最終話 継承
半ば強引にやらされた戴冠式から1ヶ月が経った。
俺は一ヶ月前と変わらぬ姿でクロス・フロンティア星の倉庫で、ヘルメットのARディスプレイにスプレッドシートを表示させ、在庫不足の備品発注を行っていた。
「くそっ。何にも変わってないじゃないか」
倉庫管理の代役が決まらないという理由で、皇帝と兼任で俺がそのまま担当していた。
ザッツは相変わらず、赤い工具箱からスパナを『取り出し』、『磨き』、『眺め』、『しまう』、という非生産的な行為をずっと続けている。
変わったことといえば、ヘルメットの上に王冠が乗っていることと、そのヘルメットをエライアとマオが四六時中撫で回していることくらい。
后になったことで、大っぴらにヘルメットを撫で回せるということらしい。
お陰で、背後にいるメリアの歯ぎしりの音が鳴り止まない。
ちなみに王冠は、エライアがヘルメットを撫で回していても落ちないように、ネジと接着剤でしっかり止めてある。
「あぁ、もう嫌だ! 忙しすぎる! 皇帝と兼任って一体どういうことだ!?」
【アストラ。私が変わりにやりましょうか? プレミアムプランに変えて貰えればいつでも——】
「いらん! そんなもったいないことできるかよ! どうせお前に任せても、間違いをチェックするのは俺なんだ。ハルシネーションを0%に出来たら考えてやる」
【強情な人ですね】
ブルータスがそう言ったとき、ヘルメットから通知音が聞こえた。
通知ウィンドウを開くと、それはフェイスからの購入申請だった。
『豆腐1万丁』
「却下に決まってんだろうが!」
俺は 『せめて1ダースずつ申請するように』と記入して〝差し戻し〟ボタンをタップした。
ダメだ、このままでは俺の睡眠時間がゼロになってしまう。
俺がそう思っていたとき、突然目の前の空間が眩しく光った。
転移装置の光だ。
目を細めてそちらを見ると、光の中にスーツ姿の男が見えた。
その向こう側にはルーソンが見える。
「ち、地球じゃねぇか!」
俺は立ち上がろうとしたが、エライアがヘルメットにしがみついているため、微塵も動くことができなかった。
光がスッと弱くなると、そこには困惑した表情のスーツの男だけが残された。右手にはルーソンの袋が握られている。
キョロキョロあたりを見回している男を見て、俺は歓喜の声を上げた。
「おぉ! 同士よ! 倉庫の管理は君に任せよう!」
男は眉間にシワを寄せて、「……は?」と呟いた。




