↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/4

梅林

交易都市南湖の外れに梅林があった。花が咲く季節には、多くの観光客で賑わった。梅林は一人の風変わりな老人によって管理されていた。


「おい!そんな所で何してる?」ワシは一人の女の子に声をかけた。

口をもぞもぞ動かしている。あぁ異国の子か。

「ママ、パパはどこだ?はぐれちまったか?」

「遠くへ行ったって……」

捨て子か?


「家はどこだ?」

「追い出された。ここは借金のかたにって……」

親は亡くなったのか?

「とんでもねぇ事をしやがる」


「行くとこはねぇのか?」

「ここ!」

「ここってうちの梅林か?」


「うん!パパとママとでよく来たの」女の子は、幸せそうに笑った。

「なぁ名前はなんて言う?」

「私はきょう。おじいちゃんは?」

「ワシはバイカだ」

「じゃあ、おじいちゃんって呼んで良い?」

「勝手にしろ!きょう、腹は減ってないか?」

「お腹すいた」

「パンとスープがある。食うか?」

「うん。パンとスープ食う!」


「そうか、じゃあこっちに入れ」

「おじゃまします」

「あぁそこ。いろいろ物が転がってるから、気をつけろよ」

「あぃたっ」

「ほら、気をつけろよって言っただろ」


ワシはテーブルの上を片付け、暖炉に火をつける。

きょうは、震えている。

「もうすぐ暖まるからな」

「うん」

ワシは暖炉に薪をくべ、スープを温める。


「うわ!良い匂い」

(ぐぅ~)

きょうの腹の音がする。


「ちょっと待ってろ」

ワシは木の椀にスープを入れ、きょうの前に置く。

そして木の匙を手渡した。


「食え。熱いぞ」


「いただきます!」

きょうはスープを飲みだした。


「あつ」

「ほら熱いぞと言っただろ」

(ふーふーふー)

きょうは、スープを冷ます。


ワシはテーブルの上のパンを、暖炉で少し温める。

「ほら!パンだ。少し温めたから、ちょっとはやわらかくなってると思う」

「ありがとう」

きょうはパンを銜えようとするが、大きくて口には入らない。


「貸してみろ。こうやってちぎるんだ」

ワシはちぎって見せる。


きょうは真似をする。

そしてスープとパンを交互に食べた。

「美味しいね」

きょうは笑った。


十分ほどで、きょうはスープとパンを食い終わった。

「これからどうするか。予定はあるのか?」

「ない」

「頼るあてとかは?」

「ない」


「きょう。お前は何人だ?」

「……」

「パパとママは何人だ?」

「パパはアルメニアカ人、ママはムメ人」

「なるほどなぁ。こ……」


きょうはじっと下を見つめている。

「下に何かいるのか?」

「ダンゴムシがいる」

「ハハ。ダンゴムシな。あいつらどこから入って来るんだろうな」


「私どうしたら良いのかな?」

「どうしたい?」

「わからない」

「予定もないんだよな」

「うん」

「うちの梅林手伝うか?」

「お手伝い?」

「あぁ飯と寝るとこくらいなら出してやる。やるか?」

「うん」

「そうか」

「うん」


「じゃあ、今から仕事に戻るから、ついて来い」

「うん」

きょうはワシについてきた。


「この時期はな。梅の木の枝を切る時期なんだ」

「枝とか切っても、梅の木は嫌がらないの?」

「梅の木が嫌がるか……、考えたこともなかったが、枝を切らないと色々と困ったことがあるんだ」

「そうなんだ」

「まぁ見てろ。ほらこの枝……、枯れてるのがわかるか?」

「よくわからない」


「じゃあ、この枝と、この枝を見比べてみろ。じっと見ろ」

「こっちの枝はカラカラしてる。こっちは強い」

「そう。このカラカラしてるのは、枯れてるんだ。枯れてるってわかるか?」

「死んでるってこと?」

「そうだな」

「だから切っちゃうの?」

「あぁそうだ」

「パパもママも死んじゃったから切られたのかな」

きょうはうつむいている。

「パパとママは死んじゃったのか?」

「うん」

「そうか」

「悲しかったか?」

「うん」

「悲しいよな。ワシも息子と孫を亡くしたんだ」

「おじいちゃんも悲しかった」

「あぁ」

「一緒だね」

「あぁそうだな」

「切った枝はどうするの?」

「切った枝は乾燥させて、薪にする。燃え尽きたら、灰になるだろ。灰は肥料になったり、洗い物に使ったりする」

「切ったら終わりじゃないんだね」

「あぁ、そうやって命は循環するんじゃろうな」

「循環……」きょうは言葉を噛みしめているようだった。


ワシは枯れた枝を落としていく。

「もう枯れた枝はなくなったかな?きょう!見てくれるか?」

「うん」

きょうは木をじっと観察する。

「うん。もうないと思う。これで終わり?」


「いいや。次は交差する枝じゃ」

「交差する枝?」

「そう、この枝とかな」

ワシは交差する枝を手に取る。

「交差する枝はなぜ切るの?」

「お互いがお互いを邪魔し合うんだ」

「邪魔?」

「ほらここでぶつかるだろ」

「うん」

「ここが擦れるだろ。ここで傷ができて、病気になる事もあるんだ」

「すごい」


「あとはな。枝と枝が重なりあうと、内側まで日光が入りにくくなる」

「日光が入らないとダメなの?」

「葉っぱは日の光が好きだからな」

「元気がなくなるの?」

「そういう事」

「でも切ったら痛いでしょ」

「そうかもしれないが、徐々に体が弱っていくより、たまに多少痛くても元気なほうが良くないか?」

「うん……、痛いのは嫌だけど、元気なほうが良いよね」

「そうじゃろ」

「うん」



ワシは重なる枝を落としていく。

「もう重なる枝はなくなったかな?きょう!見てくれるか?」

「うん」

きょうは木をじっと観察する。

「うん。もうないと思う。これで終わり?」


「いや。まだじゃ。次はな。真っすぐ上に向かって伸びている枝じゃよ」

ワシは真っすぐ上に向かって伸びている枝を手に取る。


「これは重なってないよ」

「ここが伸びると木の高さが高くなるだろ」

「そうだね」

「周りに高い建物があると日当たりはどうなる?」

「悪くなる?」

「そうだな。そうすると下の葉や花に日が当たらなくなる」

「だから切るの?」

「そうだな。ただ全部を切るわけじゃない」

「難しいんだね」

「慣れてきたらわかる」

「私にもわかるかな?」

「ワシも同じ事を思っておったが、わかるようになった」

「そっか」


もし「続きを読んでみたい」と思っていただけたら、

ブックマークしていただけるととても励みになります。


本作はすべて完結済みで、安心して最後まで読めます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。