信じる心は自由、でも国家は無色であれ
「さあさあ諸君ーーーッ! 本日は信じる心を語ろうじゃないかあああああ!」
嵐山先生が開幕から両手を天にかざして叫んだ。
「……なんか最近、テンションに安定感ないですね先生」
そう言いながらも、小春はノートを構える。今日のテーマは――
「信教の自由」(憲法20条)
「さて小春。“信教の自由”って、どんな自由かわかるかね?」
「えーと……あ、わかった!」
小春は机をバンと叩いて立ち上がった。
「神を信じても、信じなくてもいい自由! そして、教祖っぽいテンションの先生を信じなくてもいい自由!」
「……ちょっと待て。いま私を、新興宗教の教祖みたいな扱いしなかったか?」
「してないですって。先生の転写、なんたか“宗教っぽいなぁ”って思ってるだけです!」
「お、おおう……」
先生が若干引き気味に眼鏡を押し上げる。だが、気を取り直して授業を続ける。
「ともかく! “信教の自由”は三つの柱がある!」
黒板に書かれる文字。
1. 信仰の自由(信じる・信じない)
2. 宗教的行為の自由(礼拝・儀式)
3. 宗教団体の結成・活動の自由
「要するに、“心”も“行動”も“団体”も、全部自由ってことだ!」
「……つまり、私が“毎週月曜はカレーを神とする宗教”を作って、昼にカレーを食べる儀式をしても……」
「もちろん許す。でも学校ではやめなさい」
「なんでてすか! 学校には信教の自由はないんたすか!」
「そもそも君カレー嫌いじゃん」
「おや、知っていましたか。殘念」
先生が再びテンションを引き戻し、今度は裁判の話へ。
「さて! この信教の自由、実は国との関係がめちゃくちゃデリケートだ!」
先生が書いたのは、“政教分離”という言葉。
「日本国憲法20条と、89条にこう書いてある。“国は宗教活動をしてはいけない”“公金を宗教に使ってはいけない”ってな!」
「じゃあ……神社の地鎮祭に、自治体が税金使ったらアウト?」
「そう! それがまさに出た裁判だ!」
先生が取り出したのは、「津地鎮祭訴訟」の資料。
「三重県津市が、市立体育館の建設前に、神式で地鎮祭をやって、その費用を公費から支出した。これに対して“政教分離違反だ”って訴えが起きた!」
「えっ、そんなことで?」
「些細に見えるかもしれん。でも、国家と宗教の距離感は、ほんの少しでも油断するとヤバいんだ。たとえば――“お気持ちの表明”が“宗教への忖度”に繋がったら?」
「わっかるう……うちの親戚も『神棚だけは触るな』ってガチで言ってくる……」
「小春、それは多分、宗教というより“家庭の地雷”だ」
「なるほど!」
先生は再び、判決の説明へ戻る。
「で、最高裁の判断はこうだった。“地鎮祭は社会儀礼的なもので、宗教活動じゃない”。つまり、合憲!」
「えっ、オッケーなんですか?」
「ギリギリ、セーフだったんだ。簡単に言えば、そこまで宗教色濃くないし、住民や、そこで仕事をする人の気持ち的にも地鎮祭をやっていた方が安心するってことでね。でもこの後、似たケースでアウトになる事件が出た。それが――」
バン!
「愛媛県玉串料事件!」
「タイトルだけで、なんか不穏!」
「これは愛媛県が靖国神社などに公費から“玉串料”を支出してたってやつ。これに対して、“それ、明確に宗教活動じゃね?”って裁判になった!」
「そもそも玉串ってなんですか?」
「ああ、それはね、榊っていう葉っぱに、紙垂っていう、雷みたいな形をした紙を結んだものだよ」
「んー、ちょっと分かんないかもです」
「まぁ、神社に奉納する『捧げ物』って思ってくれればいいよ」
「なるほど。つまり、神社に何かしらの物を捧げたってことですね。そのささげ物を、県のお金で買っちゃったと」
「そう、これは地鎮祭と比べて、あんまりなじみないでしょ? だから最高裁は違憲と判断。“玉串料は宗教的意味合いが強く、国家の中立性を損なう”と!」
先生は腕組みしてうなった。
「日本は多宗教国家だからこそ、“国家は特定の宗教に肩入れしてはいけない”って原則が命なんだ!」
「でも先生、例えば同じように政教分離をうたっているアメリカの大統領って、聖書に手を置いて宣誓してません? ああいうのはいいんですか?」
「それよ! 小春よく気づいたな!」
先生が急にハイになった。
「アメリカは政教分離を憲法で定めてるけど、あれは“儀礼的行為”として受け入れられている! 実際は、政治と宗教がゼロ距離なことも多い!」
「なんかダブスタな気がしないでもないな」
「まぁそれを言ったら日本含めどの国でも同じだからね」
そして、今日の授業も終わりを向かえる。
「自由の国とは、“曖昧さとの戦いの歴史”でもあるんだな……!」
先生は黒板にこう締めくくった。
『信じる心は自由、でも国家は無色であれ』
「……でも私は、先生の布教テンションは信じてません」
「それでいい! それが自由だ、小春!!」
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