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君の声  作者: ひなた
4.改革への決意
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執るべき政策

 神に宣戦布告した吉宗ではあるが、何かをしようとはするものの、彼の中に具体例は一つも上がっていなかった。

 アイディアマンな彼らしくもないことである。

「なあ舞姫、どうしたら、問題が全て解決されるんだろうな」

 隣にいる舞姫に、吉宗はそう訊ねた。

 意見を求めるどころか、自分は考える気があるのか、と思うほどのざっくりとした質問であった。

「全てを解決だなんて、欲張るからいけないのです。一つずつ、解決していくことになさいませんか? 私は吉宗様に従いますから、最善の選択肢だと判断されたことを、お好きなようになさって下さいませ。それでどのような結末を迎えたとしても、私は吉宗様が選んだ道ならば、……っ」

 舞姫があまりに優しくいうものだから、照れてか嬉しくてか、最後まで言葉を聞くことなく、吉宗は唇を重ねていた。押し付けるように、強引な口付けだった。

 困ったように微笑んで、舞姫は吉宗の唇を離し、抱き締められた腕の中から逃れる。

 出会った頃のような、拒絶とは違う。

 けれども彼は、吉宗の唇を拒み、その抱擁をも拒んだのであった。

「ごめん、つい……」

「構いませんよ。これくらいは、もう慣れたものです。だからそんな顔をなさらないで? 笑顔でいて下さいませんか? それが今の私の欲するものです」

 受け入れてもらえなかった口付けに、吉宗はひどく悲しそうな顔をした。

 心の相当のショックを受けたらしく、思わず謝ってしまったくらいだ。

 そんな吉宗の姿を見て、舞姫も悲しかった。悲しくて、ズルいとは思いながらも、吉宗の笑顔を求めた。

「それってもしかしてなんだけど、キスじゃ足りないってこと? キスされたら、我慢できなくなる。あぁ、こんな時間から、情事に耽るわけにはいかないのにっ、ってことなんだよな?」

 衝撃の解釈だった。

 驚き呆れながらも、彼が本気でそう思っているようなので、舞姫はきちんと訂正をしてやる。

「そうではありません。どうして私がそのようなことを思わなくてはならないのですか? 吉宗様ではあるまいに」

 二人らしい会話をして、いつもの雰囲気を取り戻して、無茶でも何でもやってやろうと立ち上がる。

 どこかららしくなかったかって、悩んでいるところから、もう既にらしくなくなっていたのだ。そのことに気が付いたからには、もう悩んではいられない。

 レッツゴーである。

「では行きましょうか。実際に街に住んでいる人が、街のことは一番よく知っているのです。そして民の意見を取り入れる、目安箱こそ吉宗様の特徴です。ですから、街へ行くしか選択肢はありませんでしょう」

 笑顔で舞姫はそういってやる。

「お前はそれを危険だっていいに、俺の腕の中へ入ってきたくせして、よくそんなことをいうもんだな」

 珍しく、舞姫→吉宗ではなくて、吉宗→舞姫の嫌味である。

 それを舞姫は華麗なまでに無視をして、吉宗に微笑み掛ける。

 微笑みを向ければ、吉宗が見惚れて黙ることを知っている、そんな舞姫の戦法であった。

 阿保の吉宗は、もちろん引っ掛かり、黙ってしまうのだから仕方がない。

「けれど何を訪ねられるおつもりなのですか? どうしたらこの街がより良いものになるか、なんて、そういったものでは何もできやしないでしょう? 質問だって、具体的なものを用意しておかなければなりません」

 その発想はなかったとでもいうような意外顔の吉宗に、舞姫はやれやれと溜め息を吐く。

「だけどさ、あんまり具体的にいっちゃった方が、答えづらくなるような感じもするじゃん」

「吉宗様が考えるのを面倒がっているだけでしょう?」

 舞姫の指摘は、的確すぎた。そうではなくて、吉宗がわかりやすすぎた、という考え方もできるが。

 とにかくいろいろあって、二人はいつもの見回りへ出掛けることにした。

 それが一番、という意見でまとまったのである。それこそ、考えることを放棄している気がしないでもない。

 ただ、舞姫からいわなければ、吉宗は気が付かないのだから、永遠に気付かれないだろう。

「まず吉宗様は、どのようにしたいとお考えなのですか?」

 第一村人発見までの間に確認しておこうと、舞姫は吉宗にそういう。

 対して吉宗は、それさえ考えていなかったというふうで、首を傾げてみせたのだ。

「最も優先すべき重要な課題、それをなんとお考えでしょうか?」

 いい直されて、いい逃れられないと知って、吉宗はやっと考え始めた。

 そしてぽつりと呟いた。

「お前が俺の笑顔を望んでくれたように、俺もだれもが笑顔になってくれることを望みたい。ただ、それが無理だとしたなら、せめてお前が笑って暮らせる場所を作りたいな」

 そういうことを聞いているんじゃなくて、もっと真面目な話をしているんだ。

 舞姫は注意しようとしたけれど、吉宗が真面目にいっているものだから、注意などできなかった。代わりに、喜びで満たされていく。

 口許に浮かべそうになる笑みを、なんとか抑えて、少し不機嫌な表情を作る。

「……馬鹿」

 なんて。

 照れ隠しに、そんなことを呟いてみせて。

 なんだよこのバカップルは、いちゃつき見せ付けやがって、状態で街の中を歩いていたのでした。ちなみに、この甘々カップルに、進んで声を掛けられる人なんていませんでした。

 普段ならば、将軍様を見掛けたなら、多くの人が声を掛けたりするのに。

 そして目的を忘れているんじゃないか? そう思うんだが、二人は二人の世界に入っている。

 意味のない巡回は、いちゃらぶを見せ付けるだけに終わったという話です。

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