思えばあった、そんなこと
教室に入って始業時間になれば、全校生徒はすぐに体育館に向かい、始業式に臨むことに。
周りをちらりとみてみれば、目に見える変化は実に多種多様なようで。
隣りのクラスのやつで五センチは背が伸びた奴がいるし、かなり日焼けした奴もいる。夏休みというものが、それだけ人を変えるというものか。
それにしても……こういう時に聞く校長の話というのは、どうしてこうも退屈に思えるのか。
よく言われることだけど、わかる。その一言に尽きるわ。
朝からってのもあって眠気が尋常じゃない。左の方にいる男子生徒なんて、直立で目を開けたまま寝てやがる。思いっきり見事な鼻ちょうちんが出来てるし。
「改めておはよう皆!」
始業式の終わった一年A組の教室内には、威勢のいい担任の松山先生の野太い声が活き活きと響く。
「有意義な夏休みの時間を送ることは出来ただろうか。先生はこの夏休みに甲子園に行って高校野球の観戦に行ったり、サーフィンを楽しんだりしたぞー」
先生の思い出話が語られながら、明日の実力テストのこと。これから先の、二学期のことについての大まかな流れについてが説明された。
真っ先に思いつくのは十月に開催される文化祭。学園外部からも多くの人が訪れる、この学園のメインイベントと言ってもいいだろう。
その他には球技大会。二年では修学旅行。様々な行事の開催が予定されている。
これまで以上に学園生活が忙しくなるというものだ。
「夏休みが終わって残念に思う気持ちこそあるだろうが、過ぎていったものはどうしようもならないものだ。だが!」
こっから先の松山先生は気合い入りまくりであった。
「先程話した様に、これから先楽しいイベントは盛りだくさんだ! まずは明日の実力テストを乗り越えよう。そしたらこの先の行事の一つ一つについて、良い物になるように皆で協力していこうじゃないか!」
松山先生の話も終われば、まだお昼前ではあるが、その日はすぐに放課後となる。
そしてクラス内では改めて。朝の時の続きをと言わんばかりに雑談が始まるのだ。
そしてそうなれば、いつもの面々が集まるわけで。
「そうだよ……。明日テストじゃん。ただでさえ新学期迎えただけでもテンション上がらねぇって言うのに」
「休み明けのテストだし、そこまで緊張しなくたっていいだろう」
やはり虎太郎は嘆いていた。先生が話していたように、明日は実力テストが控えている。
国、数、英の三科目だけとはいえ、テストと聞いて快く思うやつはいまいて。
「でも嫌じゃん。赤点とか気にしなくてもいいのが、唯一の救いかもなー」
「わかるわー。かったりぃーんだよ」
「だよなぁー」
堂口と男子二人は揃ってこう言う。
分からなくもないがな。勉強好きな奴ってどこを探したら見つかるんだろうか。有名な大学出た人とか通ってる人にしたって、好きだと答える人なんているだろうか。いやないだろう。
「ダメだよーテストはちゃんと受けないと」
「そうそう」
「そうですね」
「でも、それさえ終わってしまえば……って考えたら、少しは気分が楽にはなりませんか」
堂口を除いた女子四人は真面目なようだ。文句を口に出すことなく、肯定的な捉え方をしている。
そして凛の一言がいいフォローになったのか、項垂れた三人の目は輝きを取り戻すのだった。
「そっか、そうだよな! 明日のテストさえ乗りきっちまえばなんとかなるってもんか!」
「だったら気を落としてる場合じゃねぇ!」
「私だってやる時はやる女じゃあぁ!!」
でもなんか。変な方向にスイッチが入ってしまってるように見えなくもないのは、気のせいだと思いたいな。
「ということで。このことは忘れよう」
「何故そうなる」
その切り替えはどうかと思う。
「それよかこんな話を聞いたんだ。この学園に、また転校生が来たっていうそうなんだ」
「ホントかよそれ!」
「あぁー私も聞いたんだ」
転校生……か。まぁ話題になっても何ら不思議じゃないだろう。気になるものではあるし。
「なんでも今度は外国人だってよ。しかもこれまた可愛いって評判でな!」
「へぇー。でも今になってようやく知ったよ」
「そらぁ二年に編入したんだから。一年の俺らに情報行き渡るのは後になるよ普通」
「気になるよなー。あぁそういや、転校生って言えば……」
「あぁ。そうだなぁ……」
「あったねー」
「「……」」
興味が無いであろう黒羽と、状況の呑み込めていない凛以外の五人が、じっと俺のことを見てくる。おいやめろ。
「なんだ」
「そういやあんなことがあったなぁと、思いましてな」
「そうそう」
「思い返したくねぇから、もうその話やめろ」
四月の時がどれだけ大変だったか。お前らにはわからんだろうよ。
全てとは言わないけど、クラスの、そして全校の男子生徒からは忌み嫌うような、冷たい視線を浴びることになった。
そらそうよ。噂の編入生と同居している生徒がこの学園にいるってなれば、気にならない生徒の方が少ないだろうよ。
一時は新聞部にも目をつけられたからな俺は。
「にしてはなんか、スーッと収まったよな」
「……」
そんないざこざがどうして収まったのかって?
凛が編入してきてから三週間くらいたった頃。GW手前になるか。とある三年の男子生徒が凛に言いよったらしく、彼女はその申し出をすぐに断ったという。
それでも退路を塞いできてはしつこいからと、その男子生徒に対して凛がどうしたのかと言えば、物理的に黙らせたんだとさ。
もちろん殴る蹴るといったことはしてないんだけどね。凛曰く、術を使って眠らせたそうだ。
言いよったというその男子生徒。サッカー部の主力選手で、学園内でもそこそこ名の知れた人物。それ故にこの一連の出来事の一部始終が広まったのも早いものだった。
そして皆が察したのだ。狐村凛であろうと、架谷祐真であろうと。下手に手を出したら自分自身が危ないのではないかと。
凛が少々脅すような形にはなったが、言ってしまえば無血でこの騒動を解決したことにはなる。
そういう意味でも思い返したくはなかったのだ。その考えはきっと、凛も同じであろう。




