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薄命物語  作者: 真田 幸一
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第7話 事件

薄命物語第7話


あれから一ヶ月たった。

昨日からメールをしても、栞は返事をくれない。

電源が切れているのかもしれないし、以前の様にどこかに夏服などと一緒に収納してしまっただけかもしれない。

ドジなところもあるが、そこがまた可愛いから許してしまう。

あまり気にとめていなかったが、最近というより、一年前から、時々テレビにでてくる指名手配犯が気になり始めた。

もしかして、栞は……そう思ったが、やさか栞がそんなことになるなんて思いもしない。だってあの栞がだ。

とりあえず、中間試験の勉強の合間に、近くのスーパーで買い物をしよう、と思って外に出たら、そこに見知った人物と会ってしまった。

「真田!」

俺に似ているが、細部が違うこの男は俺の親友で、吉田幸一という。

「お前、どうしたんだよ、N県の本州大学に通っていただろう?」

「俺は今、木曜日だけ行けばいいんだ。それよりお前、S県のS大学だよな、最近テレビで指名手配犯の事件が特集されているだろう?」

何やら雲行きが怪しくなってきた。

「ああ。そうだな」

「そいつらの捜査担当がそちら田中刑事だ」

吉田が俺の方を指差した。

振り向くと、そこには、30過ぎたオッサンが立っていた。

「こういう者だ」

警察庁特殊捜査課特別派遣官と書かれていた。

「指名手配犯の捜査の専門だ」

「吉田とは、どういう関係ですか?」

……

沈黙と静寂が一帯を支配した。

「とりあえず、家に上がって話そう」

俺は吉田家ぬ上がって二人から話を聞くことになった。


「俺と田中刑事の関係はだな……」

田中刑事が代わりに答える。

「彼の知り合いが事件の被害者で、彼女は俺がいるときに、一度目を覚ましたが、病院で彼と俺の目の前で亡くなってしまった。死因は、胸と背中のナイフによる失血死」

「彼女って、お前……」

「恋人ではなく、仲が良かった知り合いだ、先輩と後輩みたいな関係だと思ってくれ」

……なんということだ。

吉田はなぜこんなに不幸なんだ。

「もしかして、これから付き合うつもりだったのか?」

「その可能性もあったな……」

これ以上は聞かない方が良さそうだ。

「俺は今田中刑事と協力して犯人を追っている」

「民間協力者として、ね」

「S県については、お前の方が詳しいだろう?」

「そもそも、何故S県なのかを話そう」

それは、ある法則に従っているもので、次にS県(九州、東日本)で起こるか、T(東日本)で起こる可能性が高い。

「つまり、用心し過ぎることはないが、用心してくれ」

特殊捜査官は、民間協力者と一緒に仕事をすることが多いらしい。

「警察と一緒にいたら犯人に俺が警察だってばれるだろう?折角特殊捜査官になっているのに、普通の警察と同じになるどころか、直接捜査から外されるかもしれない」

要は、逃走されないように捜査をしなければならない。

だから、民間協力者が必要なのだ。

「被害者は今のところ15才から22才だ」

学生で15才というと、中学三年生か高校一年生だ。

22才というと、大学四年生か大学院の一年生までとなる。

あくまでも、今のところ、だ。

「この頃、甲本さんに会っているか?」

「実は、最近連絡が取れないんだ」

因みに現在、2011年12月である。

「家に行ったか?」

「ああ、でも留守だったから帰ってきた」


「幸一君、とりあえず、S県に行こう。彼女が心配だ」



S県と言っても、広い。

しかし、ある条件で場所を絞れる。

空き家があり、近くに高速道路があるところだ。



栞side


……

「ここ、どこ?」

見知らぬ部屋に寝そべっている。

「ようやく目が覚めたかい?」

そこに立っていたのは、中年の男性5人だった。

「ここ、どこですか?」

「んん、ここかい?」

「ここはね、山の近くだよ」

「家に帰してください」

ここにいたらまずい。

そう直感した。

「いいよ。鬼ごっこをして、君が逃げられたらね」

いやらしい顔をしたその顔を最近どこかで見たことがある気がする。

「俺達が、指名手配犯だってこと、知っているよね?」

指名手配?

「もしかして……」

「ほらドアを開けたよ。逃げなよ。一時間後に追いかけ始めるからさ。携帯電話がポケットに入っているだろう? 助けを呼んでもいいよ」

「逃げ切れたら君は解放するけど、捕まったら……分かるよね」

捕まったら殺される。

今までの被害者は、ナイフを心臓を一突きされて殺されている。

「ドアを開けたら数え始めるよ」

生死をかけた戦いが始まった。



幸一side

「そろそろ、Sインター出口です」

田中刑事と二人の幸一は、S大和インターに着いた。

その時、携帯電話に電話がかかってきた。

『幸一君。助けて、指名手配犯に追われているの』

嫌な予感が当たってしまった。

「今どこだ?」

『分からない。山の近くだよ』

山の近く……

どうすればいいんだ?

焦れば焦るほど考えが纏まらない。

「何だって?」

吉田が白紙に栞がいる場所の特徴をを箇条書きにしている。

「S市街地の方向とか分からないか?」

『分からないよ』

「太陽は今どっちに見える?」

現在正午で太陽はほぼ南にある。

「右手に見えるよ」

つまり、現在東に進んでいるということだ。

「そこから、何か見えないか?何でもいい」

『今道路に出たよ。天山ダム、5kmって書いてある」

地図と睨めっこをしていた田中刑事は、ある一点を指し示す。

天山ダムの南側で、約5kmのところ、今から向かうと、40分くらいかかる。

『早く助けに来て、あと40分くらいであの人達が追いかけてくるよ』

追いかけっこ?

「兎に角、犯人のアジトから離れて行っているんだな?」

『うん、あ、あんまりバッテリーがないみたい』

GPSが使えないようだ。

バッテリーが残っていても、栞は機械オンチである。

「必ず助けに行くから、ダムを目指して進んでくれ」

『うん。信じてるよ』

栞の電話が切れてしまった。

バッテリー切れだ。


車は山道に差し掛かった。

そのまま進んで行き、最速で走ったからか、30分後にダムの近くまで来た。

車が一台すれ違った。

ワゴン車で、Fナンバーだった。

F県は隣の県だから、不思議ではない。

すれ違ったワゴン車は十字路を右折した。

間もなくダムに着いた。

しかしいくら探しても、栞の姿がない。

「どういうことだ?」

時刻を見ると、午後三時である。

「さっきの車のナンバーはメモしているよな?」

田中刑事は吉田に尋ねた。

「はい、F400、は2949です」

「やはり、そうか。真田君、車に乗ってくれ、さっきの車が犯人の車だ」

あの車のナンバーは見覚えがあった。

N県の事件の時に見たまんまのナンバーだった。

「くそ、何故気付かなかった」

田中刑事はS県警に応援を要請して、俺達はさっきの車を追って、十字路を右折した。

山道を突き進むと、空き家というより小屋があった。

更に奥に道は続いている。

「車はないな」

小屋の近くには車の姿、形、影もない。

小屋を通り過ぎて、俺達は奥に進んだが、行き止まりで、引き返すことになった。

そうなると、あの小屋が怪しい。

そう思い、戻ってみると、小屋の奥の方に何か膨らんでいる物があった。

藁や薄の山に見えたから、さっきはスルーしていた。

そんな時、小屋から数人の男性が出てきたて、急いで藁や薄の山に向かっていった。

「指名手配犯だ、ここで会ったが10年目」

急いで、小屋の中を見た。そこには、血溜まりの中で俯せになっている少女、甲本栞がいた。

「失礼……」

田中刑事は栞の首筋に手を当てた。

「まだ息がある、真田君彼女の背中を見てくれ」

俺は言われた通りに栞の服を捲った。

そこには、ナイフで刻まれたと思われる傷があった。

「数字の7か……」

田中刑事はすぐに無線でS県警の応援に連絡した。

「F400、は2949の車がS市街地方面に逃走中、高速道路を塞ぎ、天山ダムまで急行せよ」

なんとしても、これが最後の事件にしなくてはならない。

今までの被害者の遺族の願いでもある。

栞を車に乗せて、すぐに、病院に向かった。

「う……幸一君?」

栞は目を覚ました。

「あれ、どうして私生きているの?」

「あまり喋るな」

左胸をナイフで刺されたと思ったら、胸ポケットに入っていた指輪に引っかかって、心臓まで届かなかったから、即死は免れたようだ。

しかし、出血量が半端じゃなく、すぐに輸血をしないと、死んでしまう。

「すぐに病院に連れて行ってやるからな」

「うん、ありが…と…」

栞の手が、体が重たくなった気がした。

「おい、栞、返事しろよ、おい!」

その時、S市大和病院についた。

担架に乗せられた栞は、すぐに集中治療室に入っていった。

「真田、俺達は指名手配犯を追う。お前は、甲本さんの近くにいてやってくれ」

「ああ、そうする」看護士さんの声がロビーに響いた。

「A型、O型の方はいませんか?」

O型はO型の血液でしか輸血出来ない。しかし他の型だと、その型とO型の血液を輸血できる。

「俺はA型だ」

絶対に助ける。

待ってろよ、栞……

吉田、田中side

「高速道路を塞いでいるから、逃走ルートは、S市から東または西ですが」

「隣のO市には検問を設けているから、東に逃げるしかない」

応援の警察は南から来ているから、逃げるなら北東、つまり、F県、八山村方面ということか」

北はダムで行き止まり、南は警察、西は検問、東には、S県T市方面と、F県N町方面がある。指名手配犯のくせから、市街地に逃げることはあまりない。

「T市に検問を設けてもらった」

「F県警にも、応援を要請してください」

「挟み撃ちにしてやろう」


真田side

「栞……」

未だに手術は終わっていない。

集中治療室のランプは赤々と点灯したままだ。






次回予告


「幸一君、今まで仲良くしてくれてありがとう」

「いつも、あなたに助けられてばかりだったね」


次回 薄命物語 第8話『夢の中の記憶』


「栞……目を覚ましてくれ」


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