#46(最終話)
僕は全校集会の様子をすべて拝見させていただいた。
その時に、僕が感じたことはその都度、入れさせていただいたが……。
「友梨奈さん、先ほどまで、よくやってくれた……」
思わず、苦笑をしてしまう。
「やはり、自殺行為が起きてしまったからには、人権やヒトの命に関する授業をしていていただきたいものだ……」
そして、僕はたまたま手元に置いてあったメモパッドに「授業内容の変更」と書き込んだ。
人権週間は12月にあるが、こればかりはどうしようもないのかもしれない。
国語の授業には「人権作文」を書き、発表してもらう。
理科の授業には「ヒトの誕生について」の授業とかにしておけば間違いないと思われる。
部活動に至っては、友梨奈さんらしく、悔いなく演奏してもらうしかない。
これについては、僕がどうこう言うものではないから――――。
†
友梨奈さんは今、誰もいない教室にいる。
「死ぬのは……嫌だよ……」
彼女は通学鞄を持ち、涙をこぼしながら、教室から出て少し走ったところで僕にぶつかった。
「友梨奈さん」
「ジャスパー先生……」
「すみません!」
友梨奈さんが僕に謝ってくる。
その時、僕はなぜか両手で彼女の顔をゆっくり上げた。
「友梨奈さん。今までお疲れ様でした。やり残したことはございませんか?」
「ハイ、ありません。これで私は「木野 友梨奈」及び「野澤 結衣」としての人生を終えても大丈夫です!」
「それでもよろしいのですか?」
「本当はもっと生きたかったですが……」
確かに、友梨奈さんはまだ14か15。
おそらく彼女がやりたいことはたくさんあるだろう。
「友梨奈さんは今日まで頑張ってこられましたが、ここは僕からさよならを告げなければなりませんね……」
「……えっ!?」
僕は友梨奈さんの身体から手を放しながら呟いた。
一方の彼女は状況が分からず、驚いている模様。
「まずは解析結果をご報告させていただきます。友梨奈さんは亡霊になる必要はございません」
「本当ですか?」
「ええ、本当です。前世……いや、現代に戻させていただきます。それに伴い、友梨奈さんが「野澤 結衣」として生きていたことと僕と会ったことはすべての人間の記憶から消去されます」
「消去だけは……いや」
「それは仕方ないのです」
「私、忘れたくないのです……」
今の友梨奈さんにとっては忘れたくはないのではないかと思った。
僕と会ったことや「野澤 結衣」として生きてきたということ――。
そのすべてを僕がなくさなければ、彼女を現代に戻すことができないのだ。
「たとえ、友梨奈さんが僕のことを忘れてしまったとしても、僕はあなたのことを忘れたりはしません」
「本当ですか?」
「ええ。では、時を戻しますので、大体いつぐらいにしますか?」
「私が学校の屋上から飛び降りた日だから……5月の下旬でお願いします」
「畏まりました。それでは友梨奈さん、またどこかでお会いする日まで……」
僕は友梨奈さんに微笑みかけながら、彼女の視界から姿を消した。
友梨奈さんの人生は彼女自身で動かすもの。
たとえ、辛いことがあったとしても、彼女ならきっと――。
~ Fin ~
2017/08/14 本投稿




