気苦労多いんです
翌日の放課後。文乃さんからのお誘い通りに、オカ研の部室に向かうことに。
ズボンのポケットに手を突っ込みながら歩く俺の後ろには三人。
「楽しみだなー。どんな人なのかすっごく気になるし!」
「ありがとうございます。お誘いして頂いて」
「いーよいーよ。そこまでかしこまらなくても」
昨日あの場にいた俺と拓弥の他、凜と橋本が参加することになった。
虎太郎は他クラスの音ゲー仲間との先約があり、堂口は陸上部。谷内は家庭の事情有りとのこと。
黒羽に関しては聞いたら速攻で断られた。凛と橋本が一緒に行こうって粘ってたけど、本人の意思を尊重してやれよと止めておいたんだがな。強制じゃないんだし。
俺が言えたことでもないんだけど、最近は無理やり付き合わせてしまってること多いから、そっとしておいてやりたいものだ。大事なのは本人の意思だし。
教室から歩けば、一分と掛からずにオカ研の部室に到着。
「失礼しまー」
早速ノックしてから、部室のドアを開けた。そして――――
「したー」
すぐさま閉めた。タイミングを間違えた気がする。と言うより、見せてはいけないものを見た気がする。
「どうした祐真。入ろうとしたら急に」
「架谷くん?」
「……少し時間を空けてから出直そうか。今こん中入ると碌な目に合わない気がする」
「ここまで来て何を言うんだよ冷めるなぁー。早く行こうぜ橋本さん」
「そうそう。ここで立ち止まっていても、何も始まらないんだからー」
二人は俺の申し出を聞き入れることはなく。入れ替わるように部室のドアの前に。
知らんぞ。後悔しても。
「こんちわーっす」
「おじゃましまーす」
二人は元気よく挨拶しながらドアを開け、そして固まる。
そりゃあそうよ。あんなもんを目にして、一瞬でも固まらないわけがないのだから。衝撃的すぎて。
入っていった二人を呆然と眺めていた俺に、凛が聞いてきた。
「祐真さん。いったい何があったんですか?」
「聞くな。と言いたいところだけど言っとく。初めてここに来た時のことを思い出してくれると話が速い」
「……心中お察し致します」
あの時あの場にいた凛は、それで理解してくれた。
でもってその頃には、向こうも行動に移したようで。
「あの……何事ですか」
「大丈夫ですか?!」
「いーのいーの。ほっとけば」
「いやいや、良くないですよね! エラい事になってますよね!」
「お恥ずかしいところ見せちゃったねー」
部室内も騒がしくなってきた。と言うよりは混沌と言うべきか。てんやわんやと騒がしくなっている。
「奥村君足の方持って!」
「分かった!」
何があったのかって。まぁその……あれだ。豊田さんがまたゴミ箱に突っ込まれてたんだよ。今度は犬〇家状態で。
ノックする前、なんか部屋の中が騒がしいなーとは薄々思ってたけど、そういう事なんですかーい。
てかあの二人は何してたんだ。これから客が来るって時に喧嘩はやめてください。変なイメージ持たれるから。音羽さんも楽じゃないだろうよ。
「騒がせちゃったねー。ごめんごめん」
「何事なんすか……」
部室の中があたふたしだしたところで俺と凛も中に入り、豊田さん救出の手助けをした。
ひとまずは落ち着き、今は音羽さんが紅茶の用意をしているところだ。
「二人は何かと衝突することが多くてねー。僕も度々困らされてるよ」
「今更ですけど、仲悪い訳じゃないですよね?」
「そういうのではないかな。二人ともプライドが強いって言うか、譲らないところがあるから」
向こうの方向いて作業しながら拓弥の話に応じる音羽さん。それにしても落ち着いているというか、慣れているというのか。
紅茶を淹れる作業がどうこうという訳ではなく、このワタワタした状況でも冷静なんだなぁと。
「いつもの事ってか、こいつがしつこいのよ」
「そりゃこっちのセリフだ」
「ふざけんじゃないわよあんた」
「んだとそっちの方こそ……」
「ハイハイやめやめ。これからまたお客が来るんだから。変な目で見られるよ」
仲裁に入ると、ほんのりとオレンジの香りがする紅茶の淹れられたティーカップを二人の前に置いた。
こういうワタワタした時の音羽さんは頼りになる。俺が思うになんだが、苦労人ポジションなんだなぁと。
「どうぞ」
「どうも」
「ありがとうございます」
そして俺達四人の前にも、オレンジティーの淹れられたカップが置かれる。
「美味しいですね。深みがあって」
「この前お店でいい茶葉を見つけたからね。是非とも君たちにも知ってもらいたくてね」
頂いた紅茶の感想を簡単に述べてから、こんなことを聞いてみる。
「苦労しているんじゃないんですか。こうも賑やかな方達をまとめるのは」
そしたら音羽さんは、ニコッと笑いながら答えるのだった。意外な答えが返ってくる。
「意外とそうでもなくてね。むしろ楽しいっていうか」
「楽しい……ですか」
「退屈させてくれないからね。見たところ、架谷君はまとめるのにかなり苦労してそうだけど」
「まとめるとか、そんなことはしてませんよ」
そういうのは、行動力の塊とも言っていい橋本や堂口の担当区分だ。でも色々手を焼かされることは多いから、俺は苦労してるってことには変わらないか。
さてと。そう言えば……。
「ところで、文乃さんは」
「学園の中を軽く案内してから来ると言っていたから、そろそろ来ると思うよ」
音羽さんがそう言ったところで、勢いよく部室のドアが開けられた。
「おまたせー。遅くなっちゃったかなー」
「大丈夫ですよ。そろそろ来るんじゃないかと思っていたところですから」
「どうもー。今日はありがとうございますー」
「いいのいいの。お友達は多い方がいいんだから」
文乃さんは視線を廊下の方に向けると、その方に向かって声をかける。
「ほらほら。早く入って」
「う、うん」
ドアの陰からひょこっと。銀髪の女子生徒が顔を出した。
なんか記憶に引っかかるという、ふわふわした思い込みではなく。確実に覚えがある顔だった。昨日の朝見たあの女子生徒であった。




