#44
あれから、結衣は家に着き、宿題を速やかに終わらせ、かつては自分が使っていた楽器を眺めていた。
おそらく彼女はもう1度やってみようと思ったのかもしれない。
楽器ケースをしまい、鞄の中にいれ、本棚に置いてあるルーズリーフバインダーを手に取り、何やら書き記している。
それは残された時間でやっておきたいことをまとめていたのだ。
「木野 友梨奈」として、「野澤 結衣」として――――。
†
翌日……。
結衣は朝早くから学校に着いていた。
これから自分の存在がなくなるにも関わらず、通学鞄を持ったまま1人で校内を回る。
「そういえば、音楽室に行っていませんわね……」
彼女は他のところはすべて回ったが、音楽室だけは足を運んでいなかった。
その時、音楽室の鍵がかかっておらず、結衣は苦笑しながら入る。
楽器を取り出し、自分が使っていた楽譜や譜面台を探し、彼女の好きだった曲を独奏で演奏を始めたが、早紀達に聞かれていたのだ。
「結衣ちゃん、上手だったよ」
「なんか友梨香と友梨奈が吹いているような気がしたよ!」
「結衣、もしかして……友梨奈じゃないよね?」
結衣を褒める者がいれば、友梨奈さんかもしれないと疑う者もいる。
しかし、彼女は「ハイ、そうですが」とその少女の疑いを晴らそうとした。
「わたくしの楽器は友梨奈さんのものをお借りして演奏させていただきましたので、そのような気がしただけだと思いますわ」
「そう、だよね。友梨奈が使ってた楽器だから似たような音になるのはしょうがないよね」
「紛らわしくて申し訳ありませんわ」
「いいよ。結衣は結衣だもん」
彼女は「そうだよね。友梨奈じゃないんだもんね……」と話していたので、結衣が友梨奈さんだということにバレていないと思われる。
「ところで、結衣ちゃん。何か忘れてないことはないかな?」
「えっ!? 何かありましたっけ?」
早紀に問われて彼女は小首を傾げている。
もしかして……結衣は全校集会の存在を忘れているのではないのだろうかと僕は密かに思った。
「今日は全校集会の日の日だよ?」
「……あっ……忘れていましたわ……」
案の定、彼女はその存在を忘れていたのだ。
友梨奈さんは天然なのではないかと思う。
それを疑っても仕方ないことではあるのだが……。
「急いで楽器を片付けて、講堂に移動だね」
「ええ」
彼女は楽器を片付け、通学鞄を持ち、早紀達とともに音楽室から講堂へ向かった。
2017/08/13 本投稿




