恭介と椿 10/23~24
なんとなく夜にチームルームに向かってみると、恭介しかいなかった。皆は個別特訓に向かったらしい。恭介とはあまり話したことがない。彼自体チームで最も寡黙な存在だし、それが普通なのだが。
「恭介さんはいつメンバーと知り合ったんですか?」
「んー、中学校入学くらいかな?正義は高校だけど」
あれ、キャプテンだけ高校からなのか。皆の雰囲気を見ていると、どうも昔からの仲間というような感じに見えていた。
「どうして、恭介さんは整備士になったんですか?」
「あー、俺?俺は、ただあいつらの役に立ちたかっただけだよ。氷牙と爽っちゃんってさ、どこか頼りないところあるからさ。俺がやらなきゃって。まあ正義は頼れる奴だけど、あいつはあいつで忙しいし、俺が頑張らなきゃ」
本当にこの人は自己犠牲の人だな、と思う。ほぼ毎日課題とチームの技術のためにこのチームルームで徹夜しているのは、私だけなのかは知らないが、私は知っている。
「たまには、自分の思うようなことしてみてはどうでしょう?」
「んー、どうなんだろうね。俺はさ、大した人間じゃない。チームの皆に感じられるような才能の片鱗すらない。だったら、他人の腕になって闘ってやるってね。だからこの気持ちは変わらないよ。皆が全力を出すために、陰から支えること。それは俺が唯一できること」
影の努力者。全く光も当てられず、ずっと影でチームを支え続ける。こんな悲しいことがあってもいいのか。
「ダメですよ、そんなの」
私はいつの間にか恭介と話しているうちに眠ってしまっていた。軽率だった。両親から、女の子は人前で寝るなと言われていたのに。恭介を信頼していないわけではないが、気持ちの問題だ。
と思ったら、私に毛布が被さっていた。それに、チームルームに1つだけ用意されているベッドに私は寝転んでいた。
しかも、これはいつも恭介が使っている毛布。毛布にしては薄いのに、どこか優しくて温かい。まるで彼のようだ。
「恭介さーん……。これ、ありがとうございます……。寒かったんじゃないでしょうかぁ……」
……恭介から返事が無い。恭介がいるはずの部屋の明かりは付いている。
「恭介さーん……?」
寝息が聞こえる。椅子から倒れて、床で寝てしまっているみたいだ。
「……こんなに寒いのに、どうして自分のために使わないんですか。……バカ」
本当に自己犠牲の人だ。
私は彼をベッドに運ぼうとしたが、重くてテコでも動きそうにない。もう夜中なので、起こすのも可哀想に思える。
私は迷った挙句、毛布を彼に被せる。そして、私もその中に入る。自分でも何故この行動に至ったのかはわからない。
そして、そっと彼の髪を撫でる。疲れてたんだよね、このチームの誰よりも。誰よりも頑張って、誰よりも苦しんで、誰よりも努力した。それを誰も認めなくても、私だけは認めるよ。私に全部発散しても良いんだよ。
「だから、おやすみ」
朝になると、俺は椿の横で寝ていた。俺は起きてコンマ1秒でパニックに陥る。椿が俺と同じ毛布の中にいる!?
俺が起きた連鎖からか、椿も目を覚ます。
「おふぁようございましゅ、きょーすけしゃん」
寝起きで滑舌悪い椿、超絶可愛い。ってそういうことじゃなくて!
「俺、なんか変なことしなかった!?昨日の夜のこと全く覚えてないんだけど!?」
「……ほえ?変なことってなんでしゅか?」
寝癖をぴょこんと立てた椿が少しだけ首を傾ける。目がまだ眠そうで、それがまた可愛……じゃなくて!
「俺、何もしなかった?」
「恭介さん、好きですよー」
椿が俺の腰に手を回し、ぎゅっと抱きついてくる。俺の脳はパンクした。
「……え?」
チームルームで男女の夜更かしは校則違反だ。見つかれば、最悪の場合退学処置。
そんな校則違反から始まった朝は、悪くはない気分だった。いや、最高の朝だった。




