レシピ本
体の調子も良くなって、目も大分暴走することもなくなったし。それに眼鏡をかければ支障はないので普通の生活を送るなら問題はなかった。
九重先生にも退院の許可ももらえたし、家に帰ったが家の中は静かだった。
中は掃除されていて綺麗な状態だった、でも。
「本当に誰もいないんだな」
そう言っても返ってくる言葉はない。
もう会えないことの事実を突きつけられて、胸が苦しくなった。
これからはご飯も、この家で過ごしすことも一人でいないといけない。
とりあえず学校に連絡をしないといけないのが、今回誘拐されたことは言えないので当たり障りのないことを理由にしたが一週間も連絡がつかないと言うことで、体調を心配されたことと、親と話したいと言われた時はドキドキしたが、調子が悪いのが親と言うことでなんとか免れた。
そうしていると、腹が減ってくる。
どんな時も腹は減るものだ。何か作ろうと思ったが自炊なんてしたことがなかったのでカップラーメンを買いに行きそのまま食べた。
そして暫く学校は休むことになったのでやることがなくなった。
持って帰ってきた服などを整理していたら、名刺が落ちた。
そう言えば、退院したら連絡をすることになっていたなと思い電話をした。
『はい』
『あ、河上です』
『ああ、電話してきたってことは退院できたんだね』
『はい』
『じゃあ、いきなりだけど都合の良い日ない?』
『今は学校も休ませてもらっているので、いつでも大丈夫です』
『そうか、じゃあ明日の昼でも警視庁に来てくれ。受付で名刺見せれば案内してもらえると
思うから』
『分かりました』
『それじゃあ明日ね』
『はい』
『あ、ちょっと待って』
電話を切ろうとしたら、京野さんが待ったをかけた。
『なんですか?』
『ご飯に困ったら、お母さんの部屋の机の上見てみてね。それじゃあ』
電話を切られた。
母さんの部屋の机の上と言われたが何があるのか気になったので、部屋に行ってドアを開けると。
机の上に置いてあったのは、手作りのレシピ本だった。
なんでこれがあったのか分からないが、中を見ると母の手書きでレシピが書かれていた。
レシピ本を持ち上げた時に中身から、封筒が落ちてきた。
その中は手紙が入っていた。
[心太へ]
最初の一文で涙が一粒流れた。
[これを読んでいると言ことは私とお父さんの元を離れて、独り立ちしたということね。
それは嬉しけど少し寂しいわ、貴方がこれを受け取るとき何歳になっているか分からないけど心太は体が弱いけどそんな心太の体を育てたのは、お母さんの手料理だからこれからも一人になっても必要になると思うからこれをこっそりと忍ばせたの、だから気が向いたらこれを役立ててね。これからも元気で]
部屋の中は寂しく、私物も殆どなくなっていたがこれだけは警察は持って行かなかった。
その意味が分かった。
俺の決意が固まった。
俺の家族を滅茶苦茶にした奴を捕まえる。
翌日、住所を調べて警視庁に来た。
そして受付の人に声をかけた。
「すいません」
「はい?」
「捜査一課の京野さんと言う人と約束があるのですが」
「分かりました、お名前を教えてください」
「はい」
それから名前を言って暫く経って、京野さんが来た。
「河上君、お待たせ」
「はい」
「じゃあ行こうか」
「何処にですか?」
「総監の所だ」
「斎藤さんと言う人ですか?」
「そうだ」
そうして移動して、エレベーターに乗って最上階まで行き重々しいドアを開けると斎藤さんが椅子に座っていた。
「眼鏡をちゃんとかけているね」
「はい、これのお陰で外にも出れるようになりました」
「それは良かった」
「話は京野から聞いたかな?」
「はい、警察の協力者になるとか」
「そうだ、君のその目を使いとある課に配属してもらう」
「とある課?」
「世間には発表せずに作った未解決事件専門の課だ」
「未解決…」
「そうだ、君の目があれば現状未解決でも解決できるかもしれない」
「それを続けていれば、サマエルに近づけますか?」
「確約はできないが一番近い仕事にはなるよ」
「分かりました」
「じゃあ、まず入社試験を受けてもらう」
「入社試験?」
「今、捜査している誘拐事件の捜査をしてもらう」
「分かりました」
「京野君、後は任せてもいいかな?」
「はい」
「では、そう言うことで」
そこで部屋を出た。
「じゃあ行こうか」
ついていくと警視庁から出て、人が少ない喫茶店に着いた。
「何飲む?」
「珈琲で」
「了解、お昼時だし何か食べるか。何が良い?」
メニューを見ると喫茶店だったので、基本的には何でもあった。
「じゃあナポリタンで」
「すいません」
京野さんが注文して、店員が離れたタイミングで話を始めた。
「じゃあ事件の概要を話すよ」




