう逃げられなくなった。面と向かって、あいつと話さなければならないと。




