梅林
交易都市南湖の外れに梅林があった。花が咲く季節には、多くの観光客で賑わった。梅林は一人の風変わりな老人によって管理されていた。
「おい!そんな所で何してる?」ワシは一人の女の子に声をかけた。
口をもぞもぞ動かしている。あぁ異国の子か。
「ママ、パパはどこだ?はぐれちまったか?」
「遠くへ行ったって……」
捨て子か?
「家はどこだ?」
「追い出された。ここは借金のかたにって……」
親は亡くなったのか?
「とんでもねぇ事をしやがる」
「行くとこはねぇのか?」
「ここ!」
「ここってうちの梅林か?」
「うん!パパとママとでよく来たの」女の子は、幸せそうに笑った。
「なぁ名前はなんて言う?」
「私はきょう。おじいちゃんは?」
「ワシはバイカだ」
「じゃあ、おじいちゃんって呼んで良い?」
「勝手にしろ!きょう、腹は減ってないか?」
「お腹すいた」
「パンとスープがある。食うか?」
「うん。パンとスープ食う!」
「そうか、じゃあこっちに入れ」
「おじゃまします」
「あぁそこ。いろいろ物が転がってるから、気をつけろよ」
「あぃたっ」
「ほら、気をつけろよって言っただろ」
ワシはテーブルの上を片付け、暖炉に火をつける。
きょうは、震えている。
「もうすぐ暖まるからな」
「うん」
ワシは暖炉に薪をくべ、スープを温める。
「うわ!良い匂い」
(ぐぅ~)
きょうの腹の音がする。
「ちょっと待ってろ」
ワシは木の椀にスープを入れ、きょうの前に置く。
そして木の匙を手渡した。
「食え。熱いぞ」
「いただきます!」
きょうはスープを飲みだした。
「あつ」
「ほら熱いぞと言っただろ」
(ふーふーふー)
きょうは、スープを冷ます。
ワシはテーブルの上のパンを、暖炉で少し温める。
「ほら!パンだ。少し温めたから、ちょっとはやわらかくなってると思う」
「ありがとう」
きょうはパンを銜えようとするが、大きくて口には入らない。
「貸してみろ。こうやってちぎるんだ」
ワシはちぎって見せる。
きょうは真似をする。
そしてスープとパンを交互に食べた。
「美味しいね」
きょうは笑った。
十分ほどで、きょうはスープとパンを食い終わった。
「これからどうするか。予定はあるのか?」
「ない」
「頼るあてとかは?」
「ない」
「きょう。お前は何人だ?」
「……」
「パパとママは何人だ?」
「パパはアルメニアカ人、ママはムメ人」
「なるほどなぁ。こ……」
きょうはじっと下を見つめている。
「下に何かいるのか?」
「ダンゴムシがいる」
「ハハ。ダンゴムシな。あいつらどこから入って来るんだろうな」
「私どうしたら良いのかな?」
「どうしたい?」
「わからない」
「予定もないんだよな」
「うん」
「うちの梅林手伝うか?」
「お手伝い?」
「あぁ飯と寝るとこくらいなら出してやる。やるか?」
「うん」
「そうか」
「うん」
「じゃあ、今から仕事に戻るから、ついて来い」
「うん」
きょうはワシについてきた。
「この時期はな。梅の木の枝を切る時期なんだ」
「枝とか切っても、梅の木は嫌がらないの?」
「梅の木が嫌がるか……、考えたこともなかったが、枝を切らないと色々と困ったことがあるんだ」
「そうなんだ」
「まぁ見てろ。ほらこの枝……、枯れてるのがわかるか?」
「よくわからない」
「じゃあ、この枝と、この枝を見比べてみろ。じっと見ろ」
「こっちの枝はカラカラしてる。こっちは強い」
「そう。このカラカラしてるのは、枯れてるんだ。枯れてるってわかるか?」
「死んでるってこと?」
「そうだな」
「だから切っちゃうの?」
「あぁそうだ」
「パパもママも死んじゃったから切られたのかな」
きょうはうつむいている。
「パパとママは死んじゃったのか?」
「うん」
「そうか」
「悲しかったか?」
「うん」
「悲しいよな。ワシも息子と孫を亡くしたんだ」
「おじいちゃんも悲しかった」
「あぁ」
「一緒だね」
「あぁそうだな」
「切った枝はどうするの?」
「切った枝は乾燥させて、薪にする。燃え尽きたら、灰になるだろ。灰は肥料になったり、洗い物に使ったりする」
「切ったら終わりじゃないんだね」
「あぁ、そうやって命は循環するんじゃろうな」
「循環……」きょうは言葉を噛みしめているようだった。
ワシは枯れた枝を落としていく。
「もう枯れた枝はなくなったかな?きょう!見てくれるか?」
「うん」
きょうは木をじっと観察する。
「うん。もうないと思う。これで終わり?」
「いいや。次は交差する枝じゃ」
「交差する枝?」
「そう、この枝とかな」
ワシは交差する枝を手に取る。
「交差する枝はなぜ切るの?」
「お互いがお互いを邪魔し合うんだ」
「邪魔?」
「ほらここでぶつかるだろ」
「うん」
「ここが擦れるだろ。ここで傷ができて、病気になる事もあるんだ」
「すごい」
「あとはな。枝と枝が重なりあうと、内側まで日光が入りにくくなる」
「日光が入らないとダメなの?」
「葉っぱは日の光が好きだからな」
「元気がなくなるの?」
「そういう事」
「でも切ったら痛いでしょ」
「そうかもしれないが、徐々に体が弱っていくより、たまに多少痛くても元気なほうが良くないか?」
「うん……、痛いのは嫌だけど、元気なほうが良いよね」
「そうじゃろ」
「うん」
ワシは重なる枝を落としていく。
「もう重なる枝はなくなったかな?きょう!見てくれるか?」
「うん」
きょうは木をじっと観察する。
「うん。もうないと思う。これで終わり?」
「いや。まだじゃ。次はな。真っすぐ上に向かって伸びている枝じゃよ」
ワシは真っすぐ上に向かって伸びている枝を手に取る。
「これは重なってないよ」
「ここが伸びると木の高さが高くなるだろ」
「そうだね」
「周りに高い建物があると日当たりはどうなる?」
「悪くなる?」
「そうだな。そうすると下の葉や花に日が当たらなくなる」
「だから切るの?」
「そうだな。ただ全部を切るわけじゃない」
「難しいんだね」
「慣れてきたらわかる」
「私にもわかるかな?」
「ワシも同じ事を思っておったが、わかるようになった」
「そっか」
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