秀吉様と私
「どうしたものか……」
部屋の中をうろうろと歩きまわる刑部様。
小姓さん達の話では、あの秀吉様が私に会いたいと刑部様に話したらしい。
「猫は急な環境に耐えられぬと聞くが……」
二刻程この調子である。
時折、チラリと私の方を見る刑部様。
「月耀に酷な思いはさせとうないし……」
……相当悩んでますね。
「かといって、秀吉様に来ていただく訳にはいかぬし……」
……コレって禿げるか、胃がやられるかのどっちかなんじゃないのかしら?
と思っていたら、廊下が騒がしい。
ドタドタとせわしない足音。
「刑部様、大変です!、ひっ秀吉様が……?!」
小姓さんが慌てて刑部様に知らせていると、
「ごめん、一刻も早く会いたくて、来ちゃった」
軽い感じで、秀吉様が後ろから現れた。
「秀吉様、寧々様に怒られますよ?」
「寧々には黙っててくれ」
黙って来たんですね?わかります。
「無理です。寧々様、怒ると怖いんですよ?秀吉様が一番知ってますよね?」
秀吉様、顔面蒼白です。そんなに怖いんでしょうか?
私は勿論、毛繕いをして無視を決め込む。
「……言っておった猫はこの猫か?本当に愛らしいのう」
秀吉様は、毛繕いの終わった私をひょいと抱き上げた。
「話をそらさないで下さい。秀吉様は、今や天下人なのですよ?」
「……判っておる」
流れる動作であぐらをかくと、私を撫で始める秀吉様。勿論、刑部様も座る。
この後、寧々様が秀吉様を引き取りに現れ、刑部様もとばっちりをうけていました。
太閤殿下の猫好きはかなり有名です。