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先日、住んでいたおんぼろアパートの取り壊しが決まった。
一人暮らし学生の俺にとってそれは寝床がなくなるということと同義で、かつ他を探そうにも家賃があれほど格安な物件などすぐ見つかるはずもない。
慌てた俺が、実家に帰らせていただきますなんてとんちんかんな事をやらかそうとすれば、友人の青葉が一枚の紙をくれた。
それは青葉が住んでいるという格安アパートの入居者募集のビラ。もちろん、俺は一も二もなく飛びついた。
引っ越し当日は青葉が全面協力してくれた訳だが、はじめて実際のアパートを見たときちょっと言葉がでなかった。
「……なあ青葉」
「なんだ、赤城」
「いや、なんていうか、格安って聞いてた割に案外と小綺麗だよな」
予想していたよりもずっといい外観に、逆に嫌な想像が膨らむ。
俺の歯切れの悪い言葉に、アパートの扉へ手を伸ばしていた青葉が振り返る。ぎこちなく笑えば、青葉は意地の悪い笑みを浮かべた。
「そこはいわく付きって思うのが暗黙だろ」
on the nod(暗黙の了解で