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第21戦 VSストーンゴーレム



 トロール三兄弟を森に逃がして、五日後。

 ラフターによる妖精探しは難航していた。


 その日は久しぶりの大雨が降っていた。

 収穫前の小麦は雨に弱いため、収穫後で良かったと村人達は安心した表情を見せる。

 バイオン達五人は、今後の話し合いの為に一つの家に集まる事となった。


 ラフターの家は中を暗闇にしている為、それとプレゼンとドワーフ兄弟が恐れ多いと遠慮した。

 プレゼンの家は女の子の部屋である事と、荷物が散らかっている事、あとナメクジが気になるという事でドワーフ兄弟が拒否した。

 ガラールとフィアラルのドワーフ兄弟の家は、整理はされているが鍛冶や大工道具がたくさん並んでおり、また背の低い二人に合わせた家具の為に、四人が座りにくいので断念した。

 最後に残ったのはバイオンの家だった。



「汚い!?」

 バイオンの家は、ラフターが魔法で作り出して一ヵ月半。全く掃除されていない。

 それどころか、そのワンルームをほとんど使っていなかった。

 使われているのは玄関と炊事場と、そして玄関前の床だけだった。


 バイオンは基本的には家に入ってすぐ寝るぐらいしか使わない。

 その為に部屋の奥は全く立ち寄った形跡が無く。埃が積もり始め、蜘蛛が巣を作っていた。

「家ってのは雨風を凌げば、それでいいだろうが」

 いかつい顔の巨漢が、面倒臭げに答えた。

「それはもはや洞窟と何が違うのでしょうか?」

 プレゼンはため息をついた。


「とにかく掃除しないといけません」

 プレゼンは傘を差して行き来し、自分の家から雑巾を何枚か持ってきた。

 その時にふと、赤い魔法使いの少女は、隣にいたラフターに気になった事を尋ねた。

「……そういえばお師匠様は掃除とかなさるのですか?」

「魔法でやってる」

 薄目の眠たげな黒い服の魔女は、プレゼンから雑巾をつかみ取ると床に放り投げる。

 すると雑巾数枚は勝手に床や壁を走り、ほこりを掃除していった。



 雑巾が動く部屋の中。ラフター、バイオン、ドワーフ兄弟、プレゼンはそれぞれ椅子に座って話し合いを始める。

 昼の太陽は隠れ、外では雨の降る音がする中、ラフターが淡々と状況を説明した。

「まず、今の目先の目的から話す」

 目だけを動かし、他の四人をラフターは見た。

「バイオンが魔法の力を放つ事が出来る、魔法石を求めている。そして魔法石を作れる妖精を求め五日前にトロールを捕らえた。しかしトロールは魔法石を作れない」

「失敗でしたね」

 自分の学校で習った事を間違え、赤い帽子をかぶり直し少しだけ自責するプレゼン。

 気にせずラフターは話を続ける。

「魔法とは、自分の魂に魔力を溜める為の壺を作り、そこからさらに魂に作った変換装置で魔法として放つ事。魔法石とはこの魔法の壺と変換装置、それぞれの能力を持たせた物体の事。別に石でなくても良いが、大体は石として作る」

 バイオンは眠たそうに欠伸をする。プレゼンとドワーフ兄弟は熱心に聞いていた。

「その魔法石を作るのは基本的には妖精、そしてその中でもより概念や魂に近い存在である精霊が優秀な魔法石を作れる。ゆえに私は精霊を求めてこの世界を魔法で探索していたのだが」


 雨音のする部屋。

 ラフターは手を前に掲げる。

 すると五人の中央に大きな球体が生まれた。七割が青色で、部分部分が茶色の球体だった。

「青色の部分が海、そして茶色の部分が陸地。これがこの世界の地図”ピース・コアー”の全体図だ」


 空中に浮き、ゆっくりと回転する世界を示した球体の地図。

 魔法で作られたそれに感動し、口を開けるプレゼンとドワーフ兄弟。

 バイオンは椅子にもたれて寝始めた。

「学校で習いました! この世界は球体で重力で自分達は地面に引っ張られているって!」

「ああ、俺らも知識の新聞で読んだ事あるぜ」

 内心はあまり信じていなかったドワーフ兄弟だったが、ラフターが言った事で心から信用して、うんうんと頷いた。


 ラフターは気にせず説明を続ける。

「それで今、私達はこの部分に住んでいるのだが……」

 ラフターがその球体の世界地図に点を作り出す。

「探した結果、どうやら精霊は、ここより離れた位置にいるようだ。その為、強制的な回収は難しい」

 球体を半回転させる、そこにいくつかの点が浮かび上がった。


 その話を聞いてプレゼンは頷いた。

「つまりお師匠様。遠く離れている場所にはワープできないってことですか?」

「違う」

 眠たげな顔のラフターは首を横に振る。

「簡単に言うとだ、こっちが昼だった場合、世界の裏側は夜なんだよ」


 世界の球体の外側に、小さな炎の球体を浮かべる。

 球体が回転すると炎に照らされた球体の反面は明るく、逆は暗くなった。

「つまり、どういうことですかラフター様?」

 ドワーフの兄弟は髭を撫でて、考える。

 ラフターは無表情のまま答えた。

「私が魔法を本気で使えるのは夜。こちらが夜でも、精霊がいる場所に送ると昼だったりする」

「……なるほど」


 プレゼンとドワーフ達はその言葉に納得した。

「ワープできないのですか?」

「出来る。しかしもしその場所の守護神が襲い掛かってきた場合、助けらない可能性が高くなる」

「ラフター様が勝てない相手は、そういないと思いますが?」

「隣国の守護神を忘れたか? 例えばセクメト相手だと、本気の接近戦なら勝てない。逃げるだけなら出来るが、バイオンを連れてだと難しい」

「フィーラ村が昼間の間に、夜の国へとワープすれば?」

「その場合、こちらに張る結界の一つの認識外しの力が弱くなる。場合によってはこちらを認識した相手の守護神が追いかけてきて、この村にワープしてくる可能性もある」

 ドワーフ兄弟の質問に対し、ラフターは抑揚無く答えた。


 話を聞き終えたプレゼンは、うんうんと頷いた。

「しかし無敵と思えたお師匠様にも、弱点があったのですね。昼間に戦うと能力が落ちて全力が出せないとは」

「違う」

 元女神にも弱点はあると納得しかけたプレゼンを、ラフターは否定した。

「私が昼に全力を尽くすと、その周囲一帯を夜に作り替えてしまう。それはさすがに目立つから嫌なだけだ」

 自若とした態度で答えたラフターに、魔法使いの少女とドワーフは唖然としてしまう。

 少し前に目を覚ましたバイオンは(初めて会った時にも夜に変えようとしたな)と思い出していた。


「と、ともかくです!」

 プレゼンは立ち上がり、大きな声を出す。

「数日前に魔法学校に手紙を送りまして、魔法石を譲ってもらえるように頼みました! 学校では人工的に魔法石を作る機器がありますから!」

「そう、だな! 遠くにいる精霊より、近くのお手製だな!」

「うんうん!」

 プレゼンとドワーフ兄弟は結論を出す。

「……私ももう一度、この経度、同じ時間帯の球体の縦線付近を探すよ。妖精などは結界を張って姿を隠すから見落としている可能性が高い」

 ラフターもまた呟くように言う。

 この家の主であるバイオンは、最後まで椅子に座ったまま何も話さなかった。



(……)

 結論を決めた後に、ラフターは考える。

(こいつら、気付いているよな?)

 いつもの眠たげな目で、漆黒の魔女は他の者達を見つめる。

(魔法石なら私が作れるんだが、なぜ私に作れと頼まないんだ?)

 四人から作れないと思われているとは、思えないラフター。

 魔女の心の中で疑問が溢れた。

(まあ、手頃な所から手を出していくのも修行か?)


 

 ラフターは考えつかない。

 以前、ドワーフ兄弟に対して告げた言葉の事を。

『自分の身は自分で守れ、守れないなら死ね』

 その言葉を聞いたドワーフは、そしてその言葉をドワーフ達からまた聞きしたプレゼンは、自分達が出来る事は自分達でやろうと考えた事を知らない。

 何もかもラフターに頼るのを止めようと、プレゼンとドワーフの兄弟が思っていた事を知らないのである。


 三人のその気持ちが信仰心から来ている事に、意識を半分眠らせているラフターは感づかなかった。











 トロールによる盗みとイタズラが、国中で問題視され始めた次の日。

 魔法使いのローブを着た、緑髪の少女がフィーラ村を訪れた。

「あ、クラフ!」

「おう、プレゼン、久しぶりだな!」

 ハイタッチする二人の少女。

 フィーラ村の外れの五つの家に訪れたのは、プレゼンの同級生であるゴーレム使いのクラフだった。


 彼女は五人にあいさつをした後、バイオンを見て言った。

「こんにちは、バイオンさん! あなたにリベンジをしに来た!」

 その言葉に、厳つい顔の巨漢は獰猛な笑顔で答える。

「いいぜ、この六日間、鎖投げと斧振りだけで暇してた! テメエのゴーレムをまた粉々にしてやるよ!」

 六日前にトロールを倒してから戦闘を行っていないバイオンは、その決闘を受け入れたのだった。




 こうして昼の太陽の下、五つの家の前でバイオンとクラフの戦いが始まった。


「さあ来い、ストーンゴーレム!」

 クラフの掛け声とともに、昨日の雨でぬかるんだ地面からそのゴーレムが姿を現わした。


 それは前回のマッドゴーレムの泥とは違い、石でできたゴーレムである。

 さらにその人型は前回より大きかった。


 だが前回と造形が違っていた。

「あれ?」

 その全体図を見て、プレゼンが首を傾げる。

「上半身だけですか?」

「うん」

 クラフが目を逸らして答える。

「……どうにもバランスが、ね?」

 はっきりしないクラフの答えに、プレゼンは疑念を抱いた。



「ともかくぶっ壊せばいいんだろ!」

 武装が鉄斧と鎖だけで、半裸の巨体を晒すバイオン。

 ぎらついた眼で上半身だけの石の巨人を見て、殺気を高めた。

 そして、すぐに地面を蹴って走り出した。


 石の巨人は這いずるように動き、右腕をバイオンに向ける。

 右腕には手の代わりに、大砲の様な大きな穴が開いていた。

 その穴から石の銃弾が放たれる。

 それは一度にたくさんの小石を放つ散弾だった。


「うおおおおお!?」

 さすがにそれは避けられず、バイオンは右手の鎖と左手の鉄斧を盾にする。

 全身を無数の小石がぶつかった。

「痛てえぇっ!? ……痛いがそれだけだな!」

 バイオンが守った顔以外に小石の弾丸が叩きつけられたが、多少の擦り傷だけで大した怪我にはならなかった。

 しかし何度も放たれると、さすがに辛い。

 バイオンは気にせず、顔を守ったままストーンゴーレムへと走る。


 ストーンゴーレムは左腕を振り上げる。

 そちらも左手の代わりに、長い石剣が代わりに生えていた。

 標的であるバイオンが近寄った後。小石の散弾を目くらましに、石剣を横薙ぎする。

「なめんなぁ!」

 その石剣に、鉄斧を叩きつけるバイオン。

 衝撃で後ろに倒れるバイオンだったが、代わりにストーンゴーレムの石剣が砕けた。


 だが砕けた石剣がすぐに引っ付き、元に戻ろうとする。

 バイオンは気にせず、石の巨人へと飛び掛かった。

「まずは胴!」

 鉄斧の一撃に、足代わりとして使われていた胴体部分がひびが入り表面が砕ける。

 ストーンゴーレムは前のめりに倒れた。

「背中! 胸! 肩! 首! 最後に頭ぁ!!」

 次々と連続で、バイオンの斧の攻撃が石巨人へと叩きこまれる。

 その度に、ヒビが入りゴーレムは砕けていった。


(硬くなっているけど、バイオンさんには泥も石も砕くだけなら、そこまで問題ないような?)

 プレゼンはちらりと、横目でクラフを見る。

 緑の髪のクラフは、まるで不安の無い顔をしていた。

(ここまで一方的なのに、どうしてクラフは余裕があるんだろう?)



 何度も何度も殴りつけるバイオン。

 一方的な戦いだったが、徐々にバイオンの顔に焦りが出始めた。

「おい!? なんでどこにも魔法石がないんだよ!?」

 斧で壊され各部がバラバラに砕けた石巨人だが、魔法石は露出しなかった。


 石の剣が復活し、その左腕だけが地面を張ってバイオンに斬撃を行う。

「!? この剣の中か!」

 斬撃をジャンプして避けて、石の剣の腹を鉄斧で殴った。

 勢いをつけて何度も殴りつけるバイオン。

 だが砕けた剣の中に、魔法石は存在していなかった。

「違う!?」

 今度は復活した右腕が、小石の散弾を放ってくる。

 バイオンの左方面からの攻撃、焦っていたバイオンは防ぎきれずにダメージを受ける。

 さらに胴体部分が復活して、地面を這いずってバイオンへと体当たりした。


 ぬかるんだ地面を転がり、泥にまみれるバイオン。

 追撃をさせまいとすぐにバイオンは立ち上がり、石巨人から距離を取った。

「くそ!?」

 ぎらついた眼を細め、どこにゴーレムの核である魔法石があるのかをバイオンは探す。

(魔法石を破壊されれば負け、つまり破壊されにくい場所にあるはず! だが適当に攻撃しても当たらなかった? 小さいのか? それとも存在しないのか?)

 バイオンが考えている間にも、石の巨人は完全に姿を取り戻す。

 そしてぬかるんだ地面を這いずりながら、バイオンへと迫って行った。

(どこにあるんだ、クソ! しかし這いずって遅いのが救いだな、もし足があったらゆっくりでももう少し移動力があったはず。移動だって地面から離れて……?)

 ふとバイオンは地面を見る。そして考えた。



 石の巨人は右腕の大砲を、バーバリアンの男へと向けた。

 巻いた鎖をほどくバイオン。そして鎖付きの鉄斧を、大砲の穴へと放り投げた。


 大砲の穴を斧が塞ぎ、放たれるはずの小石が暴発。ストーンゴーレムの右腕が壊れる。

 その間にバイオンは走る。


 向かってくる大男に対し、ふらつきながらもストーンゴーレムは左手の石剣を振るった。

 縦斬りのその攻撃を横に避けて、またも石巨人の胴体部分へとバイオンは近づく。

 近場に落ちていた鉄斧を拾い、胴体へとまたも攻撃を放った。


 胴体にヒビが入るゴーレム。

「うおらぁ!」

 声を張り上げながら回転し、ゴーレムに連続の攻撃をバイオンは叩きこんでいく。

 二度の同じ部分への攻撃。胴体部分が完全に壊れて、石巨人はまたも地面へと倒れ落ちた。


 そして復活する前に、バイオンはぬかるんだ地面を手で掘った。

「あ、バレた!?」

 その様子を見て、クラフは慌てた様子で口を開く。



 ゴーレムは魔法石を核として、その周囲に形を持って存在する。

 逆に言えば魔法石が近くにあるのなら、ゴーレムの体内になくても実は良いのである。



 地面の下には石の塊があった。

 それをバイオンは鉄斧で叩く。

 するとヒビ割れた地面下の石から、茶色の魔法石が姿を見せた。

 そのまま殴った衝撃で魔法石は砕ける。そしてストーンゴーレムもまた地面に倒れ伏して、砕け散った。





「ゴーレムの外にある核、良い手だと思ったんだけどなあ」

 ため息を吐くクラフに、呆れた目を向けるプレゼン。

「下半身を作らなかったのは、地面から離れすぎないようにという理由ですか?」

「まあね」


 昼の村外れ。

 地面に座り込んだバイオン。

 そのバイオンに回復魔法を使うラフター。

 石を何度も殴った為に、刃毀れした斧を鍛冶場に持って行ったドワーフ兄弟。

 そして赤い髪の少女と緑の髪の少女が、崩れた石の側で話し合っていた。


「そうそう、プレゼン。マリオネ先生からのお土産」

 クラフは大きな布の袋を、プレゼンに手渡す。

 プレゼンが袋を開いて覗くと、手の平ほどの大きさの石が五つ入っていた。

「手紙に書いてあった魔法石。炎、氷、電撃、光、そんで痛みを和らげる魔法をそれぞれチャージできて、魔力を溜めれば何度でも使用可能。あんたならチャージできるでしょ?」

「えっ!? こんなにいいんですか!?」

 魔法石は人工的には製造が難しく、特に連続で使用できるチャージタイプは作成に手間がかかった。

 クラフがゴーレムに使用する魔法石は使い捨てで、時間が経つと勝手に壊れる量産型の魔法石である。



 たくさんのお土産に驚くプレゼン。するとクラフが真面目な顔をする。


「マイラド王国の犯罪者、ゾンビ使いの魔術師グルームが脱獄した」

「……え? 何ですか?」

「グルームは追手の魔法使い達七名に重傷を負わせて今もなお逃亡。そのうえ、どうやら他に仲間がいる様子」


 少女クラフは笑顔をバイオンに向ける。

「この魔法石は前払い。結界で居場所を特定できないグルームを倒してください、お願いします」

 ラフターは面倒くさげな表情で、頭を下げるクラフに視線をやった。

(あの女、重傷とかはフェイクで、おそらく私達を戦わせるためにわざと罪人を放置したな?)

 ラフターの頭の中に、マリオネの穏やかな表情が浮かび上がった。



バイオンは弱点が隠されたり妙な場所に置かれる事を覚えた!

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