04
ラインハルトに押し通され、恋人同士になってしまった。
好きな人と両想いになれて嬉しいと思う反面、複雑な気持ちでもある。
養い親にも、誰にも内緒の秘密の関係だ。いけないと思いつつも、心は浮き足たってします。
「サーシャ」
執務室の書類整理をしていると、後ろから甘やかな声で抱きしめられる。たったそれだけでも、サーシャはドキリと大きく胸を高鳴らせた。
公私混同はいけない、と思いつつも頬が緩んでしまう。――たとえ、一時の幸せだとしても、今だけはささやかな甘い時間に身を委ねたかった。
「……ダメよ、これから外周りでしょう」
「少しだけだ」
甘えん坊な子犬のように、首元にスンスンと鼻先を押し付けられる。
首元のボタンを片手で器用に外し、リボンタイをしゅるりと外される。
「もう、ダメだって……!」
開いた胸もとに手が滑り込みそうになったとき、コンコン、と扉がノックされた。
「れ、レイ!」
愛称で嗜めれば、小さく舌打ちをして離れていった。慌てて襟を整える。
恋仲になってから、ラインハルトの行動はとても大胆になっていた。
距離感が近くなり、まるでマーキングするかのように抱きしめられ、手を繋ぎたがる。
誰もいないならもちろんサーシャも応えるけれど、誰が見ているかもわからない場所でそれをされると困ってしまう。
誰にも内緒で、秘密の関係なのに、それをわかっているのかいないのか。
養い親にバレてしまったら、終わってしまう関係なのに。
窓を向いて、リボンタイを直しながら溜め息を吐いた。
ラインハルトの愛は、とても大きくて時折胸焼けしそうになる。
「失礼いたします。副団長に、お客様がいらしています」
背中で聞きながら首を傾げた。
秘書官として、直属上官であるラインハルトのスケジュールは分刻みで頭に入れているが、来客の予定なんて入っていなかったはずだ。
騎士団で一番忙しいのは副団長だ。
団長と団員の間に入り、団員の訓練指導から他団体への外回りから挨拶周りで何かと忙しい。
来客の際は必ずアポイントを取ってもらうようにしているが――アポ無しの訪問か。思わず眉根を寄せ合わせた。
「副団長はこれから外周りに行く予定です。それよりも優先すべきお客様ということでしょうか?」
自然と言葉尻がキツくなる。
近くに寄ったからご挨拶に、というのが一番厄介だ。副団長という役職を暇だとでも思っているのだろうか。
「そ、それが――」
言いにくそうな団員に、片眉を上げた。
「聖女様がいらっしゃってる!?」
よきせぬ嵐の到来だった。




