十二話 スズカ視点
「ねえねえ、アンヌの魔力痕が見つかったって本当なの? すぐ来てって下で言われたんだけど」
ニニラは買い物から戻ってすぐ私のとこに来てくれたらしく、カバンはパンパンだった。いつも何買ってるのかな……自分のお金だからいいんだけどすごく気になる……。
「うん、一カ所だけ強烈な痕があったのをアンヌのお兄さんが魔力捜索で見つけたって」
「肝心のアンヌは見つかったの?」
「それはまだ……というより、転移しちゃった後の魔力痕らしくて、どこに行ったのかわからないらしいんだ」
三日前にアンヌの魔力痕が、領地内の泉のそばに現れたとお兄さんから連絡があった。だけどそれは転移した後のものだったから、どこに行ったか追えなくて状況は何も変わってない。
そんな話をしてたら、スターシアとエミリオもやって来た。ニニラの声って響くからね。これでやっとこの後の行き先が決められそうかな。
「本当にどこに行っちゃったのかしら。実家や頼れそうな場所には連絡済みだし、アンヌみたいな人を見たって噂もまるで入って来ない。アンヌが本格的に隠れると、こんなにも捕まえられなくなるのね」
「多分だけど、大きな都市で小さな宿に泊まってるんじゃないかな。沢山人が居ればそれだけで目立たなくなるから」
「そうだよねぇ、お金だってしばらく困らないくらいに持ってるし、こうなるとホントお手上げだよね」
ニニラの言った通りいたずらに魔物討伐の旅は続いた。みんなあえて言わないけど、アンヌが居ないと旅はものすごく不便だ。さり気なくアンヌが使っていた魔法に、私たちはいつも助けられていたのだと痛感している。
私の使える魔法の属性は水と風だから、火起こしが手動だし、夜の見張りもアンヌの魔法で結界を張ってもらっていたから、強襲された時の安全性がまるで違う。アンヌは全属性の魔法を修めていて、マニアックな物まで知らない魔法と聞いたらすぐに使えるようになりたがって、しかもすぐに覚えちゃうんだよね。
「エム~落ち込むのはわかるけど、ちょっと暗すぎだよぉ。アンヌが生きてるってわかったんだからさあ?」
「ああ、いや。僕が何か言うのは違うかと思って。もちろん微かでも前進だよな」
エミリオはあれ以来ずっと大人しい。なんというかどんよりし続けている。ニニラにエミリオをフォローして欲しいと頼んでみたんだけど、成果は上がっていなかった。
「アンヌのこともだけど、魔王に近づかないと始まらないからさ、次の目的地を決めようよ」
テーブルに広げた地図には、今まで行ったことのある場所に印が付けられている。幾つか魔界から解放した街もある。
「確かー、山を越えたとこに伝説の石碑が立ってて、反対方向の海の近く……こっちで魔物が強くなって来てるんだよね?」
「面倒な位置だけれど、海で討伐の後に石碑側に行くしかないんじゃない? 現状ではどうやってもショートカットできないし」
「だね。じゃあエミリオ、それでいい?」
「……ああ、大丈夫だ。問題ない」
「しっかりしろよー、エム。問題ありありに見えるよー」
こんなじゃあ、冷静になってみても話し合いが成立しないよ。言い方は悪いけど、エミリオってじっくり考えるタイプじゃないんだから、せめて何事もなかったように振る舞って欲しいんだけどな。心配になる。
「ぼーっとしてたら、魔物にやられちゃうよ? しゃんとして!」
「私の回復魔法に頼るのは止めてよ? エミリオ、反省は伝わって来たから、そろそろ元気出してちょうだい」
口々に励まされて、ようやく少しだけ顔に生気が戻ってきた。ほんとにもう、世話が焼けるなー。
「そうだな、僕が連携を崩したらみんなにも迷惑がかかるんだよな。済まなかった。気合いを入れ直していく」
次の目的地は海岸沿いの町、ヒシャナに決まった。二日くらいでたどり着けるはず。
アンヌは今、どうして居るんだろう?
最近、アンヌの笑顔をよく思い出す。頼りになって、驚くと可愛い声でテンパって――許せないものには抗議する。髪を大切にしてるのに自信がなくて、家族が大好きで……魔法を誰より誇りにしていた。そうそう、自分の貴族の考え方を変えようと努力もしてたっけな――きりがないくらい、アンヌとの思い出はいっぱいあった。