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姉が好きすぎる令嬢の憂鬱。〜姉の婚約者に口説かれた。どうやら王都の男どもの目は節穴らしい〜  作者: 藍野ナナカ
猿百合令嬢、王都に行く

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(35)お勉強


 いつも通りの食事を終え、私はロイカーおじさんに引きずられるように書物室に連れて行かれた。

 ここで心ゆくまで本を読め、気になることがあったら資料を探してやる、と言うことらしい。

 ……私、文字を読むのはそんなに得意じゃないことくらい、ロイカーおじさんは知っているよね……?


「チビ嬢ちゃん。悪く思うなよ。今日ばかりはしっかり頑張ってもらわないといけないんだ。と言っても、嬢ちゃんが本の分厚さと文字の小ささに死にそうになっているのはわかってる。だから、まずはこっちを読め。領主の一族が子供の頃に読むやつだ」

「なんだ、そう言ういいものがあるんなら最初から……!」


 喜んだ私は、すぐに黙り込んでしまった。ロイカーおじさんが差し出したのは絵本だった。

 どう見ても、絵本だった。

 そっと開いてみても、綺麗な絵に短い文章が添えられた絵本にしか見えない。

 ……対象年齢は一桁かな?


 受け取った私は、がっくりと椅子に背を預けた。

 確かに読みやすそうだけど。

 内容がこの分厚い書物の要約版ということなら、簡単に読み終わると思うとものすごく嬉しい。

 でも、私のレベルはこれなの?

 もうちょっと上の年齢向きの本とかはないの?


「さっきも言ったが、普通は文字が読めるようになったらすぐにこれを読むんだよ。次に学ぶのは王都に出てくる年齢になった頃で、その時にこっちを全て読み通す」

「……そうなの?」

「領主一族なら、そう言うものだ。オクタヴィア様も十五歳くらいで読んでいるはずだぞ?」

「…………私、やっぱり出来損ないなんだなぁって、しみじみ思うよ」


 ため息をつき、分厚い本を少し遠くに押しやった。それから気を取り直して、背筋を伸ばしながら絵本を最初のページを開いた。

 うん、絵がきれい。

 かなり有名な画家の作品を版画化したものかもしれない。


 最初の絵は魔獣っぽく見えた。アズトール家の紋章の入った服を着た男の人も武装して登場した。アズトール家の創成期の話のようだ。

 俄然、興味が湧いてきた。

 ペラリ、ペラリとページを進める。

 どうやら、アズトール家は昔から魔獣討伐の中心になっていたらしい。それで力をつけて、王家からも信頼されて、現在のアズトール領を治めるように……。

 ……あれ?


「ロイカーおじさん。これは何? 盗賊退治もやってたということなの?」

 私が顔を上げてながら指差すと、ロイカーおじさんはまぶしい金髪を乱暴にかき乱した。

「……やっぱり嬢ちゃんの年齢なら、絶対に気付くよな。気付かないままだったら、そのままにしておけと言われていたんだが」

「へ? どう言うこと?」

「つまり、それが『アズトール伯爵家の秘密』なんだよ」


 ロイカーおじさんの言葉は、なんとなく歯切れが悪い。

 気付かなければそのままにしておくつもりだった、と言うのもよくわからない。領主一族なら必ず見るはずの絵本なのに、何を……何ってつまり……そう言うことなの?

 私は慌てて絵に目を戻した。


 美しい絵は、武装したアズトールの人間たちが戦っている場面を再現していた。剣が白く輝き、発動した魔力が天を焦がし、大地は大きく抉れ、赤く燃えている。当時から魔剣や魔導師が活躍していたのだろう。

 でも、おかしいのだ。

 この場面に描かれている「敵」は魔獣だけではなかった。嫣然と微笑む人間もいる。体全体から炎を生じさせているような恐ろしい姿だけど、人間だ。

 でも、目の描き方が異常だった。


「……銀色の目をしていると言うことは、これは人間ではないってこと? いや、でも、味方の中にも同じ色の目をしている人がいるから、魔導師の比喩的な表現なのかな?」

「チビ嬢ちゃんはどっちだと思う?」

「普通に考えると魔導師を表現しているだけと思う。でも……そうではないってこと?」

「悪いな。俺に許されているのは、その絵本を見せてやるまでだ。続きはオクタヴィア様か伯爵様に聞いてくれ」


 ロイカーおじさんは真剣な顔でそう言った。

 でもすぐに笑顔に戻り、私の頭にぽんぽんと手を置いた。


「しかし、よく気づいたな。なかなかそこまで気付けない方々は多いんだ」

「うん、だって……」


 ごく最近、銀色の目をした存在に会っているから。

 そう言いかけて、私は慌てて口を閉じた。お兄さんは全く隠そうとはしていなかったけど、どこまでが秘密なのかがわからないから。

 でも微妙に誤解したようで、ロイカーおじさんは苦笑いを浮かべた。


「まあ、嬢ちゃんは昔から魔獣と一緒に遊びまわっていたからなぁ」

「あ、うん。それは否定しない」


 領地の魔獣は、比較的友好的な個体が多かった。

 でもそれを言うなら、お兄さんの周りにいた猫もどきとか、犬もどきも友好的な部類に入る。特に猫もどきは素晴らしかった。黒い犬の方は……どうも魔物らしいし、あちらとはあまりお近付きになりたくないかな……。


 そんなことを考えながら、本来読むはずだった分厚い書物をそっと開いてみた。

 ぎっしりと詰まった文字に、軽くめまいがする。でも、たまに描かれている絵は、絵本のものより緻密でとてもリアルだ。

 うーん。

 こちらはこちらで、頑張って読めば面白いかもしれない。いや、絶対に面白そうだ。パラパラと見た感じでは、魔獣の種類について書かれている章もある。

 リグの実っぽい絵もあるから、異界由来の植物なんかもまとめてあるのかもしれない。


 ここまできたら、私の興味のど真ん中だ。

 少し前向きなやる気を育てていると、窓の外から音が聞こえてきた。


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