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産声、帝国憲法、叫ぶ

 流石に魔界で憲法の話ってできないよね?

 という訳で小春の高校編。

 スターッッッツ!!




『産声、帝国憲法、叫ぶ。』


「はーい、席につけー!教科書出せー!目覚ませーッ!!」


朝のホームルームが終わるや否や、教室の後ろから風のごとく現れたのは、社会科担当・嵐山あらしやま先生だった。スーツのボタンは常に一つ外れていて、髪の毛は寝ぐせかパーマか判別不能。そのハイテンションと共に、今日も何かが始まる予感がした。


「……また、元気ですね先生」


小春は筆箱を開きながら、目を細めた。周囲の生徒たちもすでに半ば諦めた顔で、席につき始めている。


「さあて今日はァ!満を持して登場ッッ!!その名もォ──!」


バァンッッ!!


先生は黒板を殴って粉チョークを舞わせながら、巨大な文字を書き殴る。


《大日本帝国憲法》


「────うわあ、なんか来た」


小春の呟きは誰にも届かず、先生の独演が始まった。


「お前らァ!憲法って聞いて何を思い浮かべる?人権?三権分立?パリピの自由?違うッ!」


「……最後のだけ違う」


「今から話すのは、現行の“日本国憲法”じゃない!これは……!明治天皇が!自らの御意思によって国民に与えたッッ!!」


バァァン!!


欽定憲法きんていけんぽう


と、また板書。


「“欽定”とはつまりッ!『オレが作ったルールを、お前らに与えてやるぞ』という意味だ!そう、この憲法は国民が勝ち取ったものじゃない!明治天皇が、国家の主人として、臣民しんみんに“下賜かし”したものなんだああああ!」


「テンションが王政復古なんですが……」


小春の突っ込みをよそに、先生の口からは怒涛の説明が続く。


「そして最大のポイントは……天皇大権!!」


《天皇大権=天皇のすごい権限集》


「軍隊の指揮、条約の締結、法律の公布、裁判官の任命、ぜーんぶ天皇陛下の“ご聖断”によって行われる!すごいぞ明治天皇!国家の全ボタンを一人で押せるモード!スーパーコンボ発動中だ!」


「なんか、天皇陛下がロボットの操縦者みたいな説明になってますけど……」


「つまり、立憲君主制って言ってるけど、実態は天皇が超パワーを持ってた!ということだ!」


《立憲君主制(ただし大権は天皇)》


「で、ここからは統治機構の話だ!」


パッと黒板に模式図を描く。お世辞にも上手いとは言えないラクガキのような絵に、生徒たちは笑いをこらえていた。


「議会には貴族院と衆議院がある!貴族院は華族とか皇族とか、つまり“えらい血筋の人”がメンバー。対して衆議院は選挙で選ばれる!」


「……ってことは、国民が直接関われるのは衆議院だけってことですよね」


「そうッ!でもな、法案を通すには両院の賛成が必要だったから、実質的に“貴族が通さなきゃ意味ない”状態だったんだ!」


《衆議院→選挙 / 貴族院→貴族様ご一行》


「“民主主義のコスプレ”って感じですかね……」


「いいツッコミだ小春!正直、当時の制度は“君主制+議会制度もどき”くらいに思っておいて構わん!」


「言い方!」


「さあて次!臣民の権利と義務、いってみよー!!」


黒板に書かれたのは:


《臣民の権利と義務》 ・法律の範囲内で言論の自由 ・法律の範囲内で信教の自由 ・納税・兵役の義務


「見ての通り!“法律の範囲内で”っていう制限がある!つまり、法律で制限されれば自由なんて消し飛ぶってこと!」


「え、じゃあ自由って言えないんじゃ……」


「その通り!だからこそ現代の“人権”とは全く別モノだったんだ!権利はあくまで“許された範囲”の話!それが臣民!」


「国民じゃなくて“臣民”なんですよね」


「YES!天皇の臣下だから臣民!国家の構成員というより、君主の家族的な存在として扱われてたのだァ!」


先生は黒板に“主従関係”と大きく書き、ハートマークまで添えた。


「なんでハート……」


「さあ!最後に……この制度が実際に“揺らいだ”事件を紹介しようッ!」


《大津事件(1891)》


「これはロシアの皇太子が日本を訪れたとき、警察官が斬りつけたっていう事件だ!これ、明治政府は大パニック!“まずい、外交問題だ!その警察官、死刑にしろ!”って政治家たちが騒いだ!」


「……あれ?まだ裁判もしてないのに?」


「そう!でも当時の大審院のトップ・児島惟謙これたかっていう裁判官がこう言った!『裁判は法に基づいて行う。政治が口出すな!』」


「か、かっこいい……!」


「なあ小春……このときの判決が“皇太子は外国の人間だから、日本の法律で“皇族”としては扱えない”って内容だったんだ」


「つまり、死刑にはできない、と?」


「YES!そしてこの一件が、日本の裁判が“法に基づいて独立して行われる”ことを世界に示すきっかけになった!まさに司法の独立の萌芽だァ!」


「これだけは、立憲主義っぽいですね……」


「そう!そこが面白いところなんだ!」


先生はチョークを置き、ひときわ神妙な顔になった。


「……大日本帝国憲法は、権力が集中した制度だった。でもな、その中でも法を守ろうとした人たちがいた。“法律”と“憲法”の意味を真剣に考えた人たちが、いたんだよ」


小春は、先生の熱っぽい目を見ながら、そっと手帳を閉じた。


「──先生、たまにはいい授業しますね」


「たまにはって言うなァァァ!!」


教室に笑い声が響く中、チャイムが鳴った。


今日の社会は、少しだけ熱かった。




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