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君の声  作者: ひなた
4.改革への決意
12/21

良い政治

 江戸の治安の悪さに、吉宗は頭を悩ませていた。

 一揆も打ちこわしも、不満があって、苦しんでいるからこそ起こるのだ。

 だれも苦しまなくて済むような、平和で素晴らしい世の中を、作ることはできないのだろうか?

 民のために頭を悩ませる吉宗は、まるで名君のようだったw

「もっと規律を厳しくしようと思うんだけど、どうだろうか?」

 平和的な解決ができないのなら、いっそのこと、全てを罪と縛りつけてしまえば良い。

 失われた自由の中で、抗うこともできないように、苦しみさえも感じなくなれるくらいに。

 自由を与えようとするから、欲が膨らむのであった。

 逆説的で諦めの籠る吉宗の意見を、舞姫は笑顔で否定する。

「乱れた政治を正すのは良いことだと思います。けれど『白河の清きに魚も住みかねて もとの濁りの田沼恋しき』なんて狂歌を詠まれても知りませんよ?」

 笑顔のままで舞姫は続ける。

「吉宗様は大人しく享保の改革を行って下さいませ。寛政の改革ならば、お孫さんに任せておけば良いのですよ」

 彼らからしたら、少し未来に詠まれる狂歌をなぜだか知っている舞姫は、吉宗を驚かせる。

 徳川吉宗は田沼意次より前なのだから、田沼恋しきとかいわれても、完全になんのこっちゃ状態だ。

 それは孫がやるべき政策だなんて、自分では子が産めないと、少し前に泣いていた人がいうことだとは思えない。

「お、おう、わかった。それじゃあ、株仲間の解散でもしようかな。もっと経済の自由化を進めた方が良いと思うんだよな」

 規律を厳しくしようという意見は、舞姫に却下されたので、次に別の意見を挙げてみる。

 未来予知的な舞姫の発言を、おうわかったで流してしまい、すぐに次へ行けるのだからさすがだ。

 きっとそれこそが、将軍としての器なのだろう。

「それとやっぱり大事なのは、治安を良くすること。江戸とか大阪とかは、幕府で治めようかな。上知令、なんてどうだ?」

 舞姫が首を傾げていたので、もう一押しだと、吉宗は提案を追加する。

 二つ挙げられてしまっては、舞姫も聞き流すわけにもいかなかったらしい。

「残念ながら天保の改革ですね。それは吉宗様が行うべきものではなく、水野忠邦あたりがやっておけば良いことです」

 あたりがというわりに、名指しでいってしまっているところが舞姫なのだろう。

 またも理不尽に否定されたので、吉宗は他に何かないかと頭を抱える。

 彼が反対している理由が吉宗にとって理解のできないことなのに、素直に反対を呑み込んで、新しい意見を出す吉宗は本当にさすがなものである。

「しょ、生類憐みの令はっ?」

 悩みに悩み抜いた末の答えが、それであった。

「それは徳川綱吉様が行われたものでしょう、何を仰いますか。吉宗様が生まれた頃から執行されておりますし、それに、徳川綱吉様にお目見えしたことがあるのだと、ご自慢なさっていたではございませんか。江戸時代の三大改革だけでなく、そこまでを混ぜて、混乱させるおつもりでいらっしゃるのですか?」

 冷たくいう舞姫は、またも吉宗の意見を受け入れられないようである。

 その上、吉宗だけでなく、綱吉にまで失礼な言葉を付け足すのだからひどいものである。

「ただでさえ、だれかさんのせいで幕府の状況が悪化しているのに、評判も効率も悪い、良いところなど少しもない政策を足していかがなさるおつもりなのですか?」

 舞姫が将軍を神と崇める気持ちは、どこの民よりも大きかった。

 距離が近くなってしまい、人間味を帯び過ぎている姿を見続けていたので、吉宗に対しての崇拝は薄れているようだが、他の将軍様に対してはそのままのはずだった。

 そのはずだったのだ。

 良いところなど少しもない政策などと、事実過ぎてつらたんな発言を、綱吉の政策に向かってするとは思わなかった。まずそこに吉宗は驚愕する。

 自分のせいで、舞姫にとっての将軍の位置が下がっているんじゃないか。そう心配したくらいである。

 間違えなく、吉宗のせいで下がっているわけだが。

「三大改革以外もお入れになるのでしたら、もっとたくさんあるんじゃないですか? 田沼恋しきでお馴染みの、田沼意次とかいかがでしょう? 白河サイドよりは吉宗様らしいと思いますよ」

 あまりに今更で、お前はいつの時代の人間だと、ツッコむ気にもなれないような発言だった。

 夜は突っ込まれる側だが、普段はツッコむ側の舞姫らしくない。

「お馴染んでないからわかんないんだよなぁ。逆に、何をしたら、俺オリジナルになるの?」

「ネタ切れで、まだ全く触れていない吉宗様の政策が思い付かないから、他の人にまで手を出したのでしょう? 江戸時代に収まっているだけましですが、更に触れ尽くしたら、次はどこへ行くかわかったものじゃありませんからね」

 にっこりと笑う舞姫の目が笑っていないのは、作者が危機感を覚えているからだろう。

 本当は江戸時代が得意じゃない、作者の底が見え始めてしまっているからなのだろう。

「吉宗様、難しい話をするよりも、甘々をしている方が、作者のためというものです。良い政策を行って、民を含めただれもが贅沢できるようになったという設定にして、話を進めるとしましょう」

 どのように話を前に進めたら良いものか。

 もはや完全に見失ってしまっていた、そんな作者の代弁を舞姫は行ってくれる。

「次回からはもう、全員が贅沢をできる平和な江戸を、素敵なこの国を、二人で観光するというものに変えましょう。そして、次回予告も終えましたので、早々にこの話を切り上げるとしましょうか」

 やはり意味もなく、ツッコミがボケに回ったりすることはない。

 作者の抱えていた問題を解決するために、舞姫は戦ってくれたのであった。本当に舞姫ちゃん可愛すぎる、本気で天使だからまじ辛い。

 そして彼が次回予告で口にしたとおり、次回では国が平和になっているのである。

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