僕の、お部屋は?
内容的に、かなり臭います(汗) ご了承下さい。
『あ~あ、またやられたよ。これで、三回目』
かあちゃんが困った顔で僕を見る。手には僕が飲み干した哺乳瓶。その乳首を僕が噛み千切ったのは、これで三回目になる。
「だって仕方がないじゃないか、ミルクが足りないんだよ~。お腹がすくんだよ~」
僕も困った顔で見つめ返す。文句を言っても、人間には「ニャ~」としか聞こえないんだから困ったものだ。
『やっぱり離乳食の方がいいのかな? しっかり歩けてるし』
『マロンのお姉ちゃんのミディちゃんは、猫缶を食べてるって言ってたわよ~』
向こうの台所から、おばあちゃんがそう言った。
ミディちゃん? 僕のお姉ちゃん、ミディって名前になったんだ。……猫缶って何?
『猫缶? パウチのじゃなくて? マロンもひょっとして猫缶もらってたのかな? …………ちょっと、買ってくるわ~』
なになに? 何か美味しいものくれるの? 僕は期待に満ちた眼差しでかあちゃんを見つめたのに、僕を段ボールの部屋に戻してどこかへ行っちゃったよ。僕はがっかりして、呼び続けていたんだ。
「お腹がすいたよ~。ねぇ、お腹すいたよ~、かあちゃ~ん、おばあちゃ~ん」
なんだかいい匂いがしてきて、お腹がグゥ~と鳴る。
『ちょっとずつだよ。食べ過ぎるとお腹壊しちゃうよ~』
かあちゃんが美味しそうな匂いのする皿を持って、僕を抱き上げた。匂いの皿が近付いて、僕は鼻を伸ばす。これ、食べたい!
かあちゃんが僕をミルクの入った皿の前に置いた。哺乳瓶で飲ませるのを諦めたみたいだ。僕は水を飲むみたいにミルクを飲む。
これもいいけど、さっきの美味しそうなの、くれないのかなぁ。チラッとかあちゃんを見る。
『はい、次はこれだよ~』
ミルクの皿と交換して、僕の前には美味しそうな匂いの皿が置かれた。僕は迷わず舌で舐めてみる。舌に何かがくっついてきて、そのまま飲み込む。
なにこれ、美味しい~! 僕は夢中でそれを口いっぱいにして食べた。お皿を隅々まで舐める。
『よっぽど美味しかったのねぇ』
おばあちゃんが微笑んで僕を見ている。
『ちっちゃいお腹がポンポンだよ。少しづつミルクを減らして、離乳完了だね』
かあちゃんが嬉しそうに頷く。僕はお腹いっぱいで眠くなった。もう、ミルクじゃなくて、これだけでいいよ~。そう思いながら、段ボールの僕の部屋で眠った。
この前お姉ちゃんがこの部屋に出入り口を作ってくれたんだ。部屋の外に出たくて何度もジャンプして部屋中をぐちゃぐちゃにしたから、お姉ちゃんが見かねて作ってくれたんだよ。自由に出入り出来るようになって、僕はこの部屋が大好きになったんだ。
何日も経たないうちに、僕はあまりミルクを飲まなくなった。そうすると買ったミルクが余ってくる。
『昨日開けたミルクが残ってるんだけど、変な臭いはしてないから少しだけあげて廃棄しよう。その分、固形のを増やして良いよね』
『冷蔵庫に入っていたから、大丈夫よ。そろそろミルクも卒業ね』
『あまり飲まないし、これで最後かな』
美味しい離乳食の量が増えて、僕は大喜びして全部平らげて、ミルクも飲んだ。お腹いっぱいになって眠った後、急にお腹が痛くなる。
い……、痛い! お腹が痛いよ~。
僕は段ボールの部屋のトイレで、水みたいなうんちをした。その中で、お腹が痛くて動けなくなる。凄い臭いがして、おばあちゃんが見に来る。
『あらあら、下痢してるわ』
慌てて掃除してくれたけど、あちこちうんちが飛び散って、段ボールの部屋は使えなくなった。僕の身体も拭いてくれた。
『この段ボール、もう駄目だね。新しいの探さなきゃ』
僕は悲しくて「止めてよ~」と言いたかったけど、お腹が痛くて声を出せずにいたんだ。出かけていたかあちゃんが帰ってきて、僕の様子を見ておろおろし始める。
『ミルクがいけなかったのかなぁ? それとも離乳食の量が多すぎたのかなぁ? 今日、動物病院休みなんだよね。……とりあえず水』
『お湯の方が良いんじゃない? お腹冷やさない方がいいよ』
『そうだね』
ぬるま湯を出されたけど、僕は動けなくて飲まなかった。夕ご飯も少し出してくれたけど、僕は食べない。かあちゃんとおばあちゃんとお姉ちゃんは心配して何度も僕の様子を見に来る。その度にお湯を取り換えてくれたんだ。
朝になって、僕は少し動けるようになった。出されたお湯が気になり、手を入れてみて温度を確かめてみる。お水って冷たくて苦手なんだけど、これは大丈夫そう。少し飲んでみた。美味しい。
僕はお湯が大好きになったよ。かあちゃんもおばあちゃんも、僕が死んじゃうんじゃないかって本当に心配したみたいだ。
いくら小さいからって、簡単に死んだりしないよ。
ちょうど同じ頃に、僕の本当のお姉ちゃんもお腹を壊したって、後からおばあちゃんが聞いてきた。離乳の頃はそんな事が起こりやすいのかもしれない。
僕は元気になって、家の中をうろうろしてみた。新しい段ボールの部屋が用意されたけど、なんとなく居心地が悪い。部屋にいるより、かあちゃん達の側にいる方が安心出来る事に気が付いた。皆がいる広い部屋で、皆の側にいる方が僕は好きになってきたんだ。
二〇一二年六月十四日撮影 大好きなおばあちゃんの横で