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019話

改訂版です



 ピーちゃんの援護を貰って、ヒュンヒュンとスッ飛んで来る矢を気合でかわし続ける。

 皮鎧の背中を覆う強化魔法陣も、これなら出番が無いかも知れない。

 そもそもクロスボウなんてブツは爆走しながらの巻き上げが難しいから、連中にはあらかじめ用意してある装填済みのブツしか使えない筈だ。

 そんな風に思いつつしばらくかわし捲くりながら爆走してると、案の定クロスボウの攻撃が唐突に終わった。

 やっぱりストレージの予備が尽きたっぽい。

 例え爆走しながらクロスボウの巻上げが出来たとしても、あんな魔法仕掛けの矢は元のお値段だって高いからね。

 事前準備だっているし、矢数に限度があるのは当たり前だわな。


『ピーちゃん、本当に有難う!』


 感謝を伝えようと胸ポケットのピーちゃんを見れば、何時の間にか静かになってた彼(彼女?)はちょっとグッタリとして目を瞑ってた。

 ぬう。済まん、ピーちゃん。

 そこで眠れるなら好きなだけ寝ててくれ、後は自分で何とかするよ。

(まあ精霊は寝たりはせんけども)

 ワタシはピーちゃんの安眠を確保すべく外套の胸ポケットのフラップをそっと閉め、頭の中を殺し屋共の事に戻した。

 今の攻撃で判ったのは、ヤツらが「確実にこっちを殺しに来てた」って事だ。

 でもクロスボウと言うブツは基本的に威力重視で、決して遠距離戦用のブツじゃないんだよね。

 ましてや携行用だろうし、こんなスピードの中で五十ヤード(約45m)も離れてたら威力的に射殺にはギリギリだと思う。

 塗ってある毒の種類にも寄るとは言え、コレってちょっとおかしく無いですかね?

 そもそも殺しに来てるんなら、追い付きさえすればイイ筈だ。

 人数で囲んでガチの殺し合いに持ち込めば楽勝だと思うんだけど……。


「判らん」


 連中の謎の攻撃方法にちょっと悩む。

 今の矢陣だけ見ても連中はプロ中のプロの筈だ。

 そんな連中が間接敵な攻撃に専念する理由が判らない。

 どこかに追い込もうと言うのなら判るけど、行き先もこっち任せ状態だしさ。


「もしかして!」


 探知魔法もどきで連中との距離が変わってない事を確認して、ちょっと思い付いたワタシはスピードを少し上げてみた。

 元々アベレージ走法で走ってるから、ちょっと位スピードを上げる事なんて造作も無いからね。

 すると連中も同じ様にスピードを上げては来るものの、上がり方がとっても鈍くて段々と遅れて行く。


「成る程ね」


 納得してスピードを戻す。

 どうやら連中、今のスピードが限界に近いらしい。

 つまりさっきのクロスボウ攻撃はワタシの足を止めに来てたって事だ。


「にゅっふふふ」


 思わず薄笑いが漏れる。

 そう言う事なら、元々疲れると言う言葉を理解出来なかった自分に負けは無い。

 こっちは短時間ならもっとスピードを上げられるし、逆にこのスピードを保つならこのまま西聖王国を縦断する事だって出来るからね。

 一気に勝算が見えて来ちゃったわ。

 周囲に目を移すと、何時の間にやらもう二つ目の町を過ぎた所まで来てた。

 このまま旨く引っ張れば、山岳大森林地帯の、それもモロにワタシのテリトリーに引っ張り込める。

 そこで連中に逆襲を掛ければ、一人残らず潰せる可能性は高い。


「ほいっ」


 心に余裕が出た所で、さっきの矢のお返しに爆炎地雷をまた三つ、そっと背後に転がした。

 同じ手が何度も通じるとは思わないけれど、何か返礼をしないと気が済まないからね。


「ぐはっ!」


 しかし起爆するとまた悲鳴が上がって、追っ手が一人消えた。

 二人は避けたのに間抜けなヤツもいたモンだ。

 ホントに強いのか弱いのか判らん連中だわ。

 初見でも無い小ワザを無効化レジストすら出来無いなんて、素人でも混じってたのかな?

 とは言え、逆に今あれを避けた二人の方は要注意と言える。

 当たって無効化レジストしたのならともかく、起爆寸前のブツを明確にかわして見せた所は強者つわものとしての貫禄十分だ。

 気配がかっちりと判るほどの距離じゃないものの、恐らくかなりの腕だと思う。

 一人はさっき最初の矢を放った先頭のヤツで、どうもこいつがリーダーっぽい。

 もう一人は一番後ろに居る魔法士っぽいヤツで、どうやら全員に補助魔法を行使してる雰囲気だ。

 この二人は多分他の奴等とは格が違う気がする。

 完全に覚悟を決めた上で、ド汚い手で掛からないとヤバいだろうな……。


「頭痛いけど仕方無いよね」


 独り言を呟いて溜め息。

 現実的な話、こいつらが殺し屋と判った以上は此処で始末しないと色々と不味い。

 後々でどんなタタリがあるか判らないし、密かに付き纏われて街中で狙われたらほぼアウトだ。

 爆炎地雷に引っ掛かるような素人ならまだしも、今の二人は必ず仕留めないと自分自身の今後にモロに響いちゃう。


「おっと!」


 瞬間的に放たれた殺気に呼応して、瞬き一つのタイミングをずらしてから右側へ殺気ソレかわすと、直後に「ズドンッ!」と言うデカい音と共に外套のわき腹辺りを弾が掠めた。

 銃だよ、マジかっ!?

 これはヤバい。

 矢なら何とかなっても銃弾はムリだ。

 音より速い銃弾をかわせるのは討伐騎士どころか討伐卿(金章のヒト)くらいだよ!

 少しでも狙いを逸らさなければと、反射的にスピードを上げて小刻みにジグザグで走る。

 どうか当たりませんように!

 すると左側遠方に大森林地帯の影とそちら側へ続く林道が見えたので、躊躇無くそっち方向に足を向けて林道に入った。

 まだ二発目は来ないけど、飛び道具相手なら木々の間を走るだけで一気に当たり難くなるからねっ。


「しかし二発目が来ないな」


 林道の中をジグザグに走り続ける中、ボソッと呟く。

 最初の銃撃から四半刻(約15分)近く経ったにも関わらず、二発目が来ないのだ。

 仕方ないので、様子見の為にジグザグ走りを辞めてみる。

 それでも二発目は来ない。

 あれ? なんでしょね。

 さっきのは「銃もあるでよー」と言う脅しがメインで、当たれば儲けって所だったのかなぁ。

 さもなきゃ、ジグザグに走らせてこっちの疲れを誘うとか……。

 全く判らん。

 もしかして、連中もアセって来たって事なのかな?

 あんな畑だの草原だののど真ん中で銃声がしても誰も気が付かないだろうけど、殺し屋連中は音を出す事を極端に嫌うって言う(ししょー談)んだよね。

 実際にその前迄は音が出ない様に攻撃してたので、その可能性は高い。

 これがもしそう言う事なら、またちょっとだけ勝算が上がった気がする。


「良しっ」


 そうこう思いながら走り続けてると、段々と風景が山っぽくなって来て希望が見えて来た。

 道幅も狭くなって来て、辺りはもう完全な林の中だ。

 このまま行けばセヴンの山岳大森林地帯にもうすぐ入る筈。

 しかも、モロにこっちのテリトリー地帯ですよ。

 コレでやっと、こっちから逆襲する手段を考える事が出来る。


「さってと……」


 完全に見覚えのある風景に入って来た所で、ワタシは頭を切り替えた。

 この先の山道には、余裕の無い時に魔物に追われた場合を考えて仕掛けた罠が幾つもある。

 それらは魔法系の罠だから発動させない限りは安全なので、関係無い人が巻き込まれる可能性は極端に低いものの、肝心の罠自体はオーク数匹を一発でブッ潰せる様なエグいヤツばかりなんだよね。

 幾ら討伐騎士級でもアレらを無傷で抜けるのはムリだろう。

 さっきの二人なら掠り傷で抜けてくるかも知れないけれど、他のメンツが減ればこっちは大助かりだ。


「ふっ!」


 林道から見知った獣道を見つけたワタシは即座にそこに飛び込み、直後に風系魔法のほとんどを解除して足に直接頼る走法にチェンジした。

 森の中では風系魔法に頼るより足を使った方が効率がイイし、何より土埃を巻き上げなくて済む。

 後は森の中の獣道を第一の罠を目指して走り捲くるだけだ。


「んん? ちょっとヘンだな」


 しかし調子に乗って走ってたら、何だか連中の足が極端に落ちて来た様で、探知魔法もどきの圏内から外れ気味になって来た。

 道無き道である獣道に入って以降、街道を走ってた時に比べてこっちのスピードはかなり落ちてると言うのに、どう言う事でしょうか?

 そもそも風系魔法でスピードを出してたこっちと違って、足自体は向こうの方が強い筈なのに疑問だ。

 流石の連中もバテて来たのかな。

 それとも魔物警戒を優先してるのかね。

 まさかこっちの罠を予想してるとまでは思わないけれど、このままだと振り切っちゃう。

 仕方ないのでスピードを落として周囲を確かめると、何時の間にやら周りはもう完全に見知った場所になってた。

 しかも最初の罠がもう目の前だ。

 森の中を蛇行して走る獣道の脇に目印の樹を発見してほくそ笑む。

 ワタシは全く変わらない調子でその横を走り抜け、直後に速攻で魔法陣起動の準備に入った。


「さて、行くかね」


 探知魔法もどきを観ながら、連中がそこを通る瞬間に罠一号起動!

 後方でドンッと言う凄い音がしたと同時に「グボッ」とくぐもった声が聞こえた。

 少し走った後で探知魔法もどきで確認すると、追手の数は三人。

 どうやら一人しかヤれなかったようだ。

 まあ罠一号は落とし穴だからね。

 討伐騎士級のヤツらが何人も同時に引っ掛かる方がヘンか。

 でももし落ちれば、植物毒のキツいヤツたっぷりの槍剣山が待ってるから人間なんかあっと言う間だ。

 一人は確実に始末出来ただろう。

 そう思って探知魔法もどきで丹念な確認に入ると、驚くべき事実が判明。

 罠一号で潰れたのは、どうやら例の魔法士兼任のヤツっぽい。

 距離があるから詳細までは判らないものの、確かに風魔法を大きく行使してたソイツの気配は消えてる。

 しかも罠一号を過ぎてからの連中の足も一気に落ちたので、魔法士兼任だったらしいソイツが脱落した可能性は高い。

 うーむ。警戒してた自分がバカだったのかな?

 かなりの手足れだと踏んでたんだけどなぁ……。


「ふう」


 ちょっと気が抜けましたよ。

 だって二人いた強者つわものが一人に減れば、もうドッと難易度が下がるからね。

 とは言え、もう山の中に入ってる以上、もうこっちがヤられる確率は大分下がったと言ってイイ。

 何しろワタシは山中では実力以上の魔法が使える。

 探知魔法もどきだって絶好調になって、その気になれば離れた相手を直接観る(起きてるのに同時に夢も見てる様な感じ)事だって出来る位だ。

 こんなアドバンテージを持って連中を相手に出来る機会はそうそう無い。


「おっと」


 考え込んでる内に二番目の目印を発見。

 今度のヤツは凄いぞ。

 何たってオーガの足を止める為に研究に研究を重ねたブツだ。

 実を言えばまだ研究中のブツなんだけど、誘導っぽい術式まで組んだ弾丸を魔法発火で撃ち出す火薬銃の罠なのですよ。

 仕掛けは合計五つ。

 向こうは三人に減ってるし、出来ればこれで決まってくれればイイんだけどな……。

 ワタシは探知魔法もどきの感覚を伸ばしてきっちりと連中を補足すると、罠を起動した。


「ズバババンッ!」


 すると山中に凄い音が響き渡って連中の動きが止まった。

 少し離れた所で自分も止まり、探知魔法もどきで確認すれば、二人が倒れてて一人がうずくまってるのが見える。

 うんむ。どうやら成功したようだ。


「さて、どうする?」


 ワタシはゆっくりと深呼吸して体勢を整えながら、これからどうするかと考える事にした。



この辺りで終わりにさせて頂きます。読んで頂いた方、有難う御座いました。


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