020話
改訂版です
立ち止まったワタシは先ず、連中を探知魔法もどきで観て詳細を確認する事にした。
走りながらじゃムリだけど、止まってればそっちに意識を集中出来るからイケるのですよ。
すると、すうっと視界じゃ無い視界が浮かんで、倒れた二人が即死してるのが見えた。
まあ頭がスッ飛んで生きてたら怖いよね。
でも残った一人、件のリーダーらしき野郎は蹲ってるだけに見える。
どうする?
ここは後顧の憂いを断つ為に、出来れば依頼者の情報を引き出したい所ではある。
でも例え無傷じゃ無いにしろ、相手は約十八フィート(約5.5m)なんて至近距離の銃弾を躱したヤツだ。
ししょーには遠く及ばないものの、例のヤバい部隊の連中でも小隊長クラスの強者ですよ。
本当なら絶対にお近付きになりたくない。
「しかし世界って広いわ」
取り敢えず探知魔法もどきの視界を打ち切りながら溜め息。
たかが賊程度のヤツに銃弾を躱して見せる程の強者がいるなんて思わなかった。
自分だったら即死してるような罠なのに、本当にハンパじゃないわ。
「なんて感心してる場合じゃないか」
独り言を呟きつつ、更なる溜め息。
どっちにしろ、リーダー野郎の死体は確認しておかないと不味いので接触する以外の道は無い。
ワタシはインベントリから上下二連銃を出して準備に入った。
弾は二発フル装填。
万が一を考えて例の実験用銃身も出して魔法弾カートリッジをセットし、左腕に固定して袖で隠す。
化け物が相手なら、相手の余裕の隙間からブチ込む感じで、ハナから刺し違えるコトを考える必要がある。
そんな攻撃を仕掛るのなら、お守りは多い方がイイに決まってるからね。
「本来なら剣で勝負するのが騎士の有り様なんだろうけどねぇ」
自分に出来無い回避ワザを使うヤツなら、まず間違い無く剣の腕も格上に決まってるので、そんなヤツ相手に剣で挑むのは無茶だ。
しかもあの最初の矢から受けた感じからすると、ヤツの剣技は自分以上に魔法ワザ関連がテンコ盛りっぽい。
うん。どう考えても剣は無いな。
近い距離で人間相手、更に対一の戦闘と限定すれば、銃に優る物は無い。
それが例え小さな子供でも、扱い慣れてて撃ち慣れてればと言う条件すら満たせば、強者と互角以上に戦えるのが銃と言う武器の本質なのだ。
なんたって銃弾は余程の弱装弾でない限り、音のスピードを超える。
化け物揃いである討伐士協会の金ぴか(金章騎士)でも、十フィート(約3m)以内なら計算上は胴体を狙った銃弾を躱しきる事なんて出来無い。
だから狙うのは十フィートを意識した至近距離での撃ち合いだ。
「ふう」
一度出した銃を点検してから右手に握り、パッと見の無手を装う為にそのままインベントリに突っ込む。
身体に弾を食らった場合を考えて、治癒魔法だの回復魔法だのも励起しておく。
元々バカみたいに対物理魔術を掛けてる皮鎧は生きてるオークの皮膚並みに抵抗力があるし、胸には鉄の胸当てまで付いてるから安全度は更に高いけれど、食らった後で慌てても後の祭りだからね。
「では、行くとしますか」
呟きで気合を入れ直し、探知魔法もどきで向こうを確認しながら、用心深くそっと近づいて行く。
これは別に音を立てない様に気を使ってる訳じゃ無く、何時向こうが起き上がって攻撃して来るか判らないからだ。
こう言う時、相手を舐めるバカは山中で普通の狩りも出来無い。
森の動物だって、こちらが余裕を見せた途端に全力で反撃するのはセオリーだからね。
しかし予想された反撃も何も無いまま、ワタシはリーダー野郎が蹲ってる場所の目の前に辿り着いた。
少しイヤな雰囲気だ。
木の陰から様子を伺えば、更に大きな樹の向こう側、約十五(約4.5m)フィート位先にヤツが蹲っているのが見える。
ちょっと嫌な気はするものの、意を決したワタシはスッとその大きな樹の横に出て、リーダー野郎に声を掛けた。
「ふぅん、生きてるんだ?」
しかしリーダー野郎はこっちの声を聞くとビクッと身動きをしただけで、声すら返って来ない。
「もう声も出ないってワケ?」
試しにもう一度声を掛けてみる。
コレで返答が無いと色々と面倒臭いコトになっちゃうけど……。
「ぐほっ……。い、一応、こ、声くらいは、出る、ぜ?」
二度目の声掛けで返事をしたリーダー野郎は息も絶え絶えな様子だ。
でも声くらいは出ないとおかしい。
弾を食らったのは肩の様だし、それじゃ致命傷には程遠いもんな。
このまま返答が無かったら、死んだ振りと決めて足に銃弾をブチ込もうかと思ってたよ。
「誰の指示か教えてくれたら、命だけは助けてもイイんだけど?」
返答が来たので、先ずは会話を試みてみる。
取り敢えずの話題は依頼主の事だ。
「て、てめえんチのロッシュ、とか、言うヤツだ。ほ、ほんとに、見逃してくれ、るんだろう、な?」
頭を上げてこっちを見たリーダー野郎から、ほぼ思った通りの答えが返って来てガックリ。
はぁ。やっぱり最近母上に付いた家人のアイツが元凶か。
小悪党ヅラだとは思ってたんだよね。
でもそうなると、コイツからその先を手繰るのは難しい感じだよな。
「そう……」
ガックリついでにどうでもイイ返事で会話を続けてみる。
これじゃ黒幕の捜査は母上に任せるしか無いみたいだし、何だか色々疲れて来ちゃったわ。
面倒臭いけれど、コイツにはさっさと止めを刺してこの場を離れ、母上に繋ぎを付ける為に動くしか無いのかな。
あの母上ならとっくに気が付いてて、余計なお世話になりそうだけどさ。
ん?
ちょっとダルいなと思いつつも少し気を抜いたら、その時ふとイヤな予感に襲われた。
もしかしてコレ、罠じゃない?
こう言う場合の唐突な予感とか直感とかは大抵の場合に間違いが無い。
考えてみれば、要注意だと思ったあの魔法士兼任のヤツがあんな簡単な罠で潰れるワケが無いし、もしかしてどっかに隠れてるのか?
そう思って見直してみれば、蹲ってるリーダー野郎も何処かウソ臭い感じだ。
これは不味い。
もしかもクソも無く、ワタシってば死地に突っ込んじゃってるみたいですよ!?
「だ、だから、その、ロッシュだ、つってん、だ。ほ、報酬、は、せ、聖王国、金貨、だった、ぜ」
ツツーっと背中を冷や汗が流れる中、リーダー野郎が何か喋って来た。
内容なんて全く聞こえない状態だけど、コイツが喋ってると言う事はまだ向こうに余裕があると言う事になる。
少し息を吐いた。
最後の修行の時のししょーの言葉が脳裏に浮かぶ。
これが罠だとするならば、逆転の目はこっちが待っている所に向こうから手を出させる事だ。
ワタシはそっとインベントリに右手を這わせて何時でも銃を抜き撃てる体勢を作ると、リーダー野郎の言葉にショックを受けたフリで俯いた。
「!」
その直後、背後の大きな木の上から殺気が襲って来た。
真上かよっ!?
直後に来たリーダー野郎の頭への殺気を躱しつつ、上から落ちて来たヤツにインベントリから銃を抜き撃つ。
「ドドバンッ!」
連続した三つの銃声が響き、こっちの銃を持った右手が吹っ飛んで、同時に腹に凄まじい衝撃が来た。
「ちっ!」
あのリーダー野郎、今の瞬間に頭から腹に狙いを変えやがったなっ。
ワタシは腹に食らった衝撃のまま、後方に飛ばされて樹に激突し、両脚を投げ出した格好で座り込んだ。
落ちてきたヤツは頭が吹っ飛んでそこらに落ちるのが見えたものの、リーダー野郎は無傷な筈。
そう思って何とか頭を上げて前を見れば、案の定ヤツは銃を剣に持ち替えて離れた所に立ってた。
即座に足元に野焼きの魔法陣を想写して自分のヤられ具合を確認する。
落ちてきたヤツにヤられた右腕は肩の殆どが吹っ飛んで、辛うじてぶら下がってる状態だから使うのはムリだ。
握ってた上下二連銃も当然ながら、何処かに投げ出しちゃって無い。
リーダー野郎にヤられたお腹は左側に当たった銃弾が背中に抜けた様で、考えるのもコワい無残な状況だ。
こっちの防御を一撃で抜いたと言う事は対オーク用の強装弾だろうな。
でもお陰で弾が体内を跳ね捲らなかったのは僥倖だわ。
「凄えな。単発銃でしか撃てねえ強装弾を二発食らっても生きてやがるのかよ?」
約二十フィート(約6m)くらい離れた前方で、リーダー野郎が余裕しゃくしゃくに声を上げた。
ああ、まあそうなるよね。
こっちは見た目からしても何時ぞやのオーガ戦より重症だ。
普通人なら瀕死になってる状態なんだから余裕も出るわな。
しかしワタシはまだまだ戦える。
「うっ……」
苦しげに息を吐き、弱ってますアピールをしながら、そっと体内のヤバい部分にだけ微かな魔法力で治療系魔法を使いつつ様子見。
今はまだ目に見える魔法力は行使出来ない。
死んだ振りでアイツの一瞬の油断に賭ける。
ソレでもダメなら、ししょー曰くの爆炎魔術で耐久勝負だ。
ストレージをすべてパージすればその魔法力も使えるから、多分競り勝てると思う。
「く、来るな!」
ニヤニヤした顔で近づいて来るリーダー野郎を今か今かと待ちながら、ワタシは苦し紛れの声を掛けた。
まあ実際に苦しいんだから演技もクソも無いんだけどね。
「へっ、可愛い声でそんなコト言っても無駄だぜ? 心配すんな。犯し捲くるのは首落としてからにしてやっからよ!」
「お願いぃっ、来ないでぇ!」
下卑た笑い顔と共に近付くリーダー野郎のトンデモ発言に怒りが湧くのを必死で堪え、何とか可愛らしい声で叫ぶと、生き残った「何も持ってない左手」を開いて、そいつにイヤイヤをしながら向けた。
その態度に嗜虐心がそそられたのか、リーダー野郎は更に下卑た笑いを深めながら躊躇せずに近寄ってくる。
どうやら完全に舐め舐めな御様子ですね。
良い傾向だ。
良し、今!
リーダー野郎が十フィート圏内に入った瞬間、左腕に隠した試作銃身の魔法弾に起動術式を放つ。
するとズパンッ! と音がして左手に激痛が走り、ヤツは胸のド真ん中に穴が開いて後方にスッ飛んだ。
速攻で魔法力をブチ込んで、回復&治療術式を起動!
直後に固定した銃身もそのままに、激痛を訴える左手を叱咤してインベントリから愛用のバスタードソードを出して握った。
良し!
痛みを無視すれば、まだ左手は十分使えるよっ。
少しふら付きながらも剣を一瞬支えにして立ち上がり、ワタシはリーダー野郎を睨んだ。
「結構ギリギリの勝負だったよね。アンタみたいな強敵、生まれて初めてだったよ」
そして再び二十フィート(約6m)近く離れ、両手で上半身を起こした格好のヤツに声を掛ける。
取り敢えずの挨拶代わりだけど、これでもまだ戦えたらコワいなあ。
「カ、カマされた、のは、こっち、だっ、たって、ワケ、かよ?」
うわっ、信じられない!
リーダー野郎ってば、胸に向こう側が見える程の大穴が開いてるのに返事をしやがりましたよ!?
つ、強者ってコワいわ。
こんなヤツ、本当に死ぬのかな?
「死んだフリの事? お互い様でしょ。最初からガチで全力勝負だったら、ワタシじゃアンタに勝てなかったよ。こっちは初めから、最悪こんな形にでもしないと無理だと思ってたもの」
全開の治癒&治療&回復魔法のお陰で死体に近かった身体に力が流れて行く中、ワタシは正直に答えて様子見に入った。
こんなヤツが喋る以上、まだ何を隠しているか判らないので要注意だ。
「お、オレの、インベントリ、使え。隠蔽、術、が、薄いぜ? 他に、も、色々、ある。金、もな」
は? 何言ってんのコイツ?
時間稼ぎの為なのか、何だか間の抜けた話をし始めたリーダー野郎にガックリ。
一瞬、ズッこけそうになっちゃったわ。
こりゃ相当に余裕がありやがる様ですな。
何故ならこのテの連中はインベントリに爆散術式を仕掛けてるのが普通なのですよ。
他の奴等もそうだったから、コイツも同じ筈なんだよね。
死なば諸共と、何か仕掛けてあるのならワザワザこんな事は言わない筈だしさ。
「爆散させないの? だったら貰うけど……。そっか、バレてたのかぁ」
ヤバいなぁと思いつつ、取り敢えず答えて更に様子見。
そりゃ勿論、コイツが隠蔽系術式や魔導具を持ってたらマジで嬉しいけれど、今はそんな事考えてる場合じゃ無い。
あの状態になってもこんな余裕をカマしてくる以上、コイツにはまだ奥の手があると踏むのが普通だからね。
そう考えると、何時もの調子でバスタードソードを持ったのは失敗だった。
色んなズルいワザが使えるししょーのカタナ剣の方なら、こっちもまだ常識を超える様な手が幾らでも使えるのに、一瞬の動きが生死を別けかねないこの状況じゃ、今更持ち替えるのはムリだもんな。
そんな事を考えながら、ワタシは全身に緊張感を漲らせてリーダー野郎の動きを待った。
ところが四半時(約十五分)くらい経っても全く動く気配が無い。
「普通はインベントリの中身って秘匿するものじゃないの?」
流石に重症の身体ではこのままだとジリ貧なので、思い切って先制の声を掛けてみると、ドサッと音がしてリーダー野郎が仰向けに寝ちゃった。
アレ?
良く見たら魔法力が霧散しちゃってるんだけど、それだと事切れたってコトになる。
魔法力がゼロになったら、どんな生き物でも死んじゃうからね。
そりゃリーダー野郎の状態は普通の人間なら即死で間違いない致命傷だし、喋っただけでも奇跡に近いとは思うけれど……。
「ふう」
思わず息を吐いて、ワタシはリーダー野郎の死体(?)に近寄った。
側で見てみれば、もうとっくに魔法力が消えちゃってるソイツは間違いなくお亡くなりになってる。
しかもヤツのインベントリ内容物まで側に置かれててビックリ!
えっと……。
もしかしてさっきのセリフは遺言みたいなモノで、敗者から勝者に遺品を譲るって話だったのかな?
ふうむ。
コイツは元騎士で間違いが無いみたいだから、例え悪に落ちてても最後にそう言う事を言うのは判る気がする。
「ま、イイか」
騎士の作法を思い出せば、こう言う場合は貰ってやるのが礼儀だ。
それにストレージもどきの中では、今までどんな仕掛けだって発動した事は無いから大丈夫だろう。
遺品をストレージもどきにせっせと回収して立ち上がると、今度は吹っ飛ばされた自分の銃の発見に勤しむ。
でも勝ってホッとしたところで判ったことだけれど、重症の身体はやっぱりかなりキツい。
狩り小屋は万が一を想定して治療系魔法陣のデカいヤツで床が埋まってるから、この位の重症でも何とかなると思うものの、そこまで保つかどうかも判らない感じがする。
「まだ結構な距離があるし、それまで意識が保てばイイけどなぁ」
吹っ飛ばされた自分の銃を回収したワタシは、一言呟くと狩り小屋に向かって重症の身体を走り出させた。
この辺りで終わりにさせて頂きます。読んで頂いた方、有難う御座いました。




