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俺の家に狐が居候している  作者: 夘月
夜に現る騒がせ者
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いざ温泉に

 隅の方に荷物を置いて、部屋の中を一通り確認。

 旅館って初めて来たけど、映像越しにではなく、実際に自分の目で見てみると、感じるものは全然違う。


 和の内装から感じる落ち着き。独特の匂い。そしてなにより……旅館に来ているという、特別な雰囲気に浸らせてくれる。



 客室の確認も終わったところで、すぐに浴衣に着替えて……いたんだが。


「どうした架谷。難しい顔して」

「この格好になかなか慣れなくてな……。スースーするって言うか、変な感じっていうか」


 普段来てる洋服と違う感覚だから何だろうか。ちょっと動いただけで直ぐにズレてくるような感じもするし。


「すぐに慣れるよ。てか時間経てば、逆にそれで落ち着くからさ」

「そういうもんなのか?」

「そういうもんだって。特に変なとこもないからそれで大丈夫なの。心配な点があるって言うなら、直してやるからこっち来い」

「悪いな。じゃあ頼む」


 身内に旅館関係者がいるって言うのもあって、拓弥は手馴れた手つきで俺の浴衣を整えてくれた。



 少し時間が掛かりつつも着替え終わり、タオル等を持って部屋の外に。


「お待たせー!」


 出てきて二分ほどで、橋本を先頭に女性陣も部屋から出てきた。



「それじゃあ早速行こうか!」

「そうですね。温泉楽しみです」

「……って。どうした奥村」


 用意も済ませてこれから行こうって所なのに、なんか拓弥が痙攣してる。おいおい。


「俺……今回お前ら誘ってよかったと思ってるよ」

「それを思うには気が早すぎんだろ」


 涙目になってるし。橋本らの浴衣姿がそんなに良かったってことか? 普段と違う格好だから、印象なんかも変わってくるけどさ。


「浴衣ってなかなか着る機会ないからねー。やっぱりワクワクするものがあるよね!」

「だよな! そうだよな!」

「なっはっはー。こんなサービス中々ないからなー」


 一部……ってか、ほぼいつもの面々。こういう時に真っ先にテンションの上がる拓弥、橋本、堂口の三人で浴衣に関する話題で盛り上がってる。


「桐華。早く行こう」

「最初にそう言ったの、橋本さんですよね」

「そうですね」


 一番最初に温泉いこう。って言った人がここで立ち止まっちゃうってなると、俺らとしてはもどかしくもなるし、


「あははー。ごめんごめん」

「なんて言うか、橋本ってよく脱線することないか?」

「分かる。コロコロ話題が変わる」

「あぁ。この前なんか、最初は映画の話してるところが、気がつきゃデパ地下スイーツの話題になってたし」


 俺がそう言ってみたら、堂口と谷内の二人から共感の声が返ってきた。


「え。そうなの……」

「そう」

「私は、色々なお話ができるから楽しいですけどね」

「凛はいいよなー。ポジティブシンキングでよー」


 凛の場合、ポジティブって言うか知らないことばかりだから、興味を抱きやすいんだと思う。

 でもあまりにピュアだから、なんでも信じ込むのは玉に瑕か。


「それじゃあ気を取り直しまして。早く温泉行こうか!」






「ふぅ……」


 湯船の中に体を鎮めてみれば、心地よい温もりが全身に伝わってくる。


「はぁー」

「一際でかいため息吐いたな」

「それだけ癒されるってことだよ」


 疲れに温泉とはこの事かと。こうして広々とした湯船でゆったりと。のびのびと足を伸ばして入れるのはいいものだ。思いがけずとも、何度も息が零れる。


「随分といい顔してるな」

「惚けてるってか? だろうな。高校生になってからっていうか、色々と疲れさせてくれる事ばっかりだったからな」



 こうして温泉に身を委ねてみれば、これまでの疲れが少しでも抜けていくようにも感じさせられる。そういや色々あったな。



 思い返してみれば、初っ端からメインイベントみたいなもんだった。と言うよりは、こっから始まったんだろうなって思う。


 ただ部屋でのんびりと過ごしていただけなのに、開けてた窓から入ってきた御札から九尾である凛が現れ、何をされるかと思ったら俺の家に住まわせてくれって頼まれるわけで。


 そして凛が俺と同じ光ヶ峰学園に通うことになって、そこから橋本や堂口、谷内と関わるようになった。


 そして、凛と似たもの同士でもある黒羽の正体を知ることにもなった。最初はただのクラスメイトってだけだったのに、何がどうしてって言うか、まさかの事実がっていうか。



 それが落ち着いたと思ったら、中学時代からの面識があった文乃さんと再会することになった。

 振る舞いが別人みたいに変わっていて、そして正体を知った時は本当に驚いた。

 それでもなお、積極的に俺に近づいてくる。あの人の場合、正体バレるくらい些細なことって言うか、むしろ気にはならないんだろう。


 その後はあの人たちと退屈させてくれないって言うか、そうはさせてくれないぐらいに濃い学園生活を送っていた。


 凛の一件から始まって、俺は、この世界に潜んでいる異形の存在についてを知ることになった。

 出雲様が言っていたっけ。ここいら辺りに、異形の匂いがすると。

 凛と黒羽、オカ研の皆さんがそうだったけど、俺が知らないだけでまだ他にもいるもんなんだろうか。そうだとしたらこれから先、出会うことになるのだろうか。

 そうなったらまたエラいことになりそうだ。主に俺が。



 そんな奇妙な生活ではあったけど、楽しかったと思う。でも一つ、納得行かない点があるかと聞かれたら、静かに穏やかに過ごせなかったことだろうか。

 あれだけ女子が集まっていりゃ、まず目立たないわけがない。冷たいのとか、生暖かいのとか。妙な視線を集めることになったよ。


「確かに色々あったな」

「あぁ。懐かしんでみたら、お前が羨ましく思えるわ」

「なぁー。俺らはなんだかんだ言って、架谷経由で橋本らとつるむようになったわけだし」


 黒羽の一件が片付いてからは、拓弥と虎太郎の二人も橋本らとつるむようになった。

 でも今思うと、そのきっかけってなんだったのか。編入生として入った凛がいたからか。橋本の外交性の高さ故か。


「さてと。まだまだ高校生活、先があるんだ」

「そうそう。これから何をしでかしてくれるのか、期待しようじゃねぇか」

「そんな期待するんじゃねぇ」


 まぁこれから先、まだまだイベントは沢山あるよ。学園出あれば文化祭に球技大会。冬ともなれば…………。

 語れば長くなるほどに色々あるな。せめて少しでも、穏便にことが運んでくれることを祈ろうか。

女子サイドは次話に

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