記憶も行動もあやふや
「ここがアミュウの部室なの?」
「そうそう。ほらほらー、ここで立ち話もあれだからー。早く入って入って」
文乃さんに背中を押されるようにして、女子生徒が部室の中に。
「あら。今日は四人なのね」
「他は他で、各々都合がつかなかったので」
「そっか。まぁいいや」
「今紅茶淹れますね」
そんでもって。今来た文乃さんと編入生の方にもオレンジティーが出される。
「ありがと」
「君もどうぞ。こっちに」
「あ、ありがとうございまーす」
音羽さんに案内され、用意されたパイプ椅子にカノジョは腰掛けた。そしてオレンジティーを一口、口に含んだ。
「いただきます……あっ、美味しい。温度も適温で、香りも上品で」
「お気に召していただいたようで」
来る人も揃い、紅茶を飲んで落ち着いたところで。
「まぁ改めてってことで。もう名前は聞いてるかもしれないけど、彼女が話にあった編入生。セシリア・ベル・ガーネット。私の古い友人でもあるの」
「古いって……。アミュウはもっと前からボクのこと知ってるよね」
「いいのよ細かいことは」
クスリと笑いながら、文乃さんが編入生であるセシリアさんと話している。
そこに橋本が質問を挟む。
「あの、アミュウって言うのは……」
「私の昔のあだ名みたいなものね」
「あぁ、そういう。それだけ仲がよろしいと」
「そんなとこ」
そういうふうに呼ばれてたんだ。でもそれって……って思ったことは口には出さず。
「それでー。こっちにいるのがこの部活のメンバーの三人。それでこっちが、さっきちょこっとだけ話した一年の子達ね」
「一年の橋本桐華です。よろしくお願いします」
「奥村拓弥です」
一年である橋本らから、簡単に自己紹介をする。それがひと通り終わったら適当に雑談をしつつ、音羽さんの淹れてくれた紅茶を楽しみながら、ここでの時間を過ごしていく。
話をしていく中で少しずつ思い出してはきた。やっぱり容姿から見て間違いない。昨日の朝に一瞬目が合った少女だ。見ない顔だなぁとは思ったけど、まさかその人が編入生だったとは。
でもまだなんか引っかかることがあるような気がするんだ。会うのが初めてではないようなそんな気が。でもなんか思い出せん。すごいモヤモヤする。
「それで、この前アミュウが言ってた子って誰なの? 君?」
「いえいえ。違います違います」
「あ。ならお「やめい」」
多分文乃さんがどうこうの話したであろうから、セシリアさんが探しているのは俺のことだろうか。
最初は橋本の方を指さして聞いたが彼女ではなく。でもって拓弥が変に出しゃばってきたのでそれを遮って。
「俺ですね」
軽く右手を上げて名乗り出た。
「あら、君が」
「改めまして、架谷祐真です」
「そーそー。祐真君のこと」
フォローしつつもさりげなーく俺に接近してくる文乃さん。ティーカップを持っていない左手でその人を止める。ことある事にって言うか、隙あらばと。俺に近づいてくる。今あったかいものと割れ物持ってるんでご遠慮いただきたい。
でもって言いたいことがあったので、俺の方からも切り出した。
「それと……セシリアさん。昨日はすみません」
「ん? なんかあったっけ」
「昨日の朝、軽くとはいえぶつかってしまったじゃないですか。まだお詫びの一言も言っていなかったので」
「あぁあれか。いよいよボク特に気にしてないし」
ひとまずお詫びの一言は言えた。でもまだなんかモヤモヤすんだよなぁ……。何か忘れてる気がするんだ。
「あ。そういやそんなことあったね」
「はい。ありましたね」
「なんだ? もう面識あったのかよ?」
「面識ってほどでもない。単なるアクシデントみたいなもんだ」
昨日あの場にいなかった拓弥に、昨日のことについてを簡単に説明した。と言ってもそこまでの内容でもないんだけどな。ほんの数秒の出来事だったわけだし。
「聞けばホントに恵まれてるよなお前は」
「俺の知った事じゃない」
「おいおい。女子との付き合い増えて、ここに来てまた一人ってか」
「色々あったよねー」
「自惚れか貴様。それとも自慢か?」
「浮かぶのは疑問だ」
これまでってか、この学園入るまではここまで女子と関わるなんてこと無かったんだけどな。
中学の時の文乃さんは、本人が受験で忙しかったってのもあるから、時間を見つけては二人で話してたって感じだし。
何処が発端なんだろうか。よく分からん。
凛と偶然であったからか。文乃さんと知り合ったところからなのか。橋本に親睦会の幹事を頼まれた時からか。
案外その全てなのか。いやそれだと発端じゃなくなるな。
「まだ四ヶ月だけど、結構深い中身だったよねー。クラスの親睦会から始まって」
「あの時いきなり言われた時は驚いたからな。ただでさえそういうのはって感じだったのに」
「よく言われてたけど、思えば見切り発車だったなー」
「そこを改める気があるなら、文化祭とかはちゃんとしてくれよ」
流石にそれを適当にしてもらうのは困る。全校に関わることだし。
「てかどうしたのセシリア。なんか小刻みにプルプルしてるけど」
「え。あ、いやなんでもないのなんでも」
「いやそうには見えないけど」
「寒いとかってわけじゃないですよね。むしろ暑いですし」
もう九月なのにと言うべきか。まだ九月だからと言った方がいいのか。夏日ではあるから暑いのだ。ここにはエアコンはないので、開けた窓から吹き込む風で涼む他ない。
当然暑い。
「本人がなんでもないって言ってるなら、それでいいんじゃないんですか」
「おい。そういうのは色々隠したがるお前の常套手段じゃないのか?」
「そんな意味で言ったんじゃねぇよ」
頼むから、他人の意志というものを尊重してくれ。ここで話をしつつもそう思ったよ。




