休みの心意気
夏休みの初日。七時にセットした目覚まし時計のアラームが、一日の始まりを告げてくれる。
休みだからといって寝坊という訳にもいかない。あんまり自堕落していると後が怖いことを俺は知っている。
小学校の五年か六年の頃だったと思う。いつも八時頃に起きていて、気がつけば九時をすぎているなんてことが多々あった。そこから普段のリズムに戻すのがどれだけ大変だったか。
そういう反省があるから、生活リズムを崩さないことを心掛けている。
まぁそんな思い出話を語るのはやめにして…だ。
アラームを止めてベットから降り、すぐさまスマホに手を伸ば……
「……」
そうとした。デジャブを感じる。なんか気配を感じる。俺の背中から。
「……」
とりあえず起きよう。そしてその気配とやらについてを探ってみることに。
「……」
「すぅ……」
てれれれってってってーん。おめでたくないよ。事案が増えたよ。
てかこの人……俺の言いつけを一切何一つ守っちゃくれてねぇー!!
赤い下着を身につけただけの文乃さんがいました。
「……よし」
とりあえず。朝食にしよう。文乃さんまだ寝てるみたいだし。ほっとこう。
変に関わるとなおのこと偉いことになりそうだし。
「私を置いてぇ……どこ行くのぉー……」
「…‼」
やっべぇよ。起きてたよ。寝てると思ったけど起きてたよこの人。
でも落ち着け。俺は何もしちゃあいない。朝起きたらこうなってただけの事だ。
むしろ何か言いたいのはこっちの方なんだ。前の時だって忠告は入れて置いたんだ。まぁこの人が素直にいうこと守ってくれるとも思えんが。
カクカクっと首を後ろに回す。ロボットだったらギシギシ言いそうな感じで回してみる。
ベットから降りて、正座を崩したぺたんこ座りしてうるうるした目で見ていた。
「おはよう……ございます」
「そんなに固くならなくてもいいのにー」
「いやなりますよ。朝っぱらからこんなことになってりゃ誰だって驚きますっての」
「えぇー。ケチなこと言わなくていいのにー」
そのままの姿勢でにじりにじりと近づいてきて、俺の左足に絡みついてくる。
今度は足で感じてるし。彼女は下着姿で俺は下短パンだから素肌で感じるんだよ。
「なにしに来たんですか……。って聞くまでのことでもないかと思いますけど、ホントになんですか」
「いいじゃんもー。溢れんばかりの欲求は抑えきれないんだよー」
「だからって……」
「何よー。私が他の男の子を襲ってもいいって言うのー」
「そっ、それは……」
そうしそうなもんだから怖い。この人、正体サキュバスだからな……。てか俺が光ヶ峰に入学するまでの一年間、よく持ったよな……。まぁホントに持ったのかはどうかわからんが。
「だからこうして祐真君成分を補給しに来たんだからぁー……」
「やり方は考えてください。少なくとも夜這いするもんじゃないですから」
「いいじゃんもー。せっかくの夏休みなんだからー。祐真君と過ごせる初めての夏休みがぁぁ……」
この人の場合、夏休み関係なく年がら年中夜這いに来るだろ。
「だからこうして祐真君の所に来たのにー」
「話聞いてくださいよ……」
「それでー。夏休みはどうしようかなーって思って」
「あの……文乃さ」
「ねぇー。どうしよう祐真くーん。何かもう決まってたりはするのー?」
この人のいつものこととはいえ、聞いちゃいねぇし……
「今のとこは家族旅行が入ってますし、あとはクラスの友人でなんかしようかって話なら……」
近くのテーブルの上に置かれたスマホに手を伸ばす。
”新着メッセージが14件あります”
それを確認すると、ほとんどは例の件だ。
【橋本桐華】この夏休み何をしようか皆で決めよう!
【橋本桐華】アイデアある人バンバン出しちゃって!
【奥村拓弥】海! それかプール行きたいっす!
【吉島虎太郎】上に同意で!
【橋本桐華】ほうほう
【橋本桐華】(猫のキャラがこくこくとうなづいてるスタンプ)
といったやり取りが行われていた。教室での話し合いではやる事は月末の花火大会に行く。ってことしか決まっておらず、でも他にもやりたいことは沢山あるって事だったんで。
こうしてあの8人でのグループを作成して相談が行われているって事だ。
【堂口明莉】男子諸君は忠実だねー
【奥村拓弥】行きたいってのは事実ですから! こんな所で隠してちゃ意味無いんですよ!
【堂口明莉】そういう心意気、私は嫌いじゃあねぇぜ
この流れだと、どっちかに行くことはほぼ決まりそうだな。
そういや体育の授業なんかで泳いだのは中学が最後だし、こうしたプライベートでそういうことしに行ったのてなかったな。
行くって決まったら、それ用の水着買わなきゃならんな……あのダサい指定水着着るのはなんか嫌だし……。
「ほうほう……色々お考えなようで」
「っていつの間に?!」
気がつきゃ足元にいたはずの文乃さんが俺の左後ろに。
「私も行きたいよー」
「その辺は申し出しておきますから。橋本とかも、オカ研の皆さんとも一緒に行けたらいいなってこと言ってましたから」
「わーい」
「なので……そろそろ離れて頂けると」
「いーやーだー」
「祐真さーん。朝食の用意が……」
「あ」
「あらー」
「……」
俺の部屋に凛がやってきた。ドア開けたまま固まったまんま。
そら……あれですよね。前のオカ研部室でのこともありますからねー……。
「す……」
「すみませんでした祐真さぁーん!!!!」
本当に、申し訳ないと思っている。




