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「二週間の謹慎、ですか」


 校外学習でのトラブルを経て、主人公の処分が決まった。たゆひつにおける裏ルートフラグの一つ『私が弁償します』を選んでしまった以上、そうなることは分かっていた。

 だが、それを止めたのがイザベラではなく私になったという問題はあるが、大まかな流れは同じである。


「あぁ。幸い、私へのお咎めはないようだ。エリサのお陰だよ」

「いえいえ、悪いのは全部エド先生です。たくさん反省してもらいましょう」


 お父様は「そうするか」と小さく笑って返してくれた。

 ちなみに校外学習の引率をサボったエド先生には一月の減俸と関係各所への謝罪巡りが決まったらしい。結果的に生徒は無事だったとはいえ、暴走した国宝級の杖は粉々に、ついでに生徒が一人死んで生き返るというハプニングまであったのだ。処分がそれだけで済むのは、先生が騎士団長という地位を持っているからなのだろう。

 有事への対策として戦闘員であるエド先生が引率するはずだったのに、実際引率していたのが非戦闘員のお父様というのは、学園の上層部も驚いていたようだ。

 お父様も学生時代に歴史博物館に行くことがあったから引率は出来たが、卒業生でもなければいきなり振られていきなり対応することは出来なかったろう。


「エリサは、あの時よく動けたな」

「……嫌な予感がしてたんですよね、あの子。なんか、危ういというか」

「そうなのか?」


 頷き返す。八方美人な性格は、同性には嫌われやすい。

 お父様がジーナ・バルトについてどれだけ知っているか、どんな想いを向けられているのか私には分からないが、少なくとも主人公がジュリオルートに入っていない以上、二人に大きな接点があるわけでもない。


「でも、本当に助かりました。お父様のお陰です」

「……それを言うならクロードに言ってくれ。彼が薬を取り出さなければ、私はただ横で泣くだけだったからな」

「あら、泣いてくれたんですか?」

「当たり前だろう」


 照れることなく、まっすぐ目を見てそう返すお父様。やだ推せる……。

 こういう時に自分の無力さを恥じることなく話せるのは、きっとそれを誰よりも分かっているからなのだろう。

 ジュリオ・ヴァレンティに魔法の才はない。それでも前を向いていられるのは、魔法無しでも生きる道を見つけることが出来たから。


「お父様、ところで一つ質問なんですが」

「ん? なんだ?」

「どんな味がしました?」

「苦かったな。それに青臭かった」

「どうしてあの薬の味を知ってるんですか?」

「…………」


 照れて顔を真っ赤に染めたお父様が、ぷいと顔を逸らしてきた。うらー! 追撃だー!


「普通に考えて、死んでる人に液体飲ませられるわけないんですよね。あんなスライムみたいな粘度があると特に」

「そうか」

「……でも私は見てないし覚えてもないんで、もう一度試して頂けますか?」

「何のことを言ってるのか分からんが、無理だな」

「そうですか。じゃあ無理矢理――」


 ぐいとお父様に顔を近づけると、手で押さえられた。普通に拒否だ。うぅ辛い。ちょっとディープなキスをしたかっただけですのに。


「でも、クロードとかセブ様じゃなくて良かったです。好感度上げすぎなかった甲斐がありました」

「…………そうか」


 まだ顔を赤くしたままのお父様をからかい続けたい気持ちはあるが、話が進まないのでとっとと本題に入ろう。


「ところで、ジーナさんにはあまり関わらない方が良いかもしれません」

「ジーナ・バルトにか? まぁ、そうだな。元から生徒と教師以上の交流をするつもりはなかったが、エリサがそう言うなら気を付けることにするよ」


 私は、自分の意思でたゆひつを改変してしまっている。イザベラの主人公への執着を消そうとし、お父様をルートから排除しようとしている。


 ――だから、もう認めよう。流れに任せるのはやめるのだ。してしまったことをなかったことには出来ない。自分の執着を、他人に委ねる気にもならない。


「お父様のお相手は、私が責任をもって探し出しますから」

「……いや、いきなり何を言うのかと思えば、私は学生ではないのだから、学園で婚約者を見つける必要などないわけだが」

「公爵家の跡取りたるもの、やはり妻の一人くらい居た方が良いと思いますよ。ほら、ちょうどここに初恋の人に顔がそっくりで未婚の女子が一人――」


 抵抗出来ないようお父様の両手を握って、胸が当たるほど接近し顔を近づける。

 茹蛸のように赤くなったお父様がぷいと顔を逸らしてきたので、好感触と見てもっと近づく。ほらほら、どうですかー、セラフィーナ似の美少女ですよー。

 私はもう我慢しない。私はもう躊躇しない。私はもう、好きなように生きる。


(私がお父様を攻略します! 主人公になんて渡しません!)


 血の繋がりがあろうと関係ない。親が子を、子が親を思う気持ちというのは、共に育つことで育まれるものなのだ。


 私は、お父様の知らないところで生まれ、お父様の知らないところで育った。

 お父様は、私の知らないところで生き、私の知らないところで育った。

 二人の間にある親子関係は偽りのもの。真実と知る者が居なければ、そこにある確かな血の繋がりは、愛情を育むためのスパイスのようなものだ。

 そのくらい障害がある方が、燃えますわね!


 攻略対象、父親です! 娼館生まれの転生者だけど、お父様を全力で落とそうと思いますっ!

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