どうしてこうなった
「……あのさぁ」
「どうかしたかね君」
「どうかしたかね。じゃなくてな。来るなら来るで連絡のひとつくらい入れろっての。あん時の話聞いちゃいねぇのか?」
「いやーごめんごめん。つい忘れちゃったー」
「てへぺろで誤魔化そうとすんなし」
やってきたのは例にもよっていつもの三人組。いきなり現れたってのは、四月のあの時を思い出させてくれるよ。
昼飯食べていた時にチラチラとスマホは見ていたけど、それらしい連絡なんて入っていない。一件着信はあったけど。コンビニの公式垢からの値引きクーポンだった。
「桐華がせっかくだから寄りたいって。それで」
「あれこれしてたら連絡入れるの忘れちやった」
「いいじゃあねーかー。気まぐれでも」
「いきなり来たのもそうだけど、その自由奔放ぶりにも俺は驚いてるよ」
そういう行動力があるからこそ、人から注目されるし、信頼ってものが集まるんだろうか。
まぁ他者の都合くらいは考えてもらいたいものだが。
「てかわざわざよってどうするってんだ。悪いが俺は今日忙しいんだ。外をほっつき回れる余裕なんかないんだよ」
草むしりは終わらせたけど、まだ風呂掃除が残っている。押しt…頼まれた以上はこなさなくてはならんのだ。職務を放棄する訳にも行かないであろう。
「む、無理に外に連れ出そうとか……してない、からね?」
「あー、そうそう。決してなんかしようとかそんなんでは無いから」
「何故そこで言葉に詰まる」
最近見ていて怪しいなとは思っていたけど、やっぱり何か企んじゃいないかこの人たち。文乃さんの時みたいなことにはならないとは思うけど、あれ以降けっこう警戒心張り巡らせてんだぞ。
「祐真さん? 随分と長話みたいですけど……」
「何してるのー」
橋本らと玄関で立ち話していたら、リビングにいた二人がやってきた。できることならそうはならないで欲しかったかな。益々面倒なことになりそうだから。
「あぁ桐華さん! 神奈さんと明莉さんも!」
「ちわーっす」
「遊びに来た」
「……」
凛はクラスメイトである橋本らと和気あいあいと話しているが、その右横に立ってる那菜は黙りこんでしまってる。っていうか愕然としていると言った方がいいだろうか。その目といい身体の震えようといい。
「嘘……」
「……何が」
「あのバカ兄が同年代の女子とこうして休日に話しているとか……! 明日大雨でも降るのかな…」
「随分と失礼なこと言ってくれるじゃあないか。てか家ん中じゃ凛と普通に過ごしてるだろうが」
「親戚と同期は別物」
「そうかもしれねぇけどな……。俺の事なんだと思ってんだお前は」
「身内以外の異性交友経験なんて何一つない根暗な孤独愛好家ヘタレ童貞」
「事実は一番最後の二文字だけだろうが! てかそんな言葉! どこで覚えてきた!」
「今どきの若者なんて、そういう言葉くらい知っているものだよバカ兄よ」
いつから妹はこうも生意気ってか破天荒になったってか。最近は時々しけた所があるって言うか愛想がないって言うか。
あと言っておくけど、妹が言い放ったことについては最後の童貞以外は事実無根の嘘だ。
中学の時は文乃さんの一件もあったし、ちゃんと友人もいた。それにおれは孤独愛好家ではなく、ただ静かに過ごしていたいだけなのだ。那菜。お前は今すぐ全国のソロライフ謳歌してる奴に謝ってこい。
「えっと……架谷くん?」
「な、なんだ?」
「その子は、架谷くんの妹?」
「あぁ。二個下の妹だ」
「いたんだ……妹」
「初耳」
「というかどの人も美人さん……やっぱり明日は大雨だ」
「だから落ち着けっての」
那菜の後頭部に、軽くチョップを一発。
「嬉しいかも。美人って言って貰えたのとか初めてだわ。あぁ、私は堂口明莉な。私には冷たいこの架谷のクラスメイトだ」
「私は橋本桐華だよー。ちなみに私も明莉ちゃんも、神奈ちゃんも同じクラスなんだよ」
「谷内神奈です」
三人が妹に自己紹介すると、一回自分の左頬を引っ張っていた。でもって夢ではなく現実であることを確認するとようやく名乗った。
「架谷那菜です……。兄がご迷惑お掛けしております」
「迷惑なんて思ってないよ。色々フォローしてもらってることもあるから」
「なんだかんだと気に食わないところはあるがな」
「面白い人だから」
その後玄関で数分は立ち話。したところでようやく思い出してっていうか。
「来てもらったところ悪いが、今日は俺は忙しいんだ」
「と言っても、家事しなくちゃいけないくらいだけどね」
「お手伝い?」
「祐真さんの母上様。今日は一日外出なさっているので、今日はそういうことになっているんです」
「そっかー。あ。なら私たちも手伝おうかな! 日頃世話になっているお礼も兼ねて」
「何故そうなる?!」
建前考えるまでもなくそれ。何がどうしたらそんなことになるって言うんだ。
普通はさ。「そっかーなら仕方ないね。それじゃあまた別の機会に」ってならないか?! あんた俺の家政婦でもメイドでも召使いでもないでしょう!
「いやいや桐華。一回落ち着けっての。それはちょいとちがーう」
うんうんそうそう! 珍しくナイスアシストだ堂口!
「ちょっとこっち来て耳かせ。神奈も」
「私も?」
「そうよそうよ。他に誰がいるってんだか」
そう言うと堂口は俺らから少し離れたところに二人を集め、何やらヒソヒソと話し始めた。
変な企みしてないといいんだが。って思った時だった。
なんか慌ただしい足音が聞こえてくるんだけど。外の方から。その音に気がついた時には、その音の発生源は俺の目の前にいた。でもって――――
「祐真くーん!」
「おごぉあ!!」
エアホッケー並の高速反射で、俺というゴールポストの方へ痛烈ショット。きれいに収まり一点。ゲームセット。
この人……いったいなにを感知してここまで来やがった?!
床に倒れて上を見てみれば。
覆いかぶさっている文乃さん。そこから少し目線を逸らしてみたら、驚いてる凛とさっき以上に表情の硬い那菜。
「もうダメだー! 明日は大雪だよー!!」
「(ここはニュージーランドじゃねぇ!)」
六月の土曜日。静かな休日。やることはあれど穏やかな一日……だったはずなのに。
どうしてこうなった。




