part4:ネクストゼアー
秋は過ごしやすいから好きだが、落ち葉は掃除するのが厄介だと思わずにはいられない。
アパートの前を竹箒で掃きながら、今月何回目かの落ち葉掃除にため息をつく。
「あの」
遠慮がちにかけられた声に振り返れば、そこにいたのは高校生くらいの少女だった。
「なんだ?」
「えっと、チラシを見て」
少女がわたわたと鞄から一枚のチラシを取り出す。虹のイラストが描かれたそれはアパートの新入居者勧誘のチラシ。初めは白黒で作成していたものを隣から覗き込んできた新婚で幸せオーラ全開の友人にえー地味ー可愛くないーと散々に言われ、ならお前がやれと押し付けたらこんなカラフルでポップなものになった。
僕が出て行っても淋しくないような素敵な住人が来るといいねーとへらへら笑った友人は、冬には新居に移るためこのアパートを出て行く。
「入居希望者ってことでいいのか?」
「あ、はい! えっと、来年の春からでお願いしたいんですけど……」
春から、という言葉におそらく来年からこの近くの高校に通うのだと予想を立てる。そして、おそらくこの付近の高校ということは母校のことであろう。
「303号室。3階の奥の部屋で良ければこの冬に確実に空く、そこでもいいか」
「え、あ、はい! 大丈夫です、よろしくお願いします!」
少女が勢いよく頭を下げるものだから、鞄の中身がばらばらとアスファルトに散らばる。あわわわ、と慌てて少女がそれらを拾うのを手伝いながら、一つだけと口を開く。
「これだけ家賃が安いってことはどういうことかわかってるのか?」
「え、あ、ええと、あれですよね。暗黙の了解って言うか」
少女が目を泳がせながら口にした言葉に驚く。それから、その懐かしさに無意識に口元が緩んだ。きょとんと目を丸くした少女に表情を戻して、拾ったものを渡す。
「新規入居の書類はまた後日ということでいいか?」
「あ、はい、大丈夫です! えっと……」
言いよどんだ少女にそういえばまだ名乗っていなかった、と思い至る。
「俺はこのアパートの住人兼大家の青葉という。よろしく」
「え、大家さんなのに住人さんなんですか?」
少女はぱちぱちと目を瞬いた。住人兼大家をしていた友人から譲り受けたから意識していなかったが、確かに今にして思えば住人兼大家は普通ではないか、と気づく。
「まあ、これくらいこのアパートの住人に比べれば常識の範囲内だ」
「つまり、変な住人さんが多いんですね?」
「それは暗黙、だろ?」
先の言葉を引用すれば、少女は一拍置いてからくすくすと笑った。
「ここの住人になるの楽しみです」
「そうか」
「はい!」
時の流れと共にアパートの住人は入れ替わる。今はもう毒舌の美少女や、長身のサボテンマニアもいなければ、黒ずくめのナルシストもいない。冬になれば、最も古株であった友人も引っ越していく。
それでも、代わりに新しい住人が越してきてアパートは騒がしい。どうやら、このアパートに変人が住むのはもう動かないことらしい。
この少女は平和にこのアパートで暮らせるだろうか、と内心で苦笑する。
見つめられて首を傾げる少女の向こうからスーツを着た青年が一人帰ってくる。
「ただいまー青葉、あれ? その子どうしたの?」
「新しい入居希望者だ」
「わ、やった、なんかまともそうな子だ!」
まとも、という発言に困ったように少女がはにかむ。
それに小さく笑いながら、ほら、とスーツの肩を叩く。その促しの意味に気づいたのか、かつてこのアパートで一人まともだと認定されていた青年は嬉しそうに少女に向けて笑った。
昔自分が迎えられたときに、言われたように笑ってみせた。
「ようこそ、このアパートに!」




