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君の声  作者: ひなた
6.未来にて
17/21

阿保と島根と全国ツアー

 しょぼんとしながらも、吉宗は二条城へ向かった。

 舞姫に巻き込むなといわれてしまったので、とりあえず舞姫には京都まで来てもらうだけで、実際に二条城へは慶喜と二人で登る。

 その間、どうやら舞姫は京都を観光しているらしい。

 江戸生まれ江戸育ち、京都なんて修学旅行以来だった。

 ちなみにその際、彼は木刀を買ってきていない。そのタイプではなかった。

 けれど修学旅行は全力満喫系男子だ。

 彼の京都観光録は一旦置いといて、今はまず将軍ズサイドだ。

「大政奉還をするべきだという意見もあるようだけれど、俺はそれをすべきでないと考える。徳川家第八代将軍、徳川吉宗が、だれもが幸せになれる江戸を作る。我が江戸幕府のもとに! だから、まだ終われない」

 高らかに吉宗は宣言した。

 第八代将軍だとかいわれても、頭がおかしくなったとしか思えないことだろう。普通ならそうだ。

 しかし将軍然としているというか、将軍オーラを纏っているというか。

 とにかく、その場にいた人にはわかった。

 この人は徳川吉宗だ。幕府の危機に駆けつけてくれたんだ、と。

「わたしだけでは今の状況を乗り越えられません。ですから、もう一人いればと、過去の将軍様をお呼びしました。幕府を信じて下さい。異国から、日ノ本を守ってみせますからっ」

 本当は吉宗の適当な操作がここへと導いただけだ。

 だが慶喜が呼んだということにすれば、それだけで、慶喜が優秀なのだということを思ってもらえる。

 そちらの方が都合が良いし、偶然ではなく意図的に、そうできる技術があると思われたなら、まだ捨てたものじゃないと思ってもらえることにもなろう。

 異国にだってきっと、過去の人物を呼びだす技術はない。

「長州や薩摩の方では、武装勢力が生まれているのでしょう? それと、土佐の方でもでしょうか。この京へも入ってきて、事件を起こしていると聞きました」

 大政奉還しない宣言をして、その場はすぐに解散させる。

 そうしてその後は早速、いろいろな問題の対策会議を始めたのであった。

「禁止するばかりでなく、その力を異国へと向けさせれば良いのではないでしょうか。造船や築城ですが、それらの規制も緩和し、無断でなければ許可するようにしましょう」

 各藩の力を抑えるために、今まで行ってきたことを、その場合ではないと柔軟に考え、消していこうとする。

 今は各藩の力が必要なのだから、抑えてしまっては仕方がない。

 冷静に現実的な対応をする慶喜を、隣で見つつ吉宗は不敵な笑みを浮かべていた。

 この男は何を企んでいるのか。

 舞姫不在のために、吉宗を止めるものはおらず、突如として立ち上がった彼に、みんなは驚いてそちらを見ることしかできなかった。

 そして吉宗は叫んだ。

「俺、全国ツアーする!」

 はい、お疲れ様な意味不明っぷり。

「札幌、仙台、さいたま、東京、名古屋、大阪、島根、福岡の、全国八か所ツアーしてくる。なんなら、富山辺りを入れても良い」

 何をいっているのか、だれにも理解はできなかった。

 まず地名からしてどこだよそれ、みたいな状態である。

 江戸じゃなくて東京になっている時点で、それはもはや、幕府は終わっているじゃないかという話だ。

 そこに降臨したのは天使だった。

「まだ開拓使も置いていませんのに、札幌とは何を仰っているんです? 他は地名を間違っているくらいだから、ともかくとして、合っていたとしても島根は謎ですし。人口ランキング四十七位の鳥取の方が、なんでやねん程度にいけますが、なぜか四十六位の方ですからもっと意味がわかりません」

 京都を満喫はしたが、やはり心配で、戻ってきてしまったのだ。

 扉をバンと開けてかっこ良く登場すると、華麗なツッコミ術を披露する。

「はぁっ? 島根なめんなし! 島根すごいんだからなっ! なんで人が住まないんだかわかんないくらいだし?」

 舞姫の登場に感動するほど喜びながらも、彼のツッコミが気に入らなかったのか、全力で反発する。

 一体、彼は島根のなんだというのだろう。

 そう思ったなら、すぐにその理由はわかった。

「島根といえば、あの舞姫をお書きになった、森鴎外先生がお生まれになった地ではないか。そこを全国ツアーの地として入れないだなんて、森先生に失礼にもほどがあろう!」

 まだ書かれる前の作品。どころか、まだ生まれる前の人の話をしている吉宗だから、他二人には伝わるわけがない。

 現代の人はだれでも知っているかもしれないが、当時の人は、森鴎外だれやんである。

 だってまだいないんだもん。

「あの舞姫って……?」

「俺から見て、最も美しいと思う存在が、舞姫、つまりお前だ。それを題材に本を書いてくれたんだから、素晴らしい先生に決まっているだろ」

「私を題材にした本などあるのですか?」

「んだよ、当たり前だろ。だって可愛いんだからっ!」

 残念ながら彼を題材にした本ではないのだけれど……。

 吉宗が本気のトーンで口説きだしたから、すっかり舞姫は納得しちゃったようだし、少し照れたように見つめてくる吉宗から目を逸らしている。

 何をいったのかと、慶喜は困ってしまっていた。

「結局、どうすることになったのです?」

 甘々な二人に居心地の悪さを感じながらも、話の進まない二人のペースに付き合ってもいられないから、仕方がなく話の軌道修正をする。

 吉宗の時代には、江戸のみんなも二人のワールドに付き合ってくれた。

 けれど別の時代に生きる人たちは、それに付き合ってはいられない。不可能。

 将軍様が真面目な常識人なのだから、周りだってその通り。それにワールドにも慣れてないんだから、無理無理。

 それに吉宗が気付かないところも無理無理。

「俺が島根で全国ツアーをする」

「しません!」

 騒がしい吉宗を黙らせて、改めて慶喜と舞姫で会議を始めることにする。

 落ち着いてしっかりと会議をするために、二人きりの部屋に行ってから。

「ロールキャベツ系男子めっ! やめろーっ!! 大人しそうな顔をして、俺の舞姫を奪うんじゃねーよ、ピ━━自主規制━━━ッ!」

 鍵を閉められて、部屋にも入れてもらえなくて、だから大声で放送禁止用語を叫んだ。

 そうしたら、ツッコミの神が無視しきれないだろうと考えたからだ。

 聞こえない、ということが絶対にないような、馬鹿みたいに大きな声である。

 むしろ馬鹿である。本気で馬鹿である。

「なんか、ごめんなさいね。あれは気にしなくて大丈夫ですよ。放っておきましょう? ね?」

「本当に大丈夫なのでしょうか? あの人、本当に将軍なのですよね?」

「ええ、問題ありません。将軍のときはちゃんと将軍していますから。それ以外のときは、ただの変態だと思っておいてくれて構いませんよ。それが吉宗様です」

「はぁ、そういうものですか。失礼でしょうが、わたしはああはなりたくありませんね」

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