十四話
「如何お過ごしだろうか、人間界の皆様方」
いよいよ会見の時がやって参りましたわ。前回の通信では音声のみでしたが、今回は私の姿を見せるために遠見の鏡を利用して映像までも送ることになりました。動かすのはヴァーミナスが行っているため、激しく気になりますが原理などはわかりません。
けれど私とヴァーミナスが魔力を合わせれば、魔法で解決する問題はもはや問題とは呼べませんのよ。
それにしても、流石は魔族、――ディマでしたわね。ディマの国ですわ。遠見の鏡は魔法通信より遥かに楽に遠くの物が見られますわ。復讐にとても役立ちそう……使わせてもらえるのか後でレプケに確認しなければ。
鏡の横で出番を待つ私の正装に隙はありません。身動きをするだけで光を反射する白い生地は、存分に私を引き立てていると自負しています。
またも仕立て屋と露出に関して議論が交わされましたが、今回は人間界に向けてのメッセージのためであるとして、全面的に私がデザインしました。
まだ人間界に見せるのは恥ずかしいですけれど髪の毛は結い上げつつ、全てを固めることなく両サイドに流して肩に垂らし、ヴァーミナスの期待にも応えましたわ。
ディモルト界に置いても、人間界に置いても恥ずかしくない格好でなければ使者としての説得力は生まれませんものね。それにしても、手首足首まで布があると落ち着きますわ。
「この良き日に諸君らにめでたき出来事を伝えられることを、嬉しく思う。まずは今日の主役である我が婚約者を紹介させて頂こう。アントワーヌ!」
私の名前を呼んで、舞台上のように腕を挙げたヴァーミナスの元へと進み出れば……フフ、驚愕に言葉を失っているであろう勇者たちの顔が思い浮かびますわね。
「……初めまして。皆様方、ご機嫌よう。いかがお過ごしでしょうか? 私の名はアントワーヌ・ド・サミキュリア・フォン・ムッカナン・ドルツストイアと申します。本日は皆様に、私が魔界……正式にはディモルト界と人間界の橋渡しをする大使になったこと、ディモルト界の王であるヴァーミナスの婚約者になったことをご報告させていただきます」
一つ間を空けてヴァーミナスに親しげな笑みを向け、人間界へのアピールはばっちりですわ。
「私が何故ここに居るのか、また何故魔王と婚約したのか疑問に思われることと思います。ごもっとも、敵対しなければいけない魔族たちに取り込まれたかとお思いになるでしょう。しかし皆様にお伝えしたいのは、この和議の申し入れに嘘偽りのないことですわ。今よりディマ国が人間界への侵攻を一時的に停止、また支配している都市や村々を封鎖することを宣言します」
ここで重大発表の内容をヴァーミナスが説明していきます。封鎖というと中の人たちが困りそうな印象を持ってしまいますけれど、実際にやることは真逆ですわ。この期に乗じて魔族を殺そうと攻めて来たり、魔族に寝返ったか! と激情する人の刃を、無辜の民に向かわせないための封鎖です。
あらかじめ予測できる争いは防がなくては、火に油を注いで取り返しのつかない虐殺劇を披露するだけになりますもの。
侵攻の停止も油断させるためだと思われようが、あちらが警戒に力を入れるのは悪いことでもありませんし、奇襲をかける意味がないのですからしません。
数日経てば和議の提案も聞くだけ聞いてみようかと言う人は必ず現れます。それまでに、私は復讐のための手を打たなくては。
「……つまり、我々が人を殺すことはむしろ魔界に災いをもたらすことに他ならないのだ。よって人間界で戦争を起こさないことを条件に、和議の申し入れを行う。使者は今頃そちらに着いているだろう。良い返事を期待している」
赤い雨の説明と和議の文書に記載した中で最重要である、人間同士の戦争を禁止する条項を伝えて、一方的に会見は終わりました。
「きっと人間界は大わらわですわね、ヴァーミナス」
「人間が戦争を止められるとは、我も思っていない。だからこそ戦争への介入を折り込んでいるのだしな」
それだけではなくて、和議にも戦争にも利権が絡みますから……魔界と戦争をしたいところもあれば、儲けのチャンスと和議を受け入れさせたいところも出て来ます。
「和平のためにまた血が流れるかもしれないと言ってますの」
「ふん……全く愚かな。己の欲望ばかり優先させて、真の目的が見えていないからそうなるのだ」
ヴァーミナスが吐き捨てた言葉に、私は何も言えませんでした。何故って、私もまた己の欲望を優先させている愚か者だからですわ。
「その通りですわね。私も正にその一人ですもの」
「……アンヌ」
「失礼しました。先に下がらせていただきますわね」
一瞬伏せられたヴァーミナスの目に、不愉快な感情が湧いてきました。きっとその癖はいい意味を持っていないのだと、私は確信します。
「今夜は人に合わせた内輪の晩餐会がある。ゆっくり支度をするといいだろう」
「ええ、暖かいお言葉に感謝しますわ。失礼」
けれども私には関係ない。魔王が私をよく思っていないだなんて、簡単に予想できることですわ。敵であった魔族を信じて命を預け、くだらない復讐に目を曇らせている小娘に誰がいい感情を持つのでしょう?
私はこの魔界で――ディマ国で力を得て、勇者に復讐した暁には王妃として和平の大使として地位を確立させるんですのよ。私は己の役目を全うすればいい。勇者を殺害したことでディモルト界と人間界に摩擦ができるのが懸念材料ですけれど、その程度のこと和平のどさくさに紛れさせて、上手く理由を用意すれば良いだけ。
大切なことは誰にも殺されないように、そして明るい未来のために。周りを油断させつつ絶対に私は油断しないことですわ。




