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十一話 レプケの報告書その一

 さてさて、アントワーヌ様がディモルト城にいらっしてほどほどに時間が経ちました。

 聡明な皆様にはおわかりかと思いますが、我が主魔王様、ことヴァーミナス様はアントワーヌ様にホの字でございます。

 えっ、伝わって来ない? それはアントワーヌ様に直接言っていただけませんか、切実に! ですがま~ここだけの話、アントワーヌ様を溺愛していると言っても過言ではないでしょうな。

 問、題、は! アントワーヌ様に全く想いが通じていないことなのです。私が頑なにアントワーヌ様をアンヌ様とお呼びしないのは、あまり仲良しだと思われては大変なことになるからです。

 もうあのような失態は犯しません! 終わらない拷問の数々……今思い出しても震えてしまいます。あのようなことはもお~勘弁です、ブルブル。

 魔王様も努力なすっているんですが、アントワーヌ様は手強いですね。

 育ちが地位ある貴族のお家柄のためか、容姿、センスや勤勉を褒められても、花や宝石を贈られても心はピクリとも揺れないようです。魔力布のリボンだって私のお給料丸々三月分もするんですよ。ことあるごとに理由をつけて……ま、贈られてるアンヌ様にはおかしいという疑問がないようですが……。

 夜会で何度人間的な求愛をしても勉強熱心、又は民へのアピール。嫉妬すればプライドが高いのだと解釈され……見事な不落城ですよ。

 今まで一番効果的なアタックだったのは御髪を褒めた時と、魔法の腕に感心した時だったそうです。魔王様ときたら、私にやれアンヌがどうしたこうしたと口を開けばアンヌ様のことばかり。私は些か呆れております。

 今日はというのは、愚痴を言いに来た訳ではありません。多少はありますが、実は魔王様に好感度調査を頼まれましてね。男として見られて居ないような気がする、と仰ってましたよ。

 私はアントワーヌ様のお部屋へと短い足をせかせか動かして、課せられた仕事をこなしに参ります。人間に変身すればもう少し早く着くとわかっていますが、魔王様に虐められたくないがために、今日もちんちくりんで小鬼ギルェシな私でございます。

 ……はい、転移? アントワーヌ様のお部屋があるフロアでは呼ばれた時を除いて禁止になりました。魔王様が酷く驚かせてしまったから、だそうです。過保護でしょう?

 扉をノックをして招いて頂き、お部屋にお邪魔します。


「アントワーヌ様。こんにちは、ご機嫌いかがでしょう?」

「こんにちは、レプケ。とてもよい日和ですわね、あなたはいかがお過ごし?」


 まあまあと言った手応えですね、私に機嫌の悪い女性を質問責めにする趣味はございませんとも。

 おくつろぎのアントワーヌ様は穏やかな表情でお茶を嗜まれておりました。美しい紫紺の髪だけが纏め上げられており大変惜しいですが、宝石のような澄んだ紫の瞳も、慎ましいながらふっくらした唇も、お召し物に引き立てられたつま先まで、なんとも言えず絵になるお姿ですね。

 魔王様でなくとも大抵の魔族はほれぼれしてしまうでしょう。紫紺とはディマ国を建てた一族にのみ伝わる、高貴なお色なのですよ……わざとお教えしてませんので、憧れの的になっている、というご自覚がまだないのも当然ですが。

 それにしても皆様、ご存知でしょうか? このお部屋はアントワーヌ様のために、魔王様自らがインテリアの指示をなさったのです。あろうことか、掃除までご自分でおやりになっていました。変態のようというより、完全な変態ですな。

 あっ、今のはオフレコでお願いします。魔王様にバレたら魂が危ないので。何度も治される分、精神的にクルのですよ……シクシク。


「おかげさまで、恙なくと言ったところでございます。失礼なお話かもしれないのですが、いくつかご質問してもよろしいでしょうか?」

「あら、レプケには日頃お世話になっていますもの。私に答えられることなら何でも答えましてよ?」

「ありがとうございます。えーまずは、現在の魔王様にどのような印象を持たれて居ますか?」

「ヴァーミナスの印象?」


 アントワーヌ様はきょとんとまばたきをされました。意外な質問だったようです。そりゃ私も頼まれでもしなければこんな質問はしませんよ。


「そうね、とても立派な方だと思いますわ。仕事に真面目で民や臣からの信頼も厚い方ですし、王の器というものを持っていらっしゃると思っています」


 べた褒めと言って差し支えない内容ですが、このお答えでは魔王様は益々不機嫌になられるだけでしょう。私が魔王様をどう思うか訊かれたら、参考にさせて頂くことにします。メモメモ。


「ありがとうございます、では婚約者として見た時にはどのように思われますか?」

「とても誠実な方ですわね。放蕩の噂も聞きませんし私を気遣ってくださるし、少し顕示欲が強いかもしれませんけれど、きっとよい夫となってくださると思います」

「なるほど……」


 魔王様、全く男として見られてませんぞ!

 やはり、アントワーヌ様は魔王様がプレゼントを贈って着飾らせたり、親しげに振る舞うことを“政治的判断”もしくは“将来のための努力”と解釈されているみたいですね……せっかくの恋のアピールも、こう暖簾に腕押しでは流石に魔王様が不憫に思われます。

 うーむ、まさかここで更に恋人としてどうか、とは訊き難いですね。


「何か気になることでもあるんですの?」

「そうなんですよ。魔族と人間では恋愛のやり方も違うだろうと興味津々でして。因みにアントワーヌ様は、何か憧れのワンシーンなどございますか?」


 よし、我ながら上手いかわし方ですよ。これで何か役立つ情報を一つでも……。


「憧れのシーン、ですか? いいえ。私は恋愛に幻想など抱いておりません。恋と愛とは別物ではありませんか? 立場を考えると、恋した方と結婚できる訳ではないので、夢を見ないようにしていますの。――まあ、勇者に心を寄せていたのは私の汚点ですかしら」


 オウフッ! なんて貴族令嬢の鏡な答えなのでしょう。困りました。これでは魔王様に碌なご報告ができない……どうすれば。


「それはご立派なお考えですねぇ。では最後に一つだけ、よろしいですか?」

「ええ、一つでも二つでも」

「何故、アントワーヌ様はあの一瞬とも言える短い時間で、魔王様のお申し出を受けられたのでしょう?」

「それは……」

「……レプケよ。我はどうすればよいのだろうか……?」


 おや? ご報告に上がったと思いきや、意気消沈していらっしゃるご様子。これは……。


「魔王様、もしやアンヌ様のお部屋を覗いてらっしたのでしょうか?」

「……そうだ。正しくは聞いていた」


 うっわー! いくら城の中とはいえですね、それはプライバシーの侵害というやつではありませんか、魔王様? バレたら言い逃れできませんよ~。あ、遠見の鏡で二年以上ストーカーやってる魔王様には今更でしたね。

 しかし落ち込んでいらす魔王様に鞭を打つこともできません。全く面倒な方です。


「ハア……」


 ため息の深さと同じだけ、悩みも深いですねぇ。私にお手伝いできるのはこんなちっぽけなことだけですが。


「魔王様、そう落ち込まれずに! アンヌ様と魔王様は婚約されているのですから、まだまだチャンスはございます! きっとアンヌ様も魔王様の魅力に気づかれますとも!」

「慰めはいらぬ。よもや、あそこまでバッサリと切り捨てられるとはな……」


 ですよね~。アンヌ様が魔王様の妃になることを承諾した理由を聞いてしまえば、心が折れるのも致し方ないでしょう。


『それは……復讐のためですわ! 身分の釣り合いはもちろん、結婚は古来より和平を結ぶ方法ですから魔族と人のためもありますけれど、何より。私が和平を結んでしまえば、誰も勇者を殺しても文句は言わないと思いません? いいえ、決裂したって文句なぞ言わせないわ』


 身から出た錆とはいえ、あんなお言葉は聞きたくなかったでしょうねぇ。ロマンチックのロの字もありません。あのお瞳に燃える炎……私、見ていて鳥肌が立ちましたよ。


「では魔王様、ご報告の必要はないと思いますので失礼させて頂きます」


 ぞんざいに手を振って追い出された私は、今日も魔法の深淵を極めんと研究室に向かうのでありました。


『そうだわレプケ、いつまでもアントワーヌとよそよそしく呼ぶのは止めて欲しいの。これからはアンヌとお呼びになってね。レプケは私の師匠でもあるのですから』

『はい、お心のままに。アンヌ様』

『それでよろしいのよ』

「あの様子ではむしろ私の方が……いえいえ、何も言っておりません! 口は災いの元ですな」


 消し炭にされないよう、胸の内に厳重に閉まっておかなければ。

 では皆様、ここまでお付き合いくださりありがとうございました。また魔王様に任務を与えられたら愚痴……いえいえ、ご報告に参上するかもしれません。その時までしばしのお別れです。

 くれぐれも、あれはご内密にお願いしますぞ! 


魔王ヴァーミナス は魔法使いアンヌ に度重なるアピール!

アンヌ の【貴族令嬢】が発動! 好感度は一度に5しか上がらない! 合計+30。

魔法研究者レプケ は毎日の【講義】! アンヌ の好感度が合計50上がった。


アンヌ→ヴァーミナス

関係:婚約者 好感度:+30 状態:好意 親切な方


アンヌ→レプケ

関係:魔法、魔術の師 好感度:+50 状態:尊敬 ご教授いただきたい

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