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第69戦 VSアポタムキン



 十月一日。天気は晴れ。

 フィーラ村は朝から、お祭りが行われていた。

 花火が打ち上げられ、ボール回しのジャグリングや手品、大人達が思い思いの芸を披露したりしている。

 また子供相手の的当てや、目隠しでのブロック積などのお遊びなども行っており、商品としてのお菓子が配られている。

 この日の為に作られた、八人がかりで動かす巨大な人形が子供達を追い回している。

 最近は外も物騒という事もあり観光客などは少ないが、それでもいないわけではない。

 決して派手ではないが、何もない村の日常の中で羽目を外せる日。

 一年にこの日だけは現実を忘れ、村人達は騒いで浮かれるのであった。



 そんな村の素朴な祭りの中、一人の赤い服の少女が村の祭りを見て回る。

 手には飴菓子やお面、紐の付いた小さな木彫りの人形や笛を手にして、棒の刺さった林檎を頬張りながら人々の中を歩いていた。

「的当ても、福笑いも、輪投げも、積み木乗せも、蟹掬いも完全クリアしました。この程度の子供だまし、私を苦戦させる事も出来ませんね」

 祭りのゲームをクリアしていき、手に入れた戦利品の数々を見せびらかす様にプレゼンは身に着けていた。

 赤い少女は顔はすましていたが、内心は祭りという物にはしゃいでいたのであった。


 次の祭りの出し物を探して、プレゼンが人々の間を歩いていると突然、後ろから声をかけられる。

「おい、プレゼン!」

「……ん? この失礼な、呼びかけは」

 赤い少女が面倒くさげに後ろを振り向いた。

 そこには、プレゼンと同じぐらいの背丈の三人の少年が立っていた。

 先頭に立つリーダーの少年が睨むように少女を見る。プレゼンはその視線に対し、呆れた様なため息を吐いた。



 彼らはこの村の子供達である。

 この村の人間は三十歳以上は女神だった頃のラフターを見ており、多少は畏敬を感じていた。

 また二十代の人間も半信半疑とはいえ、年上のものにその畏怖を伝えられており、触らぬ神に祟りなしとラフター達に極力関わり合いにならない様にしていた。

 バーバリアンのバイオンの存在も関係を持ちたくない理由の一つだった。

 ただドワーフ等が買い物に来る時は、拒絶するとそれらの恐怖を味わう可能性もあると、多少は対応するのである。


 しかし子供達は違う。

 例え親に、そこに恐怖があると言われても好奇心が勝る。

 四か月前に突然現れた、離れの家々が気になって仕方がないのである。


 だが子供達は介入できなかった。なぜならラフターが結界を張っているからである。

 見えない壁に囲まれたその場所は、ラフターの許可無しに入る事は出来ない。

 子供達はその壁に対して、蹴ったり木の棒で殴ったり石を投げつけたりしたが、何の反応も無く、諦めるしかなかった。



 だがそんな場所からも時折、村に来る者達がいた。

 そのうち二人はドワーフの兄弟。しかし子供達は老人には興味が持てなかった。

 それより、もう一人の少女。赤い帽子に赤いローブ、そして赤い髪と赤い目の女の子の方が気になったのである。


 少年達は村に買い物に来たりするプレゼンに対して、最初は遠巻きに見た。

 何度か見た後、やはり興味の方が強く出て、少年達はプレゼンに話しかけたのだった。


 離れの家は何なのか、少女自体への興味と共に、何度も質問してくる少年達。

 最初は面倒ながらも、名前を名乗ったり応対したプレゼン。

 だが彼女にとって村の子供達との折衝は面倒なだけのものであった。

 彼女には子供と遊ぶよりも、一刻も早く魔法使いとして一流になる事の方が大事だったのだ。


 無視する少女に、プライドを傷つけられた少年達はやがて彼女に次々とちょっかいを出す。

 話しかける、悪口を言う、箒に触れる、服を引っ張る、髪を引っ張る、買い物品を覗くなど。

 そんな子供達の行為にキレたプレゼンは、大きな炎を目の前で生み出して「近づくな」と脅した。

 泣く者、逃げ出す者、腰の抜ける者、離れる子供達を鼻であしらいつつプレゼンは自分の家に戻った。


 しかし村の子供達はめげなかった。

 数は三人にまで減ったが、それでもプレゼンにちょっかいを出し続ける。

 電撃を見せようが、氷の壁を作ろうが、草や花びらまみれにしようが、その度に子供達は逃げるが、また後日プレゼンにちょっかいを出すのであった。



「で、なんですかガキ共。私は忙しいのですけど?」

 赤い目で睨みながら、プレゼンは子供達を空いた手であしらった。

 しかし村の子供達は負けじと睨み、プレゼンに声をかける。

「はあっ? お前、遊んでるじゃん! しかも一人で、寂しい奴!」

「お前らと一緒にいるより、一人で村を回った方が百倍有意義ですので。ほらガキ共は帰った帰った」

「お前だってガキだろうが!?」

「精神性の問題です。早く帰ってオネショの布団でも片付けたら?」

「するわけないだろ!?」

 まるで蝿でも払うかのような仕草のプレゼンに、少年のリーダーは声を荒げる。

 それ以上は無視して去ろうとするプレゼン。

 だがそれより早く、少年はプレゼンに袋を押し付けた。


「? なんですか、これ?」

「知らねえ! でも父ちゃんと母ちゃんが、お前に渡して来いって!」

 布袋を手に取るプレゼン。中は軽く、小さなものがたくさん入っているのが分かった。

「知らねえけど、魔女様に届けてほしいって! 知らねえけど!」

「お師匠様にですか?」

 届け物ならば無下にできず、プレゼンはそれを受け取る。


 この時、両手が完全に塞がってしまったプレゼン。

 少年は、プレゼンが齧っていた林檎を奪い取って行った。

「あ、お前!?」

「や~い、馬鹿女! 人参女! トウガラシ女! 血液女!」

 プレゼンが言い返す前に、少年達は祭りの中に逃げ込んでいく。

 人々の群れで魔法は使えず、箒を置いて来たので飛ぶ事も出来ず、プレゼンは赤くなって怒りながら見送る事しかできなかった。

 













 昼間の山を、一人の商人が駆けて行く。

「た、たすけてくれぇ!!?」

 彼は商団の一人だった。団体は傭兵を雇い武装しており、決して賊にも負けない集団だった。


 しかしそこに山から、その怪物どもが現れた。

 人間と同じ二足歩行、しかし全身は猿のように毛むくじゃら。

 そして大きな顔と巨大な口、並んだ鋭い歯が特徴の怪物。

 人食いの化け物、アポタムキンである。


 商団は戦った。矢や銃弾を放ち、傭兵達は槍を向ける。

 二メートルを超える巨体のアポタムキンも、さすがにこの抵抗には勝てず逃げ出す。

 しかし彼らの狙いは商人の荷物ではない。人食いであるがゆえに、人間の肉である。


 商人の中に、驚いた馬から落ちた者がいた。

 恐怖で逃げ出す者がいた。

 そういった者達を彼らは狙っていたのであった。



 その中の一人がアポタムキンに、追いかけられていた。

 山肌をかけて、転んだ時の腕の傷を抱えながら、商人の男は走る。

 血が荒野の山道に一滴一滴こぼれていく。

 その姿を見て、アポタムキンはよだれを垂らす。

「もったいねえ、もったいねえ、はやく、くわなきゃあ!」

 舌を振り回し、巨大な口を開いて、追いかけてくる怪物。


 商人はそんな巨漢を後ろに見ながら、悲鳴を上げる。

「誰か、誰かぁああっ!?」 

 どんどん商団から離れていく男。

 そんな男に、アポタムキンは徐々に距離を詰めていく。


 そしてもう少しの所で追いつきそうな所で、毛だらけの怪物はとびかかった。

「いただきますぅ!」

 大きな口を開いたまま、商人の男を一口で喰らわんとした。

 投擲された鉄斧がアポタムキンをぶっ飛ばした。



 鉄仮面を被ったプレートアーマーの大男のバイオンが、山肌に立った。

「じゃあ、ぶっ殺すか」

 右腕の鎖を引っ張り、鎖に繋がった投げた鉄斧を回収して右手でキャッチする。


 バイオンは周囲を見渡す。

 ふっ飛ばしたアポタムキンは、ゆっくりと立ち上がった。

 見れば、他にも商人を追って来たアポタムキンが二体ほどいた。

 バイオンはそれらを見て、口角を上げて、左手にロングソードを抜いた。



 右手に鉄斧、左手に長剣を持って走ろうとするバイオン。

 だがそれより先に、商人がバイオンの右足の具足にしがみついた。

「助けてくれぇ!?」

「邪魔だ、離れろ!」

「お願いだぁ、助けてぇ!!」

「おい!? 離れろ!? 邪魔だ!?」

 商人はしっかりとバイオンの足にしがみつく。バイオンは動きづらいと足を振るが、しかし商人は離れない。

 相手は人食い、離れれば一口で食われる。そんなことは商人だってわかっていた。

 生きる為、怪我した腕で必死にバイオンの足にしがみつく商人。

 三体のアポタムキンが間近に迫っていた。


 当初は一体ずつ斬りかかる予定だったバイオン。

「くそぉ!?」

 商人を蹴り飛ばす暇が無いと判断したバイオンは、戦い方を変更する。

 ロングソードと鉄斧をそれぞれ、投げつける。

 口を広げて走ってくる二体のアポタムキン。その毛だらけの体にそれぞれの武器がぶつかり、二体が怯んだ。


 もう一体はそのままバイオンに走り込んでくる。

 背中の武器を取り出す暇がないバイオンは、その口に対して左腕のガントレットを向ける。


 その腕に噛みつかんとしたアポタムキン。

 その口内に対して、バイオンは魔法を放つ。

 炎と電撃がアポタムキンの口内を焼いた。


 アポタムキンはバイオンの左腕に噛みついたまま、絶命した。

「……っ!? なんだと!?」

 死んだアポタムキンが、バイオンの左腕に噛みついたまま離れない。


 バイオンはそのまま魔法を放ち続ける氷弾や水弾、土塊を放つがそれでもアポタムキンは離れない。

 右足に商人、左腕にアポタムキンが、バイオンに引っ付いたままだった。

「くそぉ!?」


 二体のアポタムキンが立ち直り、バイオンへと飛び掛かる。

 バイオンは一体に対して、腰のトマホークを投げつける。頭に当たったアポタムキンは、小石と砂の地面に倒れる。

 そしてもう一体のアポタムキンは、左腕に噛まれたままのアポタムキンで防いだ。

「いい加減、離れろ、テメエ!!」

 怒鳴り声を足元の商人に放つバイオンだが、しかし商人は目を閉じてしっかりと捕まったままだった。


 花と草、さらに水の竜巻を放って、ようやく左腕のアポタムキンが吹っ飛んだ。

 吹っ飛んだアポタムキンに巻き込まれて、もう一体のアポタムキンが倒れる。

 その間に、トマホークが頭に刺さったままのアポタムキンが、右側から再度、襲い掛かってきた。


 鎖の巻かれた右腕に、噛みつくアポタムキン。

 壊れない鎖はそのまま、圧力で内側のバイオンの腕が軋む。

「……っ、いてえよ!?」

 バイオンは左腕で、腰のダガーを取り出してアポタムキンの目に突き刺した。

 さすがにその痛みには耐えられず、悲鳴をあげながらアポタムキンは仰け反り離れる。

 バイオンは背中のハルバードを両手で取り出して、それを毛だらけの胴体に突き刺した。右側のアポタムキンは、そのまま血を流して絶命した。


 さらに貫通した槍を手放し、投げた鉄斧の鎖をバイオンは引っ張り回収する。

 左側から、またも襲い掛かってきた残り一体のアポタムキンを、鉄斧でその頭を叩き割ったのだった。



 三体のアポタムキンを倒し、バイオンは右足の商人を引きはがした。

 商人は恐怖のあまり、失神していた。

 そこに空から、箒にまたがったプレゼンが飛んでくる。

「バイオンさ~ん。アポタムキンでしたか? 全員、焼き殺してきました!」

「プレゼン、こいつを返してこい」

「商人さんですか? 分かりました!」


 プレゼンは気絶した商人を、箒にロープでぶら下げて飛んで行った。

 それを見送る事もせず、バイオンは虚空に尋ねた。

「おい、ラフター、殺してよかったのか?」

『まあ、アポタムキンは食う事しか知らん怪物だ。社会性の欠片も無い、動物に近い』

 ラフターは淡々と答える。

『私が殺してほしくないのは人間と、それに近しい奴だけだ。見た目の問題ではなくな』

「そうかよ」

 対して気にした様子の無いバイオン。

 ラフターは少しだけ興味がわき、その巨漢の男に尋ねる。

『……バイオン。かつて殺して奪っていた相手と同じ商人を助けるのは、どんな気持ちだ?』

「ああ?」

 バイオンはその言葉の意味が分からない。

「あの商人とこの商人は、別人だろうが?」

『……ああ、そうだな』

 何の感慨も無いバイオンに、無駄な質問をしたとラフターは自嘲した。



 その後、プレゼンは商人を届けて感謝される。

 お礼の品をと言われるが、急いでいるのでと一言で去り、バイオンと共に夜のフィーラ村へと戻った。













 夜のフィーラ村。

 かつて冥府の女神である守護神に捧げられたその祭りは、ある意味、太陽が落ちてからが本番であった。

 村中で松明が掲げられて、人々は一つずつ、松明の火を捧げていく。

 その一つ一つの炎が、姿の見えない神に対する感謝であり、願いであり、言葉であった。



 そこから離れたフィーラ村の外れ。

 家の前の段差で一人、漆黒の魔女は秋風に吹かれる。

 明かり一つない自分の家の前で、ラフターはお祭りの火を遠くから見つめる。

「……私に対して助けてほしいのか」

 ラフターは昼間、プレゼンから届けられた袋を開ける。

 中身は焼き菓子であった。

 それはかつて彼女がまだこの村で守護神として過ごしていた頃、毎年のように子供達から贈られてきた物だった。


 その菓子を一人、ラフターは齧り食べる。

「悪いが、それは無理だ。私は神様ではない。……私は知ったのだ。私は決して最強ではない。殺されかけている人々を、我が身の可愛さに見捨てて逃げ出す事しかできんのだから」

 漆黒の魔女は一人、遠くから炎を見る。

 秋風によって黒髪がたなびいていた。



バイオンは今回も特に無し!


 アポタムキン:北アメリカに伝わる怪物。二足歩行で全身には長い体毛が生えて、大きな口と歯で人を食べる。



いつも誤字報告、ありがとうございます。見直しなどを自分も頑張りたいです。

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