結婚年齢に男女差っておかしくない?
日直の男子が黒板を消して帰り支度を始めるころ。嵐山先生は教壇に仁王立ちし、チョーク片手に叫んだ。
「さあ今日もいくぞ、平等魂炸裂タイム!」
「先生、もう帰る時間ですよ⋯⋯」
「無論! 聞いていかなくてもオッケーだ! 全て自由! しかし誰もいなかった場合、僕はこのテンションで一人授業だ! それでもいいのか!?」
「ちょっと見てみたいけど⋯⋯」
小春はちょっと逡巡し、スマホで友達に『先に帰って』と連絡すると、席についた。どうやら小春以外にも何人か、『居残り』を決意した生徒がいるようだ。嵐山先生の姿を見つけて、教室に戻る生徒がちらほら見られた。
「本日のテーマはッ――“結婚年齢における男女差別”だぁ!」
「これ、最近の話ですよね。昔は違うってのにむしろびっくりです」
小春が半眼でつぶやく。取り出されたノートの表紙には「嵐山裁判塾」と書かれていた。
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かつて、民法では「男性は18歳、女性は16歳」から結婚できると定められていた(旧民法731条)。
「なんで女性のほうが若くていいの?」
「その疑問が、まさに今回の主役だ!」
嵐山先生がガンガン黒板に書きなぐる。
「この規定は、戦後まもない昭和22年に制定されたもので、当時の社会観念に合わせて作られたんだ」
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「小春、今の18歳統一の話で『昭和22年に決められたルール』って言ったけどさ、その当時の社会観念、つまり“常識”って、今とはまっっったく違ったのよ!」
「ですよね。戦後すぐって、まだ“封建的価値観”が根強く残ってたって聞いたことあります」
1947年(昭和22年)。日本は敗戦直後の混乱期。
「終戦からまだ2年。食料も物資も不足してて、みんな生きるのに必死だった。社会制度もまるっとGHQ主導で変わってた頃!」
その中で「家族」や「結婚」のあり方も、大きく見直されようとしていた――けれど。
「当時の日本にはまだ“家制度”の余韻が残ってたのさ!」
嵐山先生は黒板に「家父長制」とデカデカと書いた。
「男性が一家の長で、家を継ぐのも財産を管理するのも男。女は“嫁ぐ”存在。“早く結婚して良妻賢母に”っていう価値観が主流だった」
「学校教育も“女子は家庭科で裁縫、男子は技術で木工”っていう時代ですね」
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そして、もう一つ大きな要素。
「戦後、戦争で男性人口が激減してた。だから、若いうちに女性を結婚させて、家庭を築かせる方が“健全な社会復興”になるって考えられてた」
「えっ、国家レベルで“女は16で結婚して子ども産んでくれ”ってことですか?」
「当時の立法担当者の会議録、読むとほんとにそういう発言が出てくる。“16歳でも女性は成熟してる”ってね……」
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もちろん、すべての人がそう思ってたわけじゃない。でも、法律に反映されるくらいには“当たり前”だったというのがポイントだ。
「しかも、当時は結婚したら自動的に“成人扱い”されたから、“成人女性が16歳”って法の穴もあったの!」
「うわ、それ……現代から見たらかなり危うい制度ですね」
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つまり、
・家制度の影響で、女性は若くして結婚して「家」に入るものとされた
・戦後復興の政策的観点からも、“早婚”が推奨されていた
・男女の役割分担思想(男は働き、女は家庭を守る)が強かった
・性成熟=結婚可能という、身体だけで判断する価値観が残っていた
「そういう背景が、結婚年齢の男女差を正当化しちゃってたんだ」
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「小春、法の不平等って、悪意ある差別だけじゃなくて、“当たり前と思われていた偏見”から生まれることも多いのよ!」
「つまり、“その時代の常識”ってやつが、後から見たら非常識の塊ってこともある……」
「その通り! だからこそ、“今の常識”にも目を光らせないといけない! それが憲法学の醍醐味だァァァ!!」
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しかし時は流れ、時代は令和。
「結婚年齢に性差を設けるのは法の下の平等に反するのではないか」と、見直しを求める声が次第に高まっていった。
「2012年には法制審議会が“統一すべき”って答申出してるんだよね」
「それでも改正には10年もかかったんですね……」
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そしてついに!
2022年4月、改正民法が施行され、男女ともに結婚年齢が18歳に統一された!
「つまり、現行法では16歳で結婚できる女子はいない。この改正で、法の下の形式的平等は一歩前進したわけだ!」
「よかった……令和の時代で“女子は16で嫁に行け”みたいな制度が残ってたら、さすがにヤバいですもんね」
「それな! ちなみに、結婚年齢引き上げの影響を受ける女子が“婚期を逃した”って騒動になったりはしなかった模様だ!」
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ちなみに、今回の年齢引き上げには、女性の身体的成熟が早いからって理由はもはや通用しないという、国際的な人権意識の変化も影響している。
「国連からも、“結婚年齢の性差撤廃”は強く求められていたんだよね」
「たしかに“女子は早く結婚して家を守れ”みたいな価値観、今では完全に時代遅れですし」
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「というわけで、この制度変更は小さな一歩かもしれないけど、“法の下の平等”がちゃんと形になった実例でもある!」
「でもこれって、ちゃんと市民が声を上げて、制度を変えた成果でもあるんですよね」
「そう! 法律ってのは、社会の鏡であると同時に、変化する器でもあるのだ!」
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「ということで、次回のテーマは……国際的圧力にも絡んでくる『女子差別撤廃条約』にズームインだッ!!」
「嵐山先生、またテンションが上がってきましたね……そろそろマイクとか持ち出しそう」
「国家権力よりノドが潰れる方が怖い嵐山だッ!!」




