一人は不安
集合場所にしておいた売店に来てみれば、既にほかの面々は揃っていた。気持ち早めに来たと思っていたんだが、どうやら俺たちが最後だったようで。
それにしても……
「大丈夫かお前ら?」
拓弥がテーブルに突っ伏してぐったりとしていた。その近くには空のコップが。
虎太郎は座って上向いたままやつれていた。
「心配には及ばんよ……。あの二人、体力ありすぎだろ……」
「あぁ。恐ろしいほどの体力バカだった……」
「お前らもあの二人に付き合わされたのか」
拓弥が言うに。あの後堂口と文乃さんに遭遇し、二人と共に行動していたようだ。色々連れ回されたようで。
「バカとは心外だなー。私はまだまだ動き足りないぞー」
「そうそう」
この二人はまだまだ体力有り余っているという。何をしたらそんなに体力がつくんですかあんたらは。
「架谷……。お前の苦労がちょっとはわかったよ。よくあの人らについてこれるよな……」
「いやいや。俺だって結構振り回されてんだって」
「豊田先輩と音羽先輩は、まだまだ元気そうですね……」
「僕らはあまり激しい運動はしてなかったから」
連れ回された男性陣は皆バテていましたと。対して女性陣はまだまだ遊び足りないってくらいに元気であった。
「まぁまぁ。今はお昼食べてゆっくり休もうよ。まだまだこれからってところだし」
「そうっすね……。今はゆっくり休みたいっす」
「俺もだ……」
昼食を取ってゆっくりくつろげば、疲れた体も少しは癒されるというもの。さてと。午後からなにをしようか。
「凛ちゃん。私と一緒に回ろっか!」
「いいですよ桐華さん。京子ちゃんも一緒に行こう!」
「えぇ。構いませんが……」
「文乃ー。どこ行こうかー」
「そうねー」
「俺らはどうしようか」
「そうだなー」
午後からも意見の合う者同士での自由行動に。俺まだ、行ってないところにでも行こうかな。って思ってたら。
「架谷」
「ん? どうした」
「一緒に来て」
「え? あ、ちょ……」
谷内に右手を引っ張られながらプールサイドを歩いていた。十数秒はお互い無言のまま歩き、皆から距離を置いたところで、彼女はようやく口を開いた。
「どうしたんだ」
「あれ。一緒に行きたい」
「あれって、ウォータースライダーか?」
彼女は俺の質問に対して、黙ってコクンと頷いた。谷内の指さした先には、ウォータースライダーがある。
「気になるけど……私人混み苦手だから」
「わかったわかった。付き添ってやるから」
いきなりの頼みで困惑することはあるが、まずは冷静になろう。あの二人とは違って彼女は大人しいから、振り回されることはないと思う。
そこまで歩きながら、急に誘われた理由についてを聞いてみることに。
「てか急にどうしたんだ」
「……お昼の前にね。男の人にナンパされたの」
「……そうか」
まぁこんな場所で、こんな綺麗な人いたら声掛けたくなる奴の一人や二人、居たっておかしくないだろうよ。
「その時は……京子に助けて貰ったの。あの時の凛みたいに。かっこよかった」
「そっか」
「すごかった。男の人相手なのに全く物怖じしてなくて。それで……」
谷内がその時のことについて、嬉しそうに俺に話してくれる。
俺はあの時、その場にはいなかったから詳しい情景なんかについては知らないが、話は聞いてたからなんとなく想像はつく。
黒羽も凛と似たような存在だから、人間の男くらいなら大した相手ではないのだろう。
「でもまたされそうで怖い。京子や凛は今、桐華と一緒にいる……から」
「そうだな」
「だからその、男の子の架谷にいてもらい……たい。そしたらナンパされない……と、思うから」
「……」
言いたいことは分かる。彼氏連れてる女の子相手に声かけようなんて思うよそ者は居ないだろうし。
でもそういう理由で俺に頼まれるのも……。
「ダメ……かな?」
「えぇっと……」
ホントにこういうとこ、ずるいと思う。ここまで連れてきて、そんなうるうるした目をして頼まれると断れない。断っちゃいけない気がしてくる。
普段は自己主張の少ない彼女だけど、こういう時は異様に積極的な気がしてくる。他の知り合いの目がないところだと尚更に。
「わかった。ここまで来て断るほど俺は意地悪くはないから」
「……ありがと」
ニッコリ笑ってそう答えた彼女は、とても輝いて見えた。
ひとまず順番について、人の列に従ってゆっくりと歩き、高台の階段を上っていく。
十分少々で高台のてっぺんに。あと数人で俺たちの番というところになった。
「次の方ー。こちらでお待ちくださーい」
「あ、はい」
係員の方の案内され、一歩前に。それにしても結構高いんだな。後ろの方を見れば海が見える。
「あ。カップルですか?」
「あ、い……」
「そう……です!」
「ならお二人ご一緒でどうぞー」
谷内さん?! 今日なんか積極的ってか、なんて言うか……。
「あの、ちょ……」
「手繋いで、仲が良いんですね」
「……はい」
「そうですかそうですかー」
谷内の一言で、係員のお姉さん納得しちゃったみたいで、もうそれでまかり通っちゃったし。
確かに待ってる間、ずっと手繋いでたけどさ。離れるのが怖いって言ってたからだけども。
「ではこちらどうぞ。彼氏さんは彼女さんにしっかり密着してくださいねー。危ないですし、何よりそうしないと楽しくないですから」
「……」
もう係員さんのペースだし。今更違います。と言える空気じゃなくなったし。
「し、失礼します」
谷内は俺の方を振り返らずに、少し顔を赤くしてから「……どうぞ」と言った。知り合いといえど、流石に異性に触られるのは抵抗あるだろうからな。
俺が足を開いてその間に谷内が入り、俺は背中を軽く抱いてやる形に。
にしてもすべすべな肌をしてる。触り心地良くて、凛や文乃さんとはまた違った感じで……っていかんいかん。これ以上邪なこと考えるな俺。冷静になれ。冷静に……
「それでは行ってらっしゃいませー」
「「……‼」」
ちょっと待ってー! 心の準備が出来ていないまま背中を押され、谷内と共に流されていくわけで。
頼むから確認してからにしてくれませんかね!
崩れた体勢にこそなっていないが、いきなりスタートされたから変な声出ちゃうし!
「のああ゛ぁぁぁ!」
てか思ってた以上に速い!でもって女の子とくっついてるから心臓バクバクいってるのがすごいわかる。
そして二人一緒に勢いよく着水。ちょっと息苦しくなったところで水面から顔を出し、ゆっくりとプールから上がる。
「びっくりした……」
「俺もだよ……」
息を切らせながらお互いの顔を見つめあっていた。
あのウォータースライダーが思いのほか速かったってのもあるけど、異性と一緒にってのが何よりのもの。
「でも楽しかった。ありがと架谷」
「おぉ。俺の方こそ……」
また彼女はにっこりと笑った。ウォータースライダーを楽しむ前よりも晴れやかな顔をしていた。
この後どこに行こうかって、歩きながら考えてたんだけど……
「……」
谷内はいつまで俺の手を握ってるつもりなんだろう。聞くのもなんかあれだし、気恥しいし……。
何より不快になる理由など無いのだから。
本人が無意識にそうしているのか、まだ不安だからなのかは分からないけど、しばらくはこうしておいてやろうか。




