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『英雄』を狩る者  作者: オーエン
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③五話(6)




 結果いたる過程。

 過程の先に残る結果。

 受けとる印象や考え方は人それぞれだろう。


 引き分けに終わった戦いを……

 『勝てなかった』と感じるか

 『負けなかった』と感じるか

 または、そもそもその結果こそを理想的だと諸手を挙げるか。



 のぞまずしてゲリラ的に襲いかかってきた脅威に対し……

 ラグニスというウサギ系獣人の少年は、『勝利』という結果を手にした。


 だが、けっして……戦いに勝ったわけではない。

 全身を雷光に包んだヴィリカを相手に、むしろラグニスは押されていた。

 知覚が叶ったところで、超超高速で動き回る少年にラグニスの肉体は追い付かない。身を守る事は出来ても、こちらの攻撃はヴィリカにかすりもしない。

 秒も必要とせず数百メートルという距離を作り出せるデタラメな速さ。しかも、そのデタラメを纏った拳や蹴りはソレだけで必殺足り得る威力である。

 もろに直撃など貰おうものなら、貧弱なラグニスではたった一撃でもKOは免れない。


 だがそれでもまだ、この数分を軽傷で生き残れているのは……ラグニスが強いから、ではない。


 一重に、ラグニスとヴィリカの二人だけではないからである。

 もっとわかりやすく言うならば、ラグニスとヴィリカの戦いに割って入る事の出来る『第三者』の存在が大きく関わっている。


「あぁーークッソ!! 応援はまだ来ねえのかよ!?」


 痺れを切らしたように叫び散らすヴィリカだが、戦闘から気を散らすような愚行は起こさない。

 ガミガミと悪態をつきながらも、地から突然突き上がる黒い剣や、死角から放たれる銃弾に正確に対応してみせる。

 まだ子供とはいえ、やはり最強の騎士団の一人。

 ラグニスやイレギュラー二人を相手にしてさえ、善戦を保っている。


 だが、少女達イレギュラーも負けてはいない。

 突然ラグニスとヴィリカの戦闘に横槍を入れてきた少女達……リアーナとキティだが、ラグニスから見ればこの二人も十分に異常であった。


「……右っ」

「はい!」


 一瞬だけ影から出てきたリアーナが右側に、何か拳だいの物体を投げたかと思えば、一瞬後にソコへヴィリカが何故か立っていて、どこからともなく撃ち出された銃弾がその物体を撃ち抜き……閃光と甲高い異音を轟かせた。

 そこでようやく、投げたソレが閃光弾だったのだと、ラグニスの思考が追い付く。直感的に目と耳を塞いでいなければ、ラグニスも致命傷を受けていただろう。


 そして直撃を受けたと思われたヴィリカは、やはり一筋縄でいく筈もなく、むしろ銃弾の飛んできた方向へと瞬く間に方向転換して跳躍した。

 だが、発射位置へと辿り着く頃には、銃弾の主はリアーナの《魔法》で影の中へと消えている。

 そんなヴィリカの死角から、影でできたおびが絡み付こうと襲いかかる。それでもやはりヴィリカを捕える事は叶わず空振りに終わる。


 このたった数分で、このような攻防が幾度も繰り返されているのだ。


 もちろんラグニスの油断を悟られれば、容赦なく銃弾や影による攻撃がこちらにも襲い来る。


 『王国軍』のラグニス

 『革命軍』のヴィリカ

 『他国兵』のリアーナとキティ


 今回の《ラグナロク》が始まってようやく、本来あるべき三つ巴の光景が広がっていたのだ。


 ラグニスやヴィリカは知らぬことであるが、今回初めて二人で前線に躍り出たリアーナとキティの二人であるが……まるで示し合わせたような息の合ったコンビネーションを、なんとアドリブで見せていた。

 お互いの能力すら正確に把握している訳でもないのに、まるで歯車が噛み合うように……奇跡的なまでに、互いのやりたい事が見事に噛み合っていたのだ。

 雷速のヴィリカを圧倒しうる程に……


「ぼ、ボクだって……っ」


 ラグニスとて、ずっと逃げに徹していたわけではない。

 ヴィリカ相手に攻撃は当たらずとも、触れるくらいならば出来る時もある。


 ヴィリカといえど常に超高速という訳ではない。踏み込みの瞬間は一瞬止まるし、方向転換時にわずかに失速する瞬間があったりもする。それに長時間もの間、つねに全力で走り回れる程ヴィリカに特出した持久力はない。

 むしろ、ごく短時間で超長距離を移動できるヴィリカに持久的な体力はあまり必要性がないのだ。主な作戦行動でさえ、偵察がほとんどである。

 戦いともなれば、ヴィリカが走り回らずとも最強足り得る聖騎士達が勝手に倒してくれるし、特に団員全員の信頼も厚いリンドが存在する時点で勝敗は決しているのだ。

 戦闘向きな力を有しているとはいえ、戦闘をメインとする戦法を常としないヴィリカにとって……今回のような苦戦する経験は極端に少ない。


 ラグニスはその僅かなヴィリカの隙を、『全く意識できてない』のに偶然にも突けそうになっていた。

 そして、コレも直感的であるのだが……自然界に無数ともいえる影の中、リアーナが次にどこから出てくるのかわかってしまうのだ。

 思考の癖とか、状況的な合理性とか、そんな難しい事は微塵も理解できていないのに……ラグニスは『なんとなく』で正解を導き出してしまう。

 絶対ではないとはいえ、五回に四回は当てる。なかなかの正解率ではないだろうか……。



 だが……ラグニス・ルー・ビットリオには……あまりにも致命的過ぎる弱点が存在する。



 それは……――



 ――その内気で気弱で……優しい性格故に……

 ……『女の子を攻撃出来ない』のだ。


 ラグニス自身よりも、か弱そうで良い子そうな女の子は特に……。


 そして、リアーナとキティは……ラグニスにとって『ソッチ側』の認識に部類されてしまうので、もはや言わずもがな……この二人には現在進行形で防戦一方なのである。

 もし万が一……奇跡的に、ヴィリカを下すことが出来たとしても、ラグニスにリアーナ達と戦うことは出来ない。

 生き残るためには文字通り『脱兎のごとく』逃げる他ないのだ。


(いやいやいやいやいやいや! ムリムリムリムリムリムリっ!!!! 逃げられっこないよぉーー!!)


 方や、目にも追えぬ雷速の聖騎士。

 方や、影間を移動できる《魔法使い》&長距離でも正確無比な狙撃手。


 いくら逃げ足に定評のあるウサギ獣人とはいえ、逃げられる筈がない。不用意に背中を見せた瞬間、即リタイア必至である。


(ど、どどどどどどどうしよう!? ホントもうどうしよぉおお!!?)


 戦闘中だというのにラグニス、涙目である。


「おいゴラぁ! くそウサギっ!! 余裕かましてんじゃねぇぞオ゛ラァ!」

「よ、余裕なんて……そんなの無いですよぉ~……!」

「うるさい」

「……ビットリオ君。同じ一年生だけど、手加減とか……しなくていいので……もっと真面目にやってください」

「む、無理ですぅ!! ホント無理なんで、ごめんなさいですぅ!!!!」

「テメェなんで参加したんだよクソガキ!?」

「色々、あ、あるんですよ! というか、君だってあまり年齢かわんないじゃ……」

「うるせぇ!!」

「理不尽だよぉ……」


 駄弁りつつも手は休めない少年少女。

 それぞれに思惑はありつつも、あっと一歩踏み込めずにいるのも事実である。



 そんな中、リアーナ・レイ・フォルトは……密かに一人、驚いていた。


 戦えている。


 確かに、ラグニスやヴィリカが単騎であることに比べ、こちらはキティという心強い味方がいる。

 だとしても驚きであった。

 ラグニスはもとより、あの聖騎士団の一人を相手に……まともに戦えているのだ。


 入学してからのこの数日、リアーナの周りには……リアーナが足元にも及ばぬ程の強者ばかり。

 ツートップの結歌とアリシア、先日の副会長ロイドによる仕分け試験、数日前の暗殺者襲撃、そして……そのどれよりも鮮烈な……先輩との邂逅。

 この数日リアーナは、己と周りとの圧倒的な差に……心のどこかで確かに打ちのめされていた。自分は強くなどないのだ、と。

 あの人達は……遠くて、近付くことも出来なくて……。

 そして、昨晩護衛として一晩を共にしたアリスでさえも……開幕一番のあの一発である。

 次元が違う。


 そんなリアーナには、今戦えているこの状況が……無力ではない現実が、新鮮で、少し……嬉しかった。

 無論、ヴィリカが本気でないことはわかっている。

 力をある程度セーブしなければ、他者をあやめてしまう恐れがあることも、リアーナ達を殺さぬ為に手加減している事も理解しているのだ。



 手加減されてくやしい?

 ……違う。


 相手が手を抜かねばならない程に、ヴィリカにとって自分達の命は『人質』としての価値がある。

 この命は、道具として使いようがある。



(本当に……こんな汚い考えがよぎるなんて……。全部、先輩のせいですからね……。……ふふ)



 ならばと、リアーナは手にした影斧を自らの首へと……――



 そこまでして……リアーナは急に手を止めた。

 いや、それどころか完全に動きを止めてしまった。

 その隙をヴィリカが見逃すはずなどあるわけもなく、一気にその距離をゼロに――


「……残念です」


 ……ピタ


「ぁあ……? 何が言いてぇ?」


 いぶかしむヴィリカに対し、リアーナはポケットから携帯端末を取り出した。

 そして映し出されたディスプレイには……


 『リンド・アークレイヴ、反則により失格』という文字が……


「……どうやら、アチラは決着がついたようです」

「おい……おいおいおい! 何の冗談だよ!! 団長がルール違反で負けって……んなことあるわけねぇだろ!!! あの人は人一倍ルールに厳しくて……とにかく違反なんてありえねぇ!!」

「ですが、実際にこうなっている以上……『王役』の脱落により『革命軍』は敗北扱いです。……もうアナタと戦う理由はなくなりました」

「……ぐぅ……」

「折角盛り上がりかけてきたのに……空気読めてない」

「キティ先輩、チーム戦とはこんなものですよ……」


 苦虫を噛み潰したような苦々しい顔を浮かべるヴィリカ。

 折角、ボロボロになりながらも時間稼ぎに全力を注いでいたのに……増援は来ないわ、トップは下らない理由で勝手に敗北するわ……。努力がすべて水の泡である。納得など出来るわけもない。

 とりあえず何よりも真実を目で確認する必要がある。

 その結論に至ったヴィリカは、もう一度だけラグニスへ視線をやり――


「次、る時は、今回の分も含めてボロクソにしてやるから覚悟しとけよ! クソウサギ!!」

「ちょっ……なんでボクだけに言うんですかぁっ!!?」


 そんな言葉を残し、リンドや他の騎士団の元へと向かった。


 そして残ったラグニスと少女達。

 もうこれ以上なく、脂汗をダラダラ流すラグニスだが……


 銃口を下げないキティとは対照的に、リアーナに戦意と呼べるものは残っていなかった。


 それはまぁ……仕方がないのだ。


 城下町の喧騒

 その中からリアーナは、師とあおいだ少年の『宣告』を耳にしてしまったのだから。

 本当に意味のわからない人である。


「キティ先輩」

「……」

「……私、もう()()()()けど、どうしますか? 一人で続けますか……?」

「……やめるの?」

「私は……元々の目的を達しましたし、続ける必要もないかと……」

「まだ、終わってないよ?」

「終わらせるのは……私じゃなくてもいいですから。……それに――」

「……?」

「先輩、また何かやらかすみたいですよ? ……弟子の私としましては、邪魔にならないようにしておくべきかと」

「……そ」


 リアーナは携帯端末で棄権申告を済ませる。

 それに続くように、キティも同じように端末を弄る。


「ビットリオ君」

「……え、あ、はいっ」

「戦いの途中ですが、今回は私達の負けということで……文句はありませんよね?」

「ま、まぁ……」

「……では、ビットリオ君は引き続き頑張ってください。……おそらく、次の相手は私達なんかより……いびつで、この上なく危険な相手だと思いますが……」

「ぅえ? それって……」

「……健闘を祈ります」


 影に消えていく二人を見送り、取り残されたウサギは……

 全く何も理解の及ばぬ中、結果的に勝利を手にしてしまったのだった。


「……コレは、勝ちって言うのかなぁ……」






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