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第20戦 VSトロール三兄弟



 バイオンがカントラルより戻った次の日。曇り空の昼。

 バーバリアンのバイオンと、ドワーフの兄弟ガラールとフィアラル、赤い服の小さな魔女のプレゼンは家の前でご飯を食べながら話していた。

「昨日、相手が投げた光を放った筒は、おそらく魔法石が入っていた物です」

「魔法石?」

 焼いた鹿肉を噛み千切りながら、バイオンは話を聞く。

 ドワーフが作った木の椅子に腰かけて、トマトを手にプレゼンは得意気に説明した。

「魔法石とは、名前通り魔法を込める事が出来る石です。火の魔法を込めて念じれば火を放ち、水の魔法を込めて念じれば水が出ます。ちなみにクラフが操っていたゴーレムも魔法石を用いて動かし操っていたんですよ?」

「爆薬じゃねえのか?」

 バイオンの疑問に対して、一緒に肉を食っていたフィアラルが答えた。

「いや、鏡越しで見ていたが爆薬だったらもっとでかい音がするはずだ。一応ショックを与える為のフラッシュバン、スタングレネードっていう爆弾が世の中にあるって新聞で読んだ事があるが、光と音で衝撃を与える物だ」

「はい、昨日のは光を放つ魔法を込めた魔法石を筒の中に入れて念じて、発動させた物です」


 赤い服の少女は熟れたトマトを齧り付き、食べてヘタをカゴに戻す。今度は林檎を籠から取り出した。

「魔法石は大きく分けて二種類あり、魔術の文字が刻まれて魔力を込める事で魔法を放つ起動石と、魔力が最初からこもっていて使用すると壊れる魔導石があります。伝説では魔導石の中には何度使用しても、時間が経てばまた使える物もありますが」

「それはどこにあるんだ?」

 魔法が使えないバイオンにとって、魔法の存在は厄介な物であった。ゆえにそれを使用できる道具は出来ればほしかった。

「作ります。……ですが私には無理です」

 林檎を食べるプレゼンから、バイオンは視線を動かす。

 見られたガラールは首を振った。

「さすがに魔力の込められた物は、作った事も無いな」

 林檎を食べ終えたプレゼンは、「しかし」と続けた。

「作れるのは魔力の強い存在。いえ魔力そのものに近い存在です」

「誰だ、そりゃ?」

「妖精です」










 夜の森。ランプの光に照らされた森の中の粗末な小屋で、男達の笑い声が響いていた。

 中には三人の人型の存在がいた。それぞれが木彫りのカップを手に持ち、樽から酒を汲んで飲んでいる。


 一人は皮のジャケットと、長い赤帽子を被った白髭の老人。

「それでよ、ワシは女に化けてその男に『私の事を忘れたの?』って寄りかかったのよ。そしたらそいつの妻がカンカンでよぉ。あの喧嘩は見てて笑えたぜ、兄弟!」


 一人は質素な皮服を着て、ドワーフよりも一回り小さい醜い顔の小人。

「俺は声真似で鶏のモノマネをして回ったぜ、まだ夜中だってのに村中で大騒ぎだったぜ! 兄弟!」


 一人は三メートルに届きそうな巨体、古い布を被った鼻や耳の大きな巨人。

「お、おれは、夜中に町に行って、挨拶してやったんだ、そしたら悲鳴を上げて泡を吹いて倒れたぞ、兄弟」


 それぞれの悪戯の自慢話をした後、馬鹿笑いしあっていた。


 彼らは見た目は全然違うが、トロールと呼ばれる種族である。

 そして見た目が全然違うが、お互いを兄弟と呼んでいた。

 別に血の繋がりがあるわけではない、同じ場所に生まれたわけでもない。

 たまたま出会い、なんとなくお互いが気が合ったので、そう呼びあっていたのだ。そうしてどこかの町や村に行き悪戯をして、それを自慢しあったりしていた。

 そうして百年、特に下らない事でも仲の良い相手がいれば楽しい。彼らは見た目も全然違うのに、同じトロールである事を受け入れ、深く考えずに一緒にいたのであった。

 


 騒ぎながら楽し気に酒を飲んでいた三人。だが盛り上がりが治まると、小さなトロールが神妙な顔で聞く。

「しかしよ、これからどうするジジイ兄弟?」

 老人顔のトロールは長い髭を弄りながら答える。

「そうさな、最近はモンスターが活発になってどこも防衛組織が強くなっておる。今日も酒樽を盗んできたが、殺されかけたわい。お前はどう思うチビ兄弟?」

 手の平よりは大きいトロールが、難しい顔をする。

「んんん、安全な場所でも求めて旅するか? 下手に化け物にあっても困るしなあ。どう思うデカ兄弟?」

 指先の小さなカップで、酒樽からゆっくりと酒を汲み、舐めるように飲む。

「お、お、俺は、どこでも、いいぞ。でも、ゆっくり、できるとこが、いいなあ」


「最近はどこも危険だ。この近くの川にも化け物が住み着いて、水遊びも難しい」

「魔族とかいう危険なのも、たまに現れるって話だしな」

「お、俺、危険なの、コワイ」


 三人は腕を組んで頭をひねる。

 チビ兄弟と呼ばれたトロールが、大きな鼻を鳴らして答えた。

「よっしゃ、安住の地でも求め、旅立つとするか兄弟達!」




 その小屋の入り口が爆発した。


「なんだぁ!?」

「酒屋の主人が取り返しに来たか!?」

 爆音と爆風に驚き、床を転ぶトロール達。


 そこに現れたのは二メートルほどの背丈の男。全身を鉄の装備で固め、腰には袋、背中には鉄斧と鉄槍を背負っている。

 バーバリアンのバイオンである。

 バイオンは、腰の袋の爆弾を扉に放り込んでこの小屋を破壊したのだった。

 ぶっ壊れた木製の扉をガントレットの手で振り払いながら、鉄仮面の奥のぎらついた眼で小屋の中に目をやった。

「ここか、妖精ってのがいるのは?」




 まずその大男を見て動いたのは、そいつよりも巨大な大男であった。

 デカ兄弟と呼ばれたトロールである。

 のっそりとした動きで、バイオンへと迫り押しかかるように両の手を突き付けた。

「はっ! テメェがそうか!?」

 その両の手に自身の両の手を合わせて、バイオンと大きなトロールが押し合いになる。


 二人の力比べは互角である。

「やるじゃねえか!」

 バイオンは鉄仮面で頭突きをした。

 むき出しの腹に、その一撃を食らった大きなトロールは痛みに後ろに下がった。

「い、いてえ!?」


 そのまま床に倒そうとするバイオンだったが、そこに袋が投げつけられた。

 鉄仮面にぶつかり袋が破れると、中から火のついた爆竹がいくつか飛び出る。

 バイオンの顔の前でそれが火花を散らして、音を立てた。

「あ、あち、うるせえ!?」

「ついでにこれでも喰らえい!」

 老人のトロールが魔法を使う。液体がバイオンの顔に飛んだ。

 右手のガントレットで防ぐバイオンだったが、それは異臭を放った。

「なんだ臭え!?」


 左右からの思わぬ攻撃に、たじろぐバイオン。

 倒れかかった大きなトロールが、そんなバイオンを蹴り飛ばす。

 バイオンは小屋の外へと転がりだされた。


「よし、デカ兄弟は壁の無い小屋の裏から出ろ! 俺とジジイ兄弟は窓から出て別行動、森の中で攪乱するぞ!」

「よかろう」

「わか、ったあ」

 三人のトロールは、それぞれ動き出した。




 トロールの小屋に戻ったバイオン。だがそこには誰もいなかった。

「逃げられたか?」

 ランプの明かりのついたままの小屋を出て、バイオンは周囲を見渡す。


 すぐ近くに女性のすすり泣く声が聞こえた。

 バイオンがその場所へと近寄ると、赤い髪の女性が木の陰で泣いていた。

「なんだ、テメエ?」

「うううう、そこの男の人、助けてください。実は悪いトロールに私は攫われて……」


 振り向いた女性は綺麗な赤い髪と綺麗な目、そして長い白い髭を生やしていた。

 バイオンは殴り飛ばした。

「し、しまった、髭を消し忘れておった!?」

 痛みで老人の姿に戻ったトロール。バイオンはその転がる老人へと迫る。


「こいつを味わいな!」

 バイオンの頭上の木の上にいた小さなトロール。暗闇の中、その場所からたくさんの粉を降らした。

「!?」

 赤い粉が鉄仮面の中に入り込み、バイオンは頭を振る。

「目が痛え!? トウガラシか!?」

「ギャハハハ! よく噛んで味わえよ!」

 苦しむバイオンは、怒りのまま側の木をぶん殴った。

 その衝撃で小さなトロールは落下。そしてバイオンの前の地面へと落ちた。

「いてて、あ?」

「死ね」


 拳を振りかざすバイオン。

 だが振り下ろすより先に、巨体のトロールが大きな足音を立てて走ってくる。

 そしてバイオンへとタックルをして、バイオンは地面を転がった。


「よし、いいぞデカ兄弟、そのまま、……ありゃ?」

 小さなトロールは仲間を応援するが、しかし巨体のトロールは苦しむ。

 見れば大きなトロールのその左腕が切り落とされていた。

「い、いでえええ!!?」

「大丈夫か、デカ兄弟!?」


「思わず振りぬいちまったぜ、まあ死んでねえからいいか」

 背中の斧を右手に持ったバイオンは立ち上がる。

 腕を落とされ苦しむ大きなトロール。冷静な顔でバイオンはその姿を見る。

「全部で三人いるのか? これで一体は……あ?」


 大きなトロールは自分の左腕を、右手で持ち上げる。

 そしてそれを自分の切れた左肩にくっつけた。

「な、なに!?」

 大きなトロールの左腕が瞬く間に引っ付く。トロールは腕をグルグルと回して動作を確認する。

 問題ない事をトロールは理解すると、大きな目でバイオンを睨んだ。

「痛かったあ、ゆるさないいい!」


 殴りかかる大きなトロール。

 目の痛みも引いていないバイオンは、そのパンチを防ぎきれずに森の中を吹っ飛んだ。



「くそがっ!?」

 地面に倒れたバイオンはすぐに立ちあがろうとする。

 だがその足に木の根が絡みつく。

「なに!?」

「ほっほっほっ、こんな魔法はどうかね?」

 赤い帽子をかぶった老人トロールが、魔法で木の根を操り絡ませた。

 立ちあがれず、背中から地面にバイオンは倒れる。

 さらにそこに石斧を持った小さなトロールが飛び掛かり、鎖の巻かれた右腕をぶん殴った。

「っ!?」

 小さな斧だが直接叩かれれば衝撃はあり、バイオンは斧を取り落とした。


 そしてウスノロの大きなトロールが、木々を押しのけ大きな足音を立てて走る。

「こ、の、やろう」

 バイオンは何かを腰の袋から取り出した。


 大きなトロールが肘から倒れ込む、ドロップエルボー。

 その一撃を腹に喰らい、バイオンは血を口から噴いた。

 そのまま大きなトロールが、全身でバイオンに乗りかかり押し潰す。

「倒したか!」

「やったな、兄弟!」

 小さいトロールと老人のトロールは、近づき飛び上がって喜んだ。



 バイオンは大きなトロールがとびかかる前に、上空にある物を投げた。

 それはドワーフが作った新型ダイナマイトだった。

 火をつける手間が面倒だと言うバイオンの為に、紐を引っ張るとマッチ式に火が付く様にしたのだった。


 そしてその新型ダイナマイトが、大きなトロールの背中の上で爆発した。



 突然、暗い森に放たれる光と爆音と爆炎。

 背中とはいえ直撃した大きなトロールは、背中をくの字に曲げて口から液体を吹き出し、そのまま気絶した。


 燃え上がる森に、光と音によりショックを受けた小さなトロールと老人トロールはふらつき倒れた。



 意識を取り戻した二人のトロールが見たのは、立ち上がるバイオン。

「……ぶっ殺す!」

 火の手が上がる木々の中、大きなトロールを持ち上げたバーバリアンは、その巨体を投げつけた。


 二人のトロールは落ちてきた大きなトロールの下敷きとなり、そのまま気絶したのだった。




「森の中でやりすぎだ、馬鹿が」

 ラフターがバイオンの側に現れる。

 そして滝のような水が辺りに降り注ぎ、瞬く間に森の火を消したのだった。









 フィーラ村の外れ。夜の鏡の前。

 大きなトロールと、老人のトロールと、小さなトロールが、鎖で縛り付けられていた。

 三人はもがくが鎖は外れない。大きなトロールは足と腕にも鎖がまきつき、倒れたまま身動きが取れなかった。


「くそっ、殺すなら俺を殺せ! 他の二人は解放しろ! でもできれば俺も殺さないで!?」

「ワシがこの三人のリーダーじゃ! 貴様らが何か目的があるなら、ワシが責任を負う! だが年寄りは労わるべきではないかね!?」

「お、おれが二人を、守る、でも、痛いのいや」


 もがき大声をあげる三人のトロール。見た目も大きさも全く違うが、彼らは似た様な性格であった。

 そんな三人を無視して、バイオンはプレゼンに聞く。

「それで妖精を連れて来たが、これで魔法石が作れるのか?」

「えーっと、どうでしょう? 何か違う気がするのですが?」

 バイオンの問いに、首を傾げるプレゼン。

 そこに欠伸をした、眠たげなラフターが代わりに答えた。

「無理だ」

「えっ? 師匠?」

「魔法石が作れるのは特定の妖精だ。トロールからは無理だ。……お前らが突然、妖精のいる場所にワープさせてくれというからトロールの下に送ったが、先に目的を言え」

「すみませんでした」

「なんだよ、捕らえ損かよ」

 謝る赤い少女に、バイオンはため息をついた。


 そんな二人に笑い声と罵声が響いた。

「ギャハハハ、なんだよ間違いかよ! ふざけんなボケ共が! アホ! バカ! マヌケ!」

「ふん、これだから人間は愚かなのじゃよ! そもそもそこの赤い帽子の少女はワシのパクリか? そこのドワーフの髭もワシに似てるな? しかしワシに比べると顔が悪いのお」

「お、お前らバカ、バーカ、バーカ」


 プレゼンは真顔で三人のトロールへと近づいた。

「とりあえず、刻んで粉にしたら、何かの道具に使えるかもしれませんよ?」

「手伝うぜ、嬢ちゃん」

「俺、道具持ってくる」

 プレゼンの意見に、頭に青筋を立てたフィアラルとガラールも賛同した。

『すみませんでしたぁ!!』

 三人のトロールは謝り倒した。


 プレゼンはそんなトロール達を見て、ある事を思い出した。

「そういえば、あなた、そこの老人のトロールさん」

「なんじゃ、ワシのファンの嬢ちゃん?」

「違います!? ……あなた女性に変身できましたよね、髭の生えた?」

「うむ、あれは失敗じゃったが」

「実は私、女性のたくさんの髭が必要でして、またあれに変身してくれませんか?」

「!?」


「い、いやじゃ!」

 鎖に巻かれた老人トロールは、必死に首を振る。

 だがそこに、ドワーフ弟のフィアラルが鋏を持ってきた。

「あなたが変身して髭を切らせてくれれば、それ以上は危害を加えません」

「嫌じゃ! ワシのようなトロールにとって髭は大事なポイントなんじゃ! 変身なんぞせん!」

「傷めつけなきゃわからねえか?」

 ラフターの回復魔法を終えたバイオンが、拳を鳴らしながら近づいた。

「ひいっ!? た、助けてくれ、兄弟達!?」

 老人トロールは首を振って、二人の兄弟を見る。

 だが小さなトロールと大きなトロールは、顔を逸らした。

「悪いな兄弟。髭で命が助かるなら」

「あ、あきらめて、くれ、兄弟」

「見捨ておるのかぁ!?」





 その後、女に変身したトロールは、泣きながら髭を切られた。



 ラフターが魔法陣から、元の場所に戻そうとしたがトロール達は断る。

「俺達。あの辺りで狂暴なモンスターが出るから、離れる所だったんだよ」

「そ、それに、おまえに、家を爆破、された」

 そう言って大きなトロールは、小さなトロールと、泣き続ける老人のトロールを肩に乗せて森へと去って行った。

 『もし人間に怪我をさせたら討伐する』とラフター達に別れ際に約束して行ったのだった。



 それからこのセンターナの国中で、巨人と老人とチビの三人の醜いトロールにより、人間達の物や食料が盗まれたり驚かされる事件が起こるようになった。

 だが決して怪我はさせてないので、ラフター達は少し悩んだ後に無視する事にした。

 フィーラ村の村長が頼みに来ても、「そのうち」と言って断った。

















「くそっ!」

 あるドワーフの地下王国。

 そこのある一軒の家のドワーフが怒っていた。

 理由は馬車で運んでいた酒樽の一つが、取られたからである。

「盗まれちまった、くそったれ!」

 背の低い老人は酒を飲みながら悪態をついていた。


 そこに二人の少年少女が訪ねる。

「あの、すみません」

「ああん? なんだ人間か、珍しい。今は気分が悪い、帰れ」

 酒に酔っぱらいながら、ドワーフは追い払おうとした。


 その言葉に怒った少女が食って掛かる。

「ちょっと! トラトの話ぐらい聞きなさいよ!」

「や、やめなよ、フレンデ」

 茶髪の少女を、優し気な銀髪の少年が止める。

 酔った赤い顔でドワーフは二人を見た。



 しかしそれを見せられた瞬間に、ドワーフの男の酔いが一気に冷める。

「!? お、お前、それは!?」

「あのドワーフさん、すみません」



 少年が見せたのは金色に鈍く輝く金属だった。

「このオリハルコンという石を、ドワーフさんなら加工できるかもと、聞いたのですが……」



 バイオンは新型爆弾を入手した!


トロール:北欧の妖精、地域によって見た目が違う。デンマークでは赤い帽子と白髭の老人、ノルウェーではいたずら好きの小さな妖精、他の地域ではのろまな巨人とか色々な姿。最初は巨人で行くつもりだったが全員出す事にした。

オリハルコン:ギリシア等の文献に登場する、幻の大陸アトランティスにあった金属。銅の合金ではないかと思われているが、この世界ではとても凄い金属設定で行きます。



誤字報告、いつもありがとうございます。一応、自分も見直してはいるのですが、見落としが多くてすみません。

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