21. 鍵
時折廊下を通り過ぎていく看護師たちが、こちらを不審そうな目つきで見てくる。
でもあまり気にせず、扉の具合をあちらこちらから探っていた。といっても、カードキーのリーダーが取り付けられていて、厳重に施錠されている。
素人が少々何かしたところで、突破できそうな余地はなかった。
無理に通るとすれば、誰か医者か看護師がここを抜けるときに一緒になって通過するぐらいしかないだろう。
けれどおそらく、そうして無理に通ったところで、この先にも同じような扉がいくつかあるに違いない。
そのどこかで捕まえられれば、こっぴどく叱られるか、下手をすれば警察沙汰になるのが落ちだ。
おまけに、少しの間待ってみても、向こうの棟へ向かおうとする人が誰もいなかった。
そうなるともう、一人では手出しのしようがない。
何も出来ないまま、十五分ほどが過ぎた。
「……あれ、ひょっとして、コータくんのお姉さんじゃないですか?」
不意に聞き覚えのある声に話しかけられたので、振り向いた。
そこにいたのは、確かコータの担当だった何とかというお医者さんだった。
四十代半ばぐらいの人の良さそうな顔をしていて、弟の執刀も彼だったらしい。
痩せ型で、割とひ弱そうだった。
「どうかしたんですか? コータくんに何か? 親御さん方は、今日は来られてないんですか?」
そう愛想よく親切そうに話しかけてくる彼の首からは、ペンや鍵と一緒に数枚のカードが下がっていた。あまり真面目に管理する気がないらしい。
顔がやや疲れてやつれているところからすると、ひょっとしたら手術後とかなのかも知れない。
そこで少し考えて、いくつかの手段を頭の中で検討してから、一か八かに賭けてみることにした。
「はい、先生。ちょっと言いにくい話というか、実はコータに、最近問題が出始めていて……」
そんなことを話しながら、それとなく彼を、手近で空いている病室へと連れ込んだ。
コータに問題と聞いて急に心配そうになった彼は、特に疑う様子もなく、後に続いて病室へ入ってきた。
たぶん、彼も他人に聞かれないようにしたかったのだろう。
病室のドアを閉めた。
五分後、上がった息を整えながらドアを開けると、廊下の左右に誰もいないことを確認して、そっと病室から出た。
右手には、あの医師のカードキーの束が握られている。髪を引っ張られてごっそり抜かれたとき、かなり痛くて涙が出たけれど、やってみると案外すんなり手に入れることが出来た。
病室のドアを静かに閉めてから、まっすぐ渡り廊下の扉へ向かった。
四枚のキーを適当にカードリーダーに合わせていると、やがて電子音と共に、ロックの外れる小さな音がした。
物音を立てないように気を付けながら、大きな金属の扉を開いた。
扉の向こうの渡り廊下は、静寂が保たれていた。空気清浄機でも働いているのか、あまりに何の匂いもしなくて、逆に鼻がむずむずする。
窓からは、柔らかな冬の日光が射し込んでいた。想像通り、廊下の突き当たりにはさっきとほぼ同じ二枚目の扉があった。
ふと気づいて見上げてみると、廊下の天井の隅には監視カメラらしい黒い球が取り付けられていた。
中で微かに、レンズが動いているのが分かる。どうだろう、今までの出来事も見られていたのだろうか。
だとするともう、あまり時間はないのかも知れない。
少しだけ足を速めて廊下を渡ると、またさっきのカードをリーダーに押しつけた。
LEDが赤から緑に変わって、ロックの外れる軽い音が聞こえた。




