第68戦 VS戦闘メカδ(デルタ)
センターナ王国、その中央にある城。
首都の中央にある城ではあるが、防衛能力は大して意識しておらず象徴としての形が強い。
百年も戦争で攻められた事が無い。反乱も起きていない。
その為、摩耗した城壁は崩れない程度にそのまま、かつてあった堀は邪魔であると埋められてしまっていた。
この国は幸福であり、そして自堕落の国だった。
しかし二十年ほど前から、この国にも影が迫る。
豊作だった農業は不作の年が何度も顔を出し、災害が起こると人死にの被害が起き、そしてモンスターや凶悪な犯罪者も現れるようになった。
この事態は四つの隣国にも同時に起こり、センターナ王国は未曽有の大混乱の渦中にあった。
それまでずっと安泰だった状況は崩壊する。
国が崩壊せずに維持できたのは、幸運ともいえるだろう。
「ともかくも、我らは生き延びてきたわけだ」
玉座に座るは髭を生やし、豪華な王族の服を着ており、王冠を被った男性が座っている。
その顔は疲労に満ちていた。
「ここまで見事な統制、これからもお願いしますぞ、王よ」
その側に立つのは、王の助言役をしている大臣である。
品の良いが、決して贅沢ではない服装で王より目立たずにひっそりと立つ。
皺の多さは、国王よりもたくさんの苦労をその老人が背負ってきた証明である。
二人は二十年、苦労してきたのだった。
国王は兄弟がいたが権力争いが起こり、国が割れる可能性もあったのを何とか取りまとめた。
食料が尽きそうになって、国費をはたいて他国から食料を買い取り資金も余裕はない。
災害やモンスター等の問題が何度も起き、兵士を派遣し常に人手不足に苦しんでいる。
堕落のツケが一気にこの国の王に流れ込んだのである。
そしてこの国の人々は、王に言葉を突き付ける。「神はこの地を見捨てたのか?」と。
「そんなのこちらが聞きたいわ」
毎日、何度も吐き出すため息を国王はついた。
この地に守護神がいる事は歴代の国王も分かっていた。
しかし、その正体や居場所を突き止める事が出来なかった。
兵士を国中に派遣したがこの百年間、誰にもわからなかった。
現国王の曾祖父であった以前の国王は、神の像に祈り続けた。その姿を見せてほしいと訴え続けた。
そして二日ほど寝ずに祈り続けた結果、一枚の紙が落ちてきたのだった。
『顔を見せるのが面倒』
それがこの国の王に対する、神の唯一の言葉だった。
大臣しかいない国王の間で、この国の王は愚痴を吐き続ける。
「他国では魔族だの戦争だのと噂がひっきりなしに流れ、モンスターや賊は増える一方。最近では突然に獣が狂暴化したり、変な宗教が流行って人心を乱しているという話だ。謎の組織の活動も報告されている」
「王。ご心労お察しします。ここまでこの国を維持できたのは、国王の手腕によるもの。それは誰も疑いません」
「問題は何も解決していないがな、大臣。むしろ年々、増加している。……今年は予測に反して豊作だったからな、何とか耐え凌げるだろうが。来年はどうなるか」
「やはり守護神を見つけ出す事が急務か」
二人の男は、額の皺を増やして悩んだ。
大臣がふと思い出して口にする。
「そういえば、もうすぐ十月ですな」
「どうした大臣?」
「フィーラ村がもうすぐ祭りを行うようで」
「フィーラ村? ああ、あの辺境のか……」
国王は、その村の名前を聞いて、再度長いため息を吐いた。
「この国はあの村にはもう二十回以上、兵士を派遣し守護神がいないかの調査を行っている。しかし何の成果も無い」
「守護神の噂はたびたび、あがっているのですがねえ?」
「守護神の名を語った詐欺など吐いて捨てるほどある……」
国王と大臣はしばらく黙る。そしてぼそりと呟くように国王が言う。
「……もう一度、派遣してみるか」
「国王?」
「まあ、どうせ何の足掛かりもつかめてないのだ。祭りの様子を見るついでだ」
「わかりました。見回りの兵士にそちらまで足を運ぶように伝えておきます」
国王は立ち上がり、大きな窓の側まで近寄る。
そこからは街並みが見える。
青空の下に広がる風景を見て、国王はまたため息を吐いた。
センターナ国王と大臣がそんな会話をしていた夜。
遠く離れて、ドワーフの国。
ドワーフの国の王レギンと、その部下である白衣を着たドワーフ達。そして明かりを持った護衛のドワーフの兵士達が夜の荒野に集っていた。
そんなドワーフ達より少し離れた場所。
夜の曇り空の下、四脚の大型ロボットが走り回っていた。
その高さは二メートルほど、四本の脚は馬よりも太く幾つもの関節が存在する。
胴体が四角い箱でなければ、馬を思わせるメカであった。
荒野を走り回る、鉄の箱の馬。それを白衣の科学者のドワーフ達が計測していた。
その計測結果に、科学者の一人は喜ぶ。
「レギン国王! 百メートル、二十二秒です!」
しかしその報告にも、設計図を描いたドワーフの国王は無表情のままだった。
「遅いな」
「しかし、やはり二本の足よりはバランスは終始安定しております。速度も決して使えない物では無いです。これを量産すれば、他国への侵攻も」
別の科学者が冷静に、王に対して提案する。
その話を聞かず、髭を蓄え王冠を被ったドワーフは、夜の荒野の先を見つめていた。
「来たか」
「国王?」
ドワーフ達が釣られるように視線を送る。
そこには松明を持った、鉄仮面の鉄装備の巨漢が立っていた。
「よう、ドワーフ共。またその人形、ぶっ壊しに来たぜ?」
鉄仮面の奥で獰猛に笑うバイオン。
ドワーフの王レギンは、暗闇の中、その松明の炎を睨む。
王の配下達は、慌てて王の下に集まる。
「こ、国王、奴は!?」
「落ち着け、貴様ら!!」
慌てふためくドワーフ達を一括し、国王は命令する。
「貴様ら! ドワーフロボタイプ4δを分離させ、戦闘態勢にせよ!」
『はっ!!』
白衣を着た四人の科学者たちが、ロボットと視界を繋いだマスクを被る。
その体には機械が背負われ、手にはコントローラーが握られる。
ドワーフの兵士達は、国王と科学者を守る様に前に立った。
バイオンはそんな操縦者たちを無視して、暗闇の先にいるロボットを見る。
デルタと呼ばれたロボットは、四本足で立ったまま動かない。
バイオンが無言で、右手に松明、左手にハルバードを手にロボットを観察していた。
するとロボットの胴体が徐々に、変形していく。
馬の背を下りるように分離した機械が、夜の闇の中でうっすらと光りながら、四本足のロボットから離れていく。
一体は、前回もいた砲台型のロボット。地面に落ちたその円柱のロボットは、回転する銃口を備えていた。
一体は、前回もいた飛行型のロボット。今回はプロペラ式であり小型ヘリコプターともいうべきものだった、ゆっくりと曇った夜空へと飛び上がる。
一体は、人型だった。最初にバイオンが戦ったアルファとベータに似ているが、それよりもよりスマートの体形をしていた。
両腕は銃口となっており、それが暗視カメラの先でバイオンに向けられる。
そして分離されて、荷物を外された四足歩行のロボも変形する。
胴体を起こしたそれは四本の足に、人間の上半身をくっつけたようなロボットだった。
まるで鉄の鎧で武装したケンタウロスを思わせる。
ケンタウロス型のロボットは、両腕が銃口であり、それをしっかりとバイオンに定めた。
「前回の貴様との戦いで、もっとも通じていたのは銃撃であると判断した」
ドワーフの国王は自身の髭を撫でながら口を開く。
「前回は狙い定める手段がなく。回転式で薬莢と呼ばれる連続装填の銃撃を行ったが、命中率が悪かった」
「しかし、今回は違うぞ大男。前回よりも精密性を向上させた狙い撃ちよ! 威力も十分あり、鉄をも貫く!」
ケンタウロス型はバイオンから見て右に、人型は左に、プロペラは上に、そして円柱型はその場でバイオンを狙い定める。
「一方向からならば、動いて射線から逃れるだろうが、四方向からの同時射撃! これならば逃れられまい! 着実に当てて、弾切れを起こすような真似もしない!」
四つに分かれたドワーフロボのδ。バイオンを中心に射撃の時を待つ。
視界共用のマスクをつけた、ドワーフの科学者たちに、国王は命令した。
「撃て!」
バイオンに対して銃撃が放たれた。
水のバリアがバイオンの前方を守り、それにぶつかった銃撃は威力を弱める。
そして銃弾はそのままバイオンの鉄鎧に弾かれて、銃弾が地面へと落ちる。
「なっ!?」
「魔法!?」
驚くドワーフ達。
「そういえば、前回はロングソードのみで倒したな」
バイオンは左腕のガントレットを、相手のロボット達に向けた。
そして、装着された魔法を放つ。
電撃が人型のロボットを直撃。そのまま回路をショートして、破壊された。
土塊が空を浮くプロペラ兵器を直撃、羽を壊されてそのまま墜落した。
火炎弾と水弾、氷弾と水の竜巻がケンタウロスロボへと飛ぶ。
決して遅くはないが、それでも先読みされて放たれた氷弾が、四足ロボの足の一本を破壊した。
バイオンは持っていた爆弾の、紐を引いて着火させて投げる。
動けなくなった四足ロボと、砲台ロボはバイオンへと銃弾を放つ。
しかし狙い撃つが、それを行っているのはドワーフの科学者達。
銃の扱いがそこまで上手いともいえない彼らは、相手の行動先を予測する偏差射撃ができず、動き回るバイオンに当てる事が出来ない。
そして二つのロボットの頭の上、射角外への投擲。
二つの爆弾は爆発して、それぞれのロボットを破壊した。
「帰って剣でも振るか」
バイオンは適当に、機械の部品を拾ってフィーラ村へと帰還した。
膝をつくレギン。
科学者のドワーフ達が集まって話し合う。
「前回より、防御性能が落ちたのが原因か?」
「スカイロボも安定性を目指した結果。プロペラ式にして、攻撃を当てられやすくなってしまった」
「しかし相手からの攻撃をどう防ぐかだな。重装備にでもするべきか?」
「それだと機動力が……」
そんな意見を出し合う科学者の下に、レギンが近寄り告げる。
「……ヒマヴァット様じゃ」
「国王?」
「神たるヒマヴァット様ならば、鋼鉄おも超える金属をおそらく、いや、確実に知っておる! それをヒマヴァット様から聞き出すぞ!」
鬼気迫る顔のレギン国王に、怯む科学者たち。
「そんな金属、あるのですか?」
「儂の勘じゃ!!」
「ええ!?」
ただの思い込みだと断言する国王に、科学者のドワーフ達は唖然とする。
「し、しかし国王。ヒマヴァット様はただでさえ、我らに対しての協力は乗り気ではありません、あるかどうかわからない物を……」
「拒否したその時は、全国民で頭を下げて聞き出す! 答えを出すまで聞き続けるまでだ! わかったら帰るぞ!」
自国へと歩く王冠のドワーフに、他の配下のドワーフ達は、ただ歩いてついていくしかなかった。
後に毎日ドワーフに集団で頭を下げ続けられた守護神ヒマヴァットは、根負けして彼らに伝える事になる。
特殊なダマスカス鋼の製造方法を、守護神はドワーフ達に教えたのだった。
フィーラ村の祭りの日の朝。
そこから離れた兵士達の下に手紙が届く。
「え? ではフィーラ村まで足を運ばなくともよいと」
その集団のまとめ役である男が、部下の発言に頷いた。
「ああ、国王から人手不足の今、無駄な時間をかけるのは良くないと」
「そうですか?」
釈然としない部下の兵士。
「まあ、あそこには駐在の兵士もいるし。それに村を守っているドワーフもいるらしいしな」
「個人的には顔を見ておきたかったのですがね」
兵士達はフィーラ村ではなく当初の予定通り、そのまま城へと帰って行った。
自分の家の前の段差に、座っていた漆黒の魔女は、目の前の赤い服装の少女に語るように言う。
「この国は守護神の話は国王に通すと決めているから、改竄しやすいな」
「お師匠様?」
ドワーフの国の戦闘メカを破壊してから数日後。
フィーラ村は祭りの日を迎えたのだった。
バイオンは今回も特に無し!
ダマスカスはかつてインドで製造された失われた鋼鉄の製造方法で、強度は鋼鉄と変わりません。
特殊な作り方から、金属の表面に木目のような跡が着くのが特徴。現在では作り方が分かっている。
この世界では、鋼鉄よりも凄い金属として登場させる予定。




