第22話 リアリティとコストの現実
ブリーフィングルームに到着した俺達は、丸いテーブルの様なホログラムディスプレイの前に、車座になって座った。
「皆揃っているな。それではブリーフィングを始めよう。ではヘルディナンド、ファシリテーターを頼むぞ」
「は! それでは皆、この星が表示されているディスプレイを見てほしい。我々の現在位置と敵の位置に、それぞれ百分の一スケールの艦隊を表示する」
ヘルディナンドが、手元のボタンをカチリと押す。
ディスプレイには、無駄に凝ったデザインのフォントで、『Loading......』と3Dで表示された。その下の直方体が徐々に伸びていく。
……。
…………。
………………。
30秒程のクッソ長いローディング表示の後、艦隊がようやく表示された。
周りから歓声がもれる。
「おぉ!!」
「な、なんと美しい!」
「まるで本物を見ているようだ!」
ホログラムディスプレイに表示された、その艦隊はまるで、そこを実際に飛んでいるかのような圧倒的なリアリティを有していた。
艦体には俺の顔が、毛穴までくっきりと映り込んでいる。完璧なレイトレーシングだ。
「す、すごい……。なんだこの技術は……」
あまりのリアリティに俺が絶句していると、ヘルディナンドが説明を始めた。
「リアリティにはとことんこだわりました! 敵艦も含め3Dスキャンデータを元に、リバースエンジニアリングで3Dモデルをコンマ1ミリ単位の精度で作成させたので、ポリゴン数は100億を超えています。そして、ディスプレイ周辺にカメラを約500台設置して、周囲の画像を取り込むことで、実際にいる人物を含む周辺環境をリアルタイムで反射しているように見せることに成功しました! レイバウンスも100回に設定しているので、完璧な光のシミュレートです」
「な……んだと!? この無駄なこだわりの技術にどれだけコストをかけているんだ!?」
「え? 一式合わせて大体7000万ヌールくらいですかね?」
ヘルディナンドがさも当然のように、ドヤ顔で答える。当然じゃないんだよ。俺は褒めないぞ。
「おま……っ! その予算の稟議はどうやって通したんだよ!?」
「もちろん、皇帝に直談判しました! 『エライア姫もリアルに表示出来るようになる』とだしに使ったら、二つ返事で一発OKでしたよ?」
くそぉぉ! あんの、くそ親バカがぁ!! 予算を無駄に使うんじゃねえ! だから帝国は、万年赤字なんだよ!
「おい、ヘルディナンド。……やり過ぎだとは思わなかったのか?」
「いやぁ、リアリティを求めた結果ですので……」
ヘルディナンドがドヤ顔のままでそう答えた時、ホログラムディスプレイの艦隊が、カクカクとコマ送りのように動き始めた。
キュイィィィィィィン!!! グゴォォォォ!!!
ディスプレイの下部から、まるでジェットエンジンのような轟音が鳴り響き、熱風を吐き出し始める。
「おい! ヘルディナンド! なんか! ラグいぞ! それと! うるさいし! 熱い!」
「それは仕方ないですね! 処理能力の限界を超えていますから! 冷却しないと!」
ふざけんな! 電気代が勿体ないだろうが! 見た目なんか、ファミコン――8ビットレベルでいいんだ!
せめて水冷にしろよ!
「ポリゴン数を! 6に落とせ! カメラはシャットダウン! レイ計算も無くせ! 今すぐだ!」
「し、しかし! それでは! 直方体になってしまいます! 周りも映りません!」
「構わん! 直方体の各面にテクスチャを貼り付けるだけで十分! 処理速度(電気代の節約)が最優先事項だ!」
「は、はい! 承知しました!」
ヘルディナンドが、無線で3Dモデラーに連絡すると、一分もかからずに変更が反映された。
静かになったブリーフィングルームのホログラムディスプレイ上で艦隊(直方体)がヌルヌル動いている。
「おぉ!」
「なんという滑らかな動き!」
「これなら、リアルタイムで戦略が立てられるぞ!」
「さすが知将のアストラ様だ!」
これがあるべき姿なんだよ……。
「それでは仕切り直して、ブリーフィングを開始するぞ。あ、それと。今後は皇帝への直談判は禁止する。ちゃんと正規の承認ルートで回すんだ。いいな、ヘルディナンド」
「は、はい! 承知しました!」
「ところで、ヘルディナンド。このカメラ等の設備はクーリングオフは出来ないのか?」
「いや、契約上出来ませんね」
俺は、設備の活用法を必死で考えるのであった。




