日本の夜明けぜよ
大政奉還? ははは、笑わせないでもらいたい。
そのレベルに幕府は見る見る力を取り戻していった。
「まだ幕府も戦える。おいどんたちに倒幕は無理ってことでごわすな」
「せめて鎖国は止めるべきぜよ。日本の夜明けぜよ」
まず吉宗は話を聞こうとした。
穏便にどうしても済みそうになく、戦いもやむなしというときにのみ刀を抜き、圧倒的な力の差を見せつけ、改めて話を聞いた。
そして諸地域で、意見を集めていった。
「日本の夜明けだそうですけど、いかがなさいます?」
波がざっぱーんとする崖に立つ、土佐のぜよを眺めながら、舞姫は可愛らしく首を傾げた。
「参勤交代と鎖国、これらが今となっては、必要のないものなのだろう。遥か昔には、まだ従わない大名も多かったことだろうから、キリシタンも数多くいたことだろうから、必要だったのかもしれない。しかし法というのは、時代に合わせて変えていかなければ、どんな良法も悪法となってしまうのだ」
悪人を捻じ伏せて全国を旅する、黄門様的なことを終えた将軍様吉宗は、辿り着いた果ての土佐で呟いた。
真面目にいっていたと思えば、突然に吉宗らしいところがきてしまう。
失礼かつ阿保な発言が続いてしまうのだから、本当に残念な男である。
「そもそも土佐なんて、既に外国みたいなものじゃん。こんなもんだよ、外国だって。怖くないだろ」
声など聞こえるはずもないのに、地獄耳で届いてしまったのだろうか。
吉宗の衝撃発言に、ぜよっと高知国の大王様も振り向いてしまった。
まだざっぱーんをしている途中だったのに関わらず、だ。
「鎖国なら、四国とも貿易しちゃ駄目だろ。なんか、北海道よりも四国の方が、海の向こうだなーって気がするし。四国って外国だと思う」
島根がLOVEならば、四国も近いものだと思うけれど。
とにかく吉宗の発言の数々は、どれも怒りを買う、と思ったが土佐の人は優しいぜよ。笑って流してくれたようだった。
ちなみに作者は長曾我部×毛利の親就が好きなので、その辺りの地方は好きである。
意見が対立したり、ときに喧嘩をしたりして、笑い合って泣き合って、なんだかんだあって、吉宗は倒幕派のみなさんとずっ友になれたらしい。
江戸の方でも順調なようで、慶喜が良い腹黒っぷり……じゃなくて、良い人っぷりを魅せていた。
将軍様慶喜が一肌脱いだ(文字通り)みたいな状態で人々を魅せていた。
九州とか、中国・四国だとか、そちら方面へと向かった吉宗&舞姫。江戸に戻った慶喜。
双方ともそれなりに成功を収めたということで、三人は京都で集合することとなった。実に四カ月ぶりのことである。
本来ならば、そろそろ新撰組がヤバいかなって頃であるが、京都は余裕で安全である。
「お久しぶりです。そして、ありがとうございました、お疲れ様でした。本当に勝利なさったのですね。まさか頭のおかしさと同じくらい強い、というのが真実だとは、とても思いませんでしたよ……」
会って早々、褒めているのか貶しているのかな発言であった。
慶喜は満面の笑みを浮かべているので、きっと褒めているのだと思う。
「お久しぶりです。ね、お強い方だと申したでしょう? それにしても驚きました。将軍様というのは、どうしても脱ぎたい生き物なのですか?」
同じく笑顔の舞姫は、間違えなく貶している。
この人の将軍へ対する忠誠心や、憧れの心というのは他のだれよりも大きなものであり、最初から少しも変わっていない。
だというのに、結構なことをいうものだ。
「久しぶりだな。二人とも、俺の強さに惚れてくれたのか。そんなに褒めるな、照れるだろ」
そして吉宗はたぶん、馬鹿なだけだろう。
本人が褒められたのだと思ったようだから、それで終わるのが最も平和的かな。
とにかく急いで片付けるべき議題はなんとかなったが、まだやるべきことはいくらでも残っている。
だからこそ、今は京都に集まらなければならなかったのだ。
「外国との関わり方、これが何よりも大切になることだろうな」
席に着いて、最初に議題を掲示したのは吉宗であった。
これが舞姫の尻を揉みながらでなければ、どんなに良かったことか。
「少なくとも、藩に勝手なことはさせられません。しかし幕府を通して、ということでしたら、許しても良いのでしょうか」
意見をするのは慶喜である。
これが家来たちに胸を揉まれながらでなければ、どんなに良かったことか。なぜこの数カ月で、こうなってしまったのか、こうした道しか選べなかったのか。
将軍なんてそんなもんらしいので、次には舞姫が口を開く。
「明日の朝もう一度、会議はやり直すとしませんか? 夜は獣だらけのようですから」
尻を揉まれながらだったのだから、仕方がないだろう。
こうして会議は終わった。
だって夜だよ。それに、京都に戻って来て、初の夜。敵地にも近い場所にいたときとは違う、安全が用意された二人きりの夜。
楽しみたいじゃないの。ねぇ?




