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08

 

「お見合い、ですか」


 酷く沈んだ声だ。


「あぁ、そうだ。ぜひ、と先方からお声があってな。宮廷騎士だ。それに爵位も上のほうだぞ」


 王国騎士団団長を務める養い親の嬉しそうな笑みに何も言えなくなる。


「女物はよくわからんからな。ドレスと、あとは何が必要だ?」

「さぁ……私も、そういうのは詳しくないから。……お父さん、この話って、レイも知っているの?」


 危惧しているのはそこだった。


 お見合いするには少し遅い年頃で、行き遅れないか心配しているのは知っていた。


 サーシャに結婚する気がなくても、養い親が見合いの話を持ってきたら断ることもできない。

 養い親はできるなら、男ばかりの騎士団ではなく、宮廷の女官や、家の仕事をしてほしいと口を酸っぱくして常日頃から言っていた。

 だからなおさら、見合いの話が来て喜んでいるのだろう。


 ラインハルトが、知ったら怒るだろうな。


 恋人の姿を思い浮かべて、溜め息を吐いてしまう。

 怒った姿も格好いいけれど、静かに怒りを燃やす彼が苦手だった。何を言ったらいいかわからなくなって、とても息が詰まってしまう。

「お見合いをすることになった」のたった一言が喉をつっかえて言えない。言わなかったら言わなかったで怒るのだろう。

 もやもやと胸に蟠りが積もっていく。


「団長、隣国の騎士団について――」

「おお、レイ! いいところに来た!」


 サーシャにしてみたらバッドタイミングだ。

 つい苦虫を噛み潰した。


 団長の執務室にいるサーシャを見て物珍しげに首を傾げる。


「聞いてくれレイ! サーシャの見合いが決まったぞ」


 嗚呼言っちゃった。怖くて後ろが振り向けない。


「は?」


 しっかりと一拍置いて、重低音が響いた。


「相手は宮廷に仕える騎士だ。宮廷騎士と言えば出世街道だろう。サーシャの相手には申し分ないと思わないか?」

「……あぁ、確かにそうですね。将来のことを考えれば良い相手でしょう。サーシャは、その見合いに、前向きなのか?」


 一句一句区切られた言葉が怖い。

 温度を感じさせない声色に、ゆっくりと後ろを振り向いた。


「あの、……お父さんが、望むなら」


 どちらとも取れない言葉に、整った冷たい顔を顰めた。


「サーシャは、と俺が聞いているんだが」

「え、っと……その」


 背筋を冷や汗が伝った。


「――お前には俺がいるのに?」

「はっはっは! 相変わらず仲が良いな! だが、そろそろ兄離れ、妹離れをしようじゃないか」


 見合いは三日後だ、と快活な養い親の言葉とは裏腹に、サーシャの心は重く雲がかかっている。きっと、ラインハルトの内心は嵐か吹雪で荒れているだろう。


 執務室を後にする、すれ違い様に「夜、俺の部屋に」と囁かれた。

 これほど、夜の訪れが恐ろしいと思ったことはない。

 


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